第61話 再会の従者(7)
目の前の初老の男性、ガンドルマイファと名乗った男を、じっと見る。
「アルシファードさんの……お父さん……?」
「そうだ。といってもあいつは十歳のときに王都の奴らに拐われたから、それまでしか面倒は見れてねえがな。以来ずっと、あいつのことを探してる」
そう話すガンドルマイファさんは苦々しそうな顔をしていて、周囲の男たちも沈痛な面持ちだ。
「あの、質問を。この船って、ガンドルマイファさん……の、船なんですか?」
「ああ、俺のだ。もう四十年こいつと一緒だ」
確かアルシファードさんもブラックリベリオンは両親の持つ船と同型だと話していた。王都に拐われた話も、聞いていたものと一致する。
(嘘はついてなさそう、だな)
とりあえずその点は信用して良さそうだ。であれば、この人たちの要求は簡単だろう。
「で、だ。お前……アルシファードとはどこであった」
「マウリアの街で。その後ダイアストへ向かいました」
ガンドルマイファさんの言葉に正直に答える。と、彼はふっと優しい笑みを浮かべて踵を返した。
「嘘は言ってねえな。客人だ、食堂にお連れしろ」
彼の言葉に従って、部屋の隅に居た男たちは僕を取り囲んで移動を促す。されるまま歩き出した僕に、髪のない男が寄ってきた。
「手荒で済まなかったな。俺はジョンベータ、船長の補佐をやってる」
「……じょん、べえーー」
「ジョンベータ、だ」
口慣れない言葉でつい言い淀んでしまったのが気に触ったらしい。一睨みされて押黙る。
「船長は娘さんについてのことは最優先で動けというんでな、お前を逃がすわけにはいかなかった。逃したとありゃ俺たちの首が危ない」
なるほどそれで誘拐を……
「もっと穏便な方法でも良かったような……」
「……慣れてる手段のほうが確実だろう」
慣れてる、と言ったか。人攫いを?
聞き間違いかとも思ったが、確認するのも怖くて結局そのままにした。そうこうしているうちに僕は彼らの案内で閉じ込められていた一室から一階層上がって、広々とした食堂へ連れてこられた。
食堂は二十人くらいはいっぺんに座れそうな大きなテーブルが中央に置かれ、壁には様々な絵画が飾られていた。一見するとお屋敷の会合場所のような豪華さだ。
「まあ座ってくれ。ええと……名前は」
「ラングです」
「そうか、ラング。まずは済まなかったな。部下が手荒い真似をした。あまり交渉ごとには向かん連中でな……」
そう言いながらガンドルマイファさんはテーブルの端、入り口と真っ向から向かい合う席へ腰掛ける。他の席とは椅子の仕立てもまるで違って、どうやら彼専用の席のようだ。
「あの……ガンドルマイファさん」
「ん、ガンドでいい」
「……じゃあ、ガンドさん。この船の皆さんって、何をしてる人たちなんですか……?」
先程のジョンベータさんの言葉といいこの部屋の作りといい、どうにも気になる。そこをはっきりしておかないと迂闊に何も喋れなかった。
ガンドさんはふむ、と蓄えた髭を撫でながら答える。
「俺達は、海賊だ」
その答えを聞いて、首の後を冷や汗が伝う。危機は、終わっていない。
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