第1話 義賊もしくは大悪党
~第二
薄暗い実験施設に、悲鳴と高笑いが
「たっ、助けっ、助けテッ!」
「あーっはっはっは! 許さん!」
足を怪我した研究員の男は、ソレから逃げるため四つん
身の丈2mはあろう大柄な女は、ボディラインを強調する黒スーツ姿でハイヒールをコツコツと
大柄な女は逃げ回る男を
「がはっ……許し、許してくれ……頼む……許し……」
「許さん!! 死んでも殺す!!」
大柄な女は歯をギラリと輝かせながら笑顔で
「仲間の
ラデックと呼ばれた男が暗闇から現れ、大柄な女にタオルを差し出す。短い金髪と切れ長の青い目。普段から部屋に
彼はこんな
「ソイツと俺で最後だ、ラルバ」
ラルバと呼ばれた大柄な女は不満げな顔でタオルをひったくり、返り血を
「こいつで? これで最後? ならばこの怒りはどこにぶつければ良いのだ! これでは死んでいった仲間が浮かばれん!」
「んー……、研究所は他にもあるし……。そこへ行くのは駄目か?」
「他? 外か。ここと似たような感じか?」
「まあ多分大体は」
「よし! 行こう! すぐに行こう!!」
汚れたタオルを放り投げラルバは
その瞬間、赤色灯が真っ赤に光り輝き大音量の警告音が鳴り響いた。
「警告、警告、緊急事態につき
「うるさい。なんだこれは」
「浮島……、良くないヤツだったと思う。止める」
ラデックは近くの端末装置に早足で近づき操作を始める。しかし後ろから近づいてきたラルバが数百㎏はあろうその端末装置を軽々と
「壊す方が早い」
「……なるほど?」
手当たり次第に機械を破壊して進むラルバを、口元に手を当て考え事をしながらラデックがついていく。
「ところでラルバ。さっき仲間の恨み――――とか言っていたが、仲間って誰のことだ?」
「うん? いや、特に意味はない。ただの景気付けだ」
~研究所
研究所を抜け出したラルバは林道の端で寝転がっていた。
「ぐぅ……、頭が痛い……。死ぬのか……?」
「時間壁を無理に止めたせいだろう」
ラデックが木に登って木の実を
「もごもご……ラデック、その時間壁ってのは何なんだ」
「全く知らない」
ラデックが木の実を
「触るな、汚い」
「怪我してるだろう。まあ放っておけば治るだろうが、今はやることもないしな」
ラデックが脚を
「……何をした?」
「俺の
「便利だな。私には
「ラルバは自分のがあるだろう。それに、異能はそう簡単に移せない」
「フン。無能エンジニアめ」
ラルバは悪態をつくと盛大に
「
「さあ、方角さえ見当がつかない」
「お前まさか何の手がかりもナシに言ったのか?」
「研究所がアレ以外にもあることは知ってる」
「研究所の外へ来たことは?」
「本での知識ならそこそこ」
ラルバがラデックの胸倉を掴み激しく揺さぶる。
「貴様!! “役に立つ”って言うから命乞いを受け入れてやったと言うのにクソの役にも立たないではないか! 外に出たことすらないとは! 今すぐ切り刻んでやろうか!!」
「木の実取ってきたじゃないか」
「あんなモノ私でも取れるわ天然猿めが!!」
「研究所に着けば必ず役に立つ。それから判断して欲しい」
ラルバがパッと手を離すと、ラデックは揺さぶられた勢いがついたまま地面に投げ飛ばされた。
「嘘だったらケツに死ぬほどムカデ突っ込んでやるからな」
「ムカデが可哀想だ」
ラデックは
「ラルバはなんでそんなに研究員を殺したいんだ? 勝手に作り出された腹いせか?」
「半分正解だ。作り出されたことによる腹いせではなく、なんとなくムカつくからだ」
ラルバは木にもたれかかり、手でろくろを回すジェスチャーを取る。
「あの研究所にいたやつはみんな悪いやつだろう。私のような人造人間を好き勝手作って利用する、命の
「悪いやつは殺してもいいのか?」
「
ラルバは大きく伸びをする。
「悪い奴なら誰だっていい。研究員じゃなくとも指名手配犯とか悪徳貴族とか、人を困らせて楽しむ奴を盛大に出来るだけ派手に美しく
そんな話をしていると遠くから馬の鳴き声が聞こえてきた。ラルバはラデックの首根っこを掴み茂みへ飛び
「喜ぶといいぞラデック。お前の寿命が少なくとも2日は伸びた」
「嬉しい限りだ」
~
「ここから出せーっ! 出せーっ!」
冷たく薄暗い
森に囲まれた断崖絶壁。
その奥深くの牢屋で
「この縄を解けクソ野郎ぉーっ!!」
「全くうるさい女だ」
集落の酒場では、
「あのデカ女。まだギャーギャー
「宝物庫に忍び込んだ時点で殺せばよかったんだ」
「仕方ないだろう。公開処刑は一応規則だし、皆楽しみにしている」
「処刑日は明日かぁ、今日なら都合がよかったんだけどねぇ」
豪華な料理を
【盗賊の国】
「見ろラデック、盗賊の巣だ。胸が
盗賊の集落に侵入し、見つからないよう高台の屋根に登ったラルバとラデックは
「
「そうなのか?」
「違うのか?」
予想外の返答にラデックは少し硬直して、再び街に視線を落とす。
「
店先には、見すぼらしい子供達が首輪で
「ここは研究所とは違って
「研究所が特殊なんだ。高度な魔法は長年研究しなきゃ
「女が多いな、研究所では男が多かったがどっちが普通なんだ? 」
「筋力で言えば男中心の文化になるはずだが……、黒い
盗賊の女達の中には、黒い痣のような
「私と一緒だな」
ラルバが自分の黒い痣を
「それは
「なるほど……あいつらも
「いや……肌の色が違う。ラルバの真っ白な肌も、本来は彼女達の様な焦げ茶から赤みがかった白くらいまでが理想なのだが……そこまで着手されていなかった」
ふと、ラルバが街の広場を指差す。
「見ろラデック。“公開処刑は2日後”だそうだ」
「見えない。誰の処刑だ?」
ラデックは目を細めるが、ラルバが指差しているのは恐らく500mは先の掲示板に貼られた紙のどれかであり、
「ちょっとまて……えーと、“処刑予定、情報屋ラプー 計1人” 捕らえた
「悪趣味だな」
「全くだ。情緒がない」
ラデックが無言で見つめるとラルバはニヤっと笑って返す。恐らく自分がなぜ見つめられたか理解していないのだろう。
「イイ事を思いついたぞラデック」
そう
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