箱庭ノ天

文月

創世(そうせい)

 彼の魔力は生まれつき……というか、母の胎内にいる時から甚大だった。

 十月十日の半分で生まれ落ち、幼いまま成長を止め、ほかの人々よりも長い年月を生きてきた。

 強大すぎる魔力は、時に彼自身をも傷つける。

 はずみで食器や家具を壊す程度のことは日常茶飯事だったし、溢れ出た魔力のせいで体のどこかしらに不具合があった。

 溢れ出る魔力を持て余し、多くの人々を看取って数百年過ごしたある日、ふと彼は思いつく。

 誰にも邪魔されない、自分だけの世界を作ろう。

 戦争や飢えに満ちた外の世界に希望はない。

 それなら自分だけの、自分のための世界を創ってしまおう。


 まず彼は巨大な入れ物を用意した。

 正方形のその箱に砂を敷きつめ、水を撒く。

 ある場所には厚めに砂を、ある場所には水を貯めていった。

 納得した形が出来上がると、彼は自らの魔力をその作られたばかりの真新しい大地に注ぐ。

 するとどうだろう。

 水溜まりはたくさんの魚が住み着く湖に、何もなかった茶色の砂地は緑が生い茂り、様々な獣が生まれた。

 ものの数分で、生命溢れる美しい世界が出来上がった。

 注がれる魔力は尽きない。

 箱庭の空を巡るように、小さな太陽と月が生まれた。

 太陽が3度目に昇った日、麓に湖をたたえた山に、強い魔力を持った1組の男女が生まれた。

 女は山に留まり、「仙」として山を守った。

 男は山を降り、「術士」として世界を巡った。

 太陽が7度目に昇った日、世界に多くの人間が生まれた。彼らのほとんとが魔力を持たなかった。

 魔力の無い人々は知恵ある者を中心にして、それぞれの地域で暮らし始めた。

 月が11度目に昇った日、2組の男女が仙の住まう山にもたらされた。

 一組は盲目だったが強力な魔力を持っていたため、術士が導き手となった。

 一組は生まれ落ちた時に自らの先をた。人々に交わって生きていくことは困難に思われたので、仙が導き手となった。

 こうして箱庭は完成し、創造主であり管理人たる彼の目を楽しませる。


 さぁ、幕開けだ。

 この極彩色の箱庭を紹介しよう。

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