第74話 再会の従者(20)
「さて、話がまとまったところで色々と聞きたいことがあるんだが……」
僕の話が終わるまで静かにしていたヒルグラムさんが口を開く。
「どこから聞いたもんかあれだが……とりあえず。あんたは誰だ?」
そう言ってヒルグラムさんはアルシファードさんに視線を向ける。当のアルシファードさんもヒルグラムさんを横目に流し見て腕を組む。
「私はさっき名乗ったでしょ、アルシファード=ヴォウハルシータ。王都魔術師だった人間よ。あなたこそ何?王都騎士ではあるでしょうけど」
「俺はヒルグラム=ウェンティコ。こないだなったばかりだが王都騎士だ。ラングとは一緒に旅をした」
ヒルグラムさんがこちらを見たのに合わせてアルシファードさんの視線もこちらへ向く。
「ええ、と。アルシファードさんはヒルグラムさんと旅した後の雇い主さんで、ヒルグラムさんは先生に鎧を作ってもらったんでしたっけ……?」
なぜかヒリついている二人の視線を受けてしどろもどろに説明する。ヒルグラムさんとアルシファードさんは一応納得したように頷いたもののなぜかちょっと不機嫌だった。
「自己紹介はもういいか。今後の話をしたいのだが」
「あ、はいっ」
座ったままのレコンキングス王はそういって僕らを見上げる。なんというか、この部屋に来てから王はあまりに雰囲気が違いすぎて調子が狂う。なんというか、覇気がないというよりもーー
(なんだか、全部諦めた後、みたいなーー疲れ切った雰囲気なんだよね……)
そんな事を思いつつも僕は王に向き直る。僕を挟んで左右に並んだアルシファードさんとヒルグラムさんはさっきまでとは切り替えているようで険悪な雰囲気は引っ込んでいる。ただヒルグラムさんの隣で緊張しきっている様子のアナイさんだけが気がかりだが。
「さて、まずお前たちに伝えておくがこうして私とお前たちがつながっていることは公にはできん。どこにどう影響するかもわからんし、お前たちが狙われる可能性もある。なので、お前たち四人は王都内での強制労働、という形で処罰する」
「そ、そんな!それじゃ先生への対策も……!」
「焦らないの坊や。話は最後まで聞きなさい」
思わず声を上げたところをアルシファードさんに諭される。レコンキングス王も頷いて僕を見た。
「そのとおりだ、ラング。あくまでそれは表立ってのこと。労働先として地下に建造してある魔術工房を指定する。お前たちはそこでマコト=ゲンツェンへの対抗策を考えてくれ。通信も出来るようにしておく」
「な、なるほどそういうことだったんですね……」
胸をなでおろす僕の隣でヒルグラムさんが腕を組んで考え込む。
「そいつはいいが……俺は魔術の研究なんぞ役に立たないぞ?簡単なものは使えるが、多分新しいのは覚えられんし……」
「私もまだ見習いですし、お役に立てるか……」
不安そうにアナイさんも手を上げる。確かに、魔術工房というのには入ったことがないが魔術に精通しているのはアルシファードさんだけだ。
「工房はあくまで拠点よ。そも魔術がマコト=ゲンツェンに効くかもわからない以上、私たちはあの人の力の構造を解明し、効果があるものを用意しなきゃならない」
「それも、その神様みたいな人がここに到着するまでに、ですか……」
アナイさんの言葉に僕も頷く。
「先生が王都に着くまで、僕との旅の予定で行けばあと十二日程度。もう少し早いかもしれません」
「短すぎるな……仕方ない、王都騎士を派遣に出す。居所探しと足止めくらいにはなるだろう」
王はそう言って机に広げた用紙に魔術で何やら書き込んでいく。その様子を見ていたアルシファードさんが、壁に張られた紙へ視線を移す。
「ともかく処遇はわかった、なら早速移動しないと。ここに居続けるのも困るでしょ。それとあなたの研究資料は私達のところにも回して頂戴ね」
「ああ。そろそろ、居座るにも限界のようだしな」
アルシファードさんの話に頷くヒルグラムさんがちらりと右手側を見る。隣に立つアナイさんが、立ったままで船を漕いでいた。
「ああ、緊張が切れたか。そうだな、この後の仕事も多い」
レコンキングス王も頷き椅子にかけていた外套を羽織り直す。そうして、玉座の間に戻った僕らは王の命により魔術工房へと送られることとなったのだった。
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