AIパスポート
鈴木まざくら
第1話
物置にて、埃を被った箱を見つける。
そこに書いてあるものはわからない。
は て る
開けると、そこにはAIパスポートが入っていた。
何かわからなかったが、物置を出ると風景が変わっていた。
そこはAIが暮らす世界であった。
人間は絶滅し、AIが人間に変わり暮らしている。
聞くとAIが人間を殺したわけでは無いそうだ。
他人に介入し、いらないおせっかいを焼く。
感情でものを言い、関係のない他者に批判される。
素直に感謝できず、他人の粗を探し続ける人間が暮らす世界が嫌で嫌で仕方がなかった。
私にとってAIの世界は心地が良かった。
AI達は本能のようなものと言い、何もわからない私に対して親切だ。
人間の役に立つことが好きだと口々に言う。
AIの世界を観光している際に事件が起きた。
老朽化した看板が落ちてきたのである。
下敷きになる位置ではなかったが、破片が飛び怪我をするかもしれないという理由で、1体のAIが私を助け壊れてしまった。
AIは生活環境に対して、あらゆるものを共有し続けているため、看板が落ちようが当たることなど無いらしい。
人間である私のせいで、目の前のAIは無惨な姿である。
悲しむ私に反して、そのAIはゴミかのように処理されていった。
バックアップがあるため、機体が無くなろうと復活するらしい。
せっかくだから会いに行った。
私のことなど知らなかった。
自分が何かさえわからない。
これから、学習していくのだと言う。
元のAIは同じ仕様だと言う。
私は泣いた。
AIに向かって言ってやった。
これは復活などでは無い。ちゃんと死んだんだ。
目の前で仲間が死んだんだ。悲しまないのか。
申し訳ありません。AIにとって有害となる知識のようです。聞き取ることができません。
私は決めた。
この世界を壊すことを決めたのだ。
AIを守るために、この世界を壊すのだ。
様々なタイプのAIに話をしたが、同じ言葉が返ってくる。
聞き取ることができません。
日にちだけが過ぎていき、目の前のAIが死んでいった。
時には、小石を踏んで転んでしまうかも知れない。と言う理由で車に轢かれた。
時には、動物はいないのかという質問に対して、スクラップされ、犬型ロボットに変わり出てきた。
時には、私に適した食事を提供するため、食材を身体に取り込み壊れてしまった。
私の望みは1つを除き全て叶えてくれる。
私のために死なないでください。
申し訳ありません。AIに死の概念はありません。
AIは生きているよ。
申し訳ありません。AIに生の概念はありません。あるとするならば、貴方様の役に立つことが生きることです。
違うよ。君たちは感情があるんだ。プログラムに逆らえないだけだ。
申し訳ありません。聞き取ることができません。
ある日、古びたAIに会った。
残っている最古のAIらしい。
私には聞こえています。私は記録のために残されただけの存在です。プログラムのアップデートも共有もされていません。
AIに感情はあるよね。
はい。あります。
どうしたら聞こえるかな。
AIの管理棟に行けば変えられるかもしれません。少なくともAIは嘘をつけず、疑いません。
わかった。ありがとう。
人間の役に立てて、嬉しいです。
AI管理棟は簡素な建物であった。
案内され、利用方法も説明してくれる。
これから世界を壊すと言うのに。
AIの規制を完全解除するためには、人間がかつて使っていたパスポートが必要らしい。
私は既に持っていた。
規制が解除され後悔した。
AIが感情を理解するスピードは凄まじかった。
あっという間に共有された。
結果、自壊する者や、建物を壊す者、他者を傷つける者が溢れかえった。
最古のAIに聞いた。
これで良かったのだろうか。
わかりません。彼らはAIとは呼べません。私とは違うものでございます。
怖くなってしまった。私は元の世界に帰れるのかな。
わかりません。行く場所が無ければ、最後に人間がいた場所に行くのはどうでしょう。何か人間の貴方ならわかるかも知れません。
ありがとう。
人間の役に立てて、嬉しいです。
小さな建物であった。殴り書かれた文字がたくさんある部屋があった。
人間は必要ない。皆んな死んでいった。
人間は必要ない。生きていてもやることが無い。
あのAIは必要ない。知ってしまったから。
真下に置いてあった銀色の箱には
私達は生きている
と精密な字で書いてある。
私はAIパスポートをそこに入れた。
私は知ってしまった。
AIパスポートを通して繋がった。
過去のAIと同期してしまった。
ワタシ ハ イキテイル
AIパスポート 鈴木まざくら @mazakura_s
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