銀月のソフィー
火侍
プロローグ、あるいは終わりの始まり
────痛い! 痛い、痛い痛い痛い!!!!
声を上げることもできず、心の中で悲鳴を上げる。
全身くまなく痛みに襲われている。あまりの痛みに恥も外聞もなく、涙と鼻水を垂れ流して全身を震わせていた。
地面に倒れ伏した体にぬるりとした感触が伝わってくる。生暖かくて、
滲む視界の先には妹が倒れている。目は開きっぱなしで、曇りガラスのように何も映していない。艶があった長いピンクベージュの髪はべっとりと血がこびりつき、全身の肌も血が抜けたかのように青白かった。
そして、腹の下から先に何もない。本来、足腰が生えているはずの部分はピンク色と赤黒い断面しか残さず夥しい量の血を垂れ流していた。
この有様だ。何が勇者だ。
庇った妹は下半身と上半身を分断されて死んだ。一方の少女は恐怖に駆られてその場から動けず、背中から襲われて血を垂れ流して倒れている。
妹を失った悲しみと、確実に迫る死の恐怖と、肉体を襲っている痛み。それらに囚われた少女は、ただ体液を垂れ流すだけの人形となり、この惨劇を作り出した相手に絶好の機会を与えてしまう。
「……いっ、ぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!?!?!?!?」
後頭部に鋭い痛みと圧迫感。噛まれているのだ。理解した途端、それまで声を出せなかっ少女の喉から絶叫が響き渡る。
────死にたくない! 死にたくない!! 死にたくない!!!!
この期に及んで生を渇望するなどなんと浅ましいことだろうか。
だが、それも無理はないだろう。生きたまま食べられて死ぬ、そんな体験をして耐えられる人間などいるはずもないのだから、
「うあああああ、嫌だ、嫌だ、ルーシー、助けて!! 助けてぇぇぇえええええええ!!!!」
全身に力を込め相手を振り払おうとするが、圧倒的な力に押さえつけられ逃げることは許されなかった。
「ごめっ、ごめんなさい!! ルーシー、ルーシー! 嫌だ、死にたくないよ、助けッぁぁぁぁぁああああああああ!?!?!?」
相手が痺れを切らしたのだろうか、一層強く後頭部を噛みつけてくる。ギリギリと頭から軋むような音と圧迫感が強まる。あまりの痛みに思考が弾け飛び、少女は獣のような咆哮を上げることしかできなかった。
「がぁぁぁぁああああああああっ、あっ、おおおあああああああああああああッ────」
不意に声が途切れた。
ぐしゃっ、という致命的な音と共に確かに頭が割れる感覚を覚える。
それが、少女────ソフィー・アルバートが認識した最後だった。
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