第3話 お兄ちゃんは渡さないっ! 1

 ルー=リースから決闘のために呼び出された場所は、ハルカの通う中学校だった。


 ハルカは息を切らせながら、自分の通う中学校の校門を通り抜ける。その瞬間、パシンと黒い光が弾け、辺り一面が灰色一色に包まれた。


「相手さん、準備万端みたいよ」


 施された隔離結界を確認し、白猫ベルが「あらら」と溜め息をついた。


 隔離結界とは、黒猫ミサが魔法生物を呼び出すための特殊な空間である。副次的なモノとして、現実世界に影響を及ぼさないという効果もある。


「分かってる、当然とーぜんそーだよね」


 ハルカが緊張したように頷くと、突然上空から声が下りてきた。


「やっと来ましたか」


 黄土色の外套で全身を覆い、大きなフードを目深に被った人物が、螺旋の風に包み込まれるように空中に立っていた。


「ルー=リース、お兄ちゃんを返してっ!」


 ハルカはルーを見上げて、喉も張り裂けんばかりに叫んだ。


「アナタの座席で眠ってます。私に勝てたら教室に迎えに行くといいですよ、ニージマハルカ」


「え、なんで私のコト…?」


 ハルカの疑問に答えずに、ルーはフワッと地面に降り立つ。それから被っていたフードをスッとずり下げた。


 輝くような銀髪をツインテールに結い上げた、青い瞳の少女の顔がそこに現れた。


「あ…あなた、ルリちゃん!?」


 ハルカは目を白黒させて驚いた。


   ~~~


 ルリとの出会いは数日前の日曜日、ハルカがケータと共に訪れた水族館でのことだった。


 一番大きな水槽の前でひとり佇む、自分と同い年くらいの少女の後ろ姿に、ハルカは何故だか強く惹き寄せられた。


「何見てるの?」


 ハルカが声をかけると、銀髪の少女がゆっくりと振り向く。


「ジンベイザメ」


「私もジンベイザメ見にきたの!おっきいよね」


「…そうですね」


 水槽の前で両手を一杯に広げるハルカの姿に、少女は「クスッ」と微笑んだ。


「キミ、名前は?」


 ケータはハルカの横にしゃがみ込むと、優しい瞳で少女に話しかけた。


「ル…ルリ」


「ルリちゃんか、お父さんかお母さんは何処にいるの?」


 ケータの言葉にルリは表情を曇らすと、ゆっくりと首を横に振る。


「え、ルリちゃん、ひとりで来たの?」


 ハルカは「すごーい」と感心した声を出した。


「恩人がこういうのを好きでして、私も見ておこうと思ったんです」


「そうか…」


 ケータは優しく微笑むと、ルリの頭にポンと手を乗せる。


「ルリちゃんが嫌じゃなかったら、ボクたちと一緒に回らないか?」


「え!?」


 ルリはケータに、驚いたを向けた。


「あ、それ賛成さんせー!ルリちゃん、一緒に回ろーよっ」


「ハルカもこう言ってるし、どうかな?」


「…お邪魔でないなら、よろしくお願いします」


 そう言ってルリは、ペコリと頭を下げた。


 その日、ハルカとルリは色々な話をした。


 二人の秘密として、喋る白猫の友達がいるコトも楽しそうに話していた。


   ~~~


「そんな…ルリちゃんが、ルー=リースだったなんて」


 ハルカは蒼ざめた顔で、ボソリと呟いた。

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