あゝ、憧れのデビュタント
Ryo
01
それもそのはず。
彼は、自称作家の卵にすぎない――今はまだ。
本名は、
良太にいわせれば、彼の人生は惨憺たるものだったらしい。
小学校時代はできたはずの友人が、中学のときにはできなかった。
高校時代も同様。
良太の記憶が正しければ、小学校時代は特に何もしていないのに自然発生したはずなのだ、友人は。
だから中学生になり、入学式が終わったとき、ただ座して待った。
クラス中がそれぞれ、気になる子や気の合いそうな奴のところへ行って打ち解けていくのを、ただ見ていた。
そのまま、1週間が過ぎ、1か月が過ぎ、気づけば1学期が終了していた。
良太は夏休みを1人で過ごす羽目になった。
いや、これは誤解を生む書き方かもしれない。
訂正しよう。
夏休み以降もずっと1人ぼっちだった。
特にいじめられるという展開にならなかったのは、不幸中の幸いと言える。
良太の唯一の友は、小説だった。
図書室で借りられるタイトルをあらかた読み尽くすと、小遣いで買って読むようになった。
小説の世界は無限に思えた。
手のひらに収まってどこへでも持ち運びができ、ゲーム機のように電気も専用の機械も必要とせず、めくるめく冒険の地へと連れて行ってくれる……。
いつか自分も作る側になってみたいとは思いつつも、ついに文芸部へ入らずに終わった。
高校生になろうとする良太は、さすがに同じ轍は踏むまいと思った。
座して待っても友は湧いてこない。
自ら動いて友を得るのだ。
志だけは立派ではないだろうか。
しかし悲しいかな、中学3年間のソロ活動は、良太のコミュニケーション能力を完膚無きまで退化させていた。
人とうまくやっていく力は、ある意味で筋肉のようなもの。
使い込めば柔軟かつ強靭にもなり得るが、使わず放置すれば強張り衰える。
高校入学初日の良太がいかに無残であったかをあえて記すとすれば、こうだ。
決死の思いで隣人と会話を試みようとするが、相手と目を合わせることができず、小声で「あっ……あっ……」と何度か発しただけで終わった。
隣人は気づかなかったか、もしくは――「キモチ悪い奴」と思って無視したか。
今となっては知る術はない。
結局、高校の3年間も友人がいないまま過ごした良太は、ある受け入れ難い事実と向き合うことになる。
自分は、致命的にコミュニケーション能力がないという事実。
社会に出たら苦労するかもしれない、そう思ったのは序章にすぎなかった。
何だかんだで大学に進学した良太であったが、22歳を迎え来年の卒業が決定しても、就職先を見つけることができなかったのだ。
やむなくアルバイトを転々とする。
正社員ではダメでもバイトならできる……そんな単純な話はない。
コンビニで働けば、愛想がないとクレームが入りクビになる。
厨房で働けば、要領が悪いとクビになる。
パン屋で働けば、客がいるのにレジに出るのが遅いと言われてクビになる。
もう、とにかくクビになる。
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