つかの間の再会

勝利だギューちゃん

第1話

仕事の帰りに電車に乗った。


ラッシュの時間なので、座れる確率は低い。

でも、座りたい。


なので、特急で帰ることにした。

これなら、確実に座れる。


始発駅なので、窓際が買えるだろう。


「よし、窓側だ」


そして、列車が入り込んでくるのを待つ。

そして、思う。


「同じことを考える人は、いるんだな」


僕は、指定された席に腰を下ろす。

この列車は、始発駅とその少し先の駅に止まれば、後は終点までノンストップで走る。


まあ、所要時間は30分ほどだが・・・


すでに、たくさんの乗客がいる。

この列車は4両編成だが、後、2両は欲しいところだ。


そして、唯一の停車駅に止まり、ここでも人が乗ってくる。

そして、僕の隣の席には、女性の方が腰を下ろす。


と思いきや、立ち止まっている。


(俺、間違えたか?)


その女性を見上げる。


「久しぶりだね。鈴本くん」

その顔を見て、驚いた。


高校時代の同級生だ。

あまり、人の顔を覚えられない僕だが、この人の顔は忘れない。


なぜなら・・・


彼女は、腰を下ろす。


「鈴本くんは、今何してるの?」

「サラリーマン。川原さんは?」

「私は、旅行会社。手紙出したけど」


そういえばそうだな。

すっかり忘れていた。


相手は・・・

訊かないでおこう。


「それにしても、偶然だね。元気だった?」

「まあね。川原さんは?」

「元気。ありあまってる」


あまり、体が丈夫ではなかったようだが、今のところは何ともないようだ。


「何年ぶりかな」

「卒業式以来だから、5年ぶりか・・・」

「もう、そんなに絶つんだ。学校の子には会ってる?」


川原さんの問いに、僕は首を横に振る。


「同窓会にも、来ないよね?鈴本くん」

「まだ、懐かしむ歳ではないだろ?」

「でも、そうやって、疎遠になっていくんだよね」


去る者は日日に疎しではないが、会わなくなれば、疎遠になる。

友達から知り合いになり、そして、赤の他人にもどる。


今は、川原さんとこうして、再会できた。

でも、今度はいつ、会えるだろう?


「鈴本くん、スマホある?」

「バッテリー切れ」


川原さんは、メモに何か書いている。


「これ、私のスマホの番号とメール。よかったら連絡してね」

「ありがと」

「待ってるから」


でも、僕は連絡はしないだろう。

するつもりもない。


彼女の事は、もう過去の思い出として、心のアルバムにしまっておこう。

おそらく、開けることはない。


そして、終着駅に降りた。

たしか、改札は別方向だ。


「ありがとう」


別れ際に、川原さんが僕に言ったその一言が気になっていた・・・


そしてその意味は、数年後に知ることとなった。


心のアルバムの彼女は、本当にその存在になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

つかの間の再会 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る