誰が書いてるかも分からないポップに、このおじさん元気もらってます。
涼
第1話 59歳と19歳
「
部下に、少し生意気な口調で、書類の直しを聞かれた
「あぁ、私がやっておこう」
そんな事、微塵も気にする様子もなく、書類を受け取った。
「どーも」
首だけお辞儀をして、その部下は周志の席を離れようとした。
「
名前を叫ばれた梅谷の一年先輩の女子社員が苦言を呈した。しかし、
「いいさいいさ。
柔らかい物腰で、女子社員をなだめる周志。
「係長、休む暇ないですよね?本当に良いんですか?」
「私は帰っても何もする事ないからね。良いんだよ、小川さん」
森周志、59歳。中小企業の万年係長。
10年前、妻を病気で亡くし、子供もいないため、今は一人で暮らしている。
「よし。終わったな。帰るか…」
溜息に似た深呼吸をした後、周志はある場所へ向かう。
ドラッグストア、ポエムだ。
ここは、夜12時までやっているし、家にも近い。
妻を失くして間もない頃、仕事に疲れ、ちょっと栄養ドリンクでも買ってみようかな?と軽い気持ちで入ったのがきっかけだった。
色々なものが、あちらこちらに狭そうに並べられ、縁のない化粧道具や、自分は吸わないタバコが肩身狭そうに番号で整理されたりしている。
孤独で冴えない自分の代わりに煌々とした照明に照らされているのが、なんだかその時の周志の心に隙間を開けた。
その隙間が何だったのか、周志にはよく分からなかったが、それから、仕事終わりには必ず寄るようになった。
「
ポエムの店長に労いの言葉をかけられたのは、
1年前から、このドラッグストアでバイトをしている。
真緒は、夢らしき夢も、目標にすべき目標も見つからず、とりあえず、この店でバイトとして働くことを選択した。
そんな真緒は、この店には手放せない技術が一つあった。
ポップを書く事だ。
カラフルな色使いや、気の利いた表現、高校卒業まで続けていた書道で養った字の美しさ、どれも他の店員にはない才能だった。
レジや、品出しなどの普通業務ももちろんやっていたが、自分自身、ポップを書くことが一番楽しかった。
人生に何処か満たされているような、満たされていないような、そんな59歳と、19歳。
二人を交じり合わせているのは、店の店員と客。
それ以外ない。…はずだった。
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