サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました27

「というわけでワイルドボルトちゃん。Vも大変なんですよ。えぇ。でもそれ以上にやりがいとか達成感とかで喜びも得られます。みんなにチヤホヤされながらお金が入る! うぅん最高! 一般業務では得られない快感! 選ばれた者にしか許されない愉悦! 絶対特権! いかがですかワイルドボルトちゃん! 私と一緒にV活始めませんか!? 今ならアシスタントとして配信に出演させてあげますよ! そうして知名度にバッファかけた状態で始めればいきなり同接がグン! グン! です! その変わり収益の二割を継続的にいただきたいなと! どうですか!? 悪い話じゃないでしょう!? ねぇ!? どうせなら今から配信しちゃいましょう! アバターは任せてください! いいのありますから! いやっふぅ! これで私も不労所得ぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ突然のあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいあんくろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」




「詐欺まがいの契約を持ち掛けるんじゃないこのクズ。ぶち殺すぞ」


「ピカ次君。見事なアイアンクロ―だが、メイド喫茶はお触り禁止らしいぞ」


「知った事か」


「知ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 最低限のマナーくらいは知っておいてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? ルール無用でやりたい放題の貴方と私いったいどっちがクズか考えてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


「……」


「あ! あ! あ! い、痛い! 捥げる! 捥げますってちょっと! ねぇ! いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!」




 スゲーな。まるでペンチだ。顔ってあんな風に変形するんだなぁ。





「ピカ次お兄ちゃん。やめてあげて?」


「……」




 スッ。




 すんなりアイアンクロ―をときやがった。ピチウの言う事は聞くんだなこいつ。




「イテテ……まったく冗談通じないんだから。よくそれで社会に溶け込めてますね。そんなんじゃ真っ当に生きていけませんよピカ次さん。というか今どうやって生活してるんですか?」


「貴様にいう義理はない」


「まぁた憎まれ口叩いて! 女の子には! 殊更美人には優してくださいよ! 私みたいな美人には尚の事!」


「優しくしてほしかったら口を閉じて二度と俺に話しかけるな」


「ほらぁ~~~~~~~~~~~~~~そういうとこそういうとこ~~~~~~~~~~~~~~! 駄目よそんなんじゃ~~~~~~~~~~~~ツンツンしてると最後は誰も寄ってこなくなるんですからね~~~~~~~~~~~~~~?」


「ムー子の言う通りだぞピカ次君。少しはスマイルとコミュニケーションを学んだらどうだ」


「俺には必要ない」


「そうは言うがお前、ピチウの代わりに代を継ぐって言ってたじゃん。そうすると界隈にいる人間の相手しなきゃだし、里の人達とも付き合っていかなきゃいけないんだぞ? 今の状態でやっていけると思うか?」


「……」


「なんだ想定してなかったのか。大変だぞ田舎の付き合いは。下手するとムラハチで住めんようになってしまうからな。家は権力あるけども、当代がコミュ障ムーブかましたらそれだけで地盤が危うくなるんだ。そうするとピチウが呼び戻されてごっちゃごちゃになった状態を立て直さないといけなくなるんだぞ。その辺分かっておいでかぁ?」


「……努力はする。しかしそれはあくまで家での事。こんなところでこんなクズ相手に対応する気はない」


「まぁ一理ある」


「ない! ないですよピカ太さん! 一理もないです! 私のどこがクズだっていうんですか!? 撤回を求めます!」


「まぁまぁムー子ちゃ~ん。いいじゃないそんな事どうだって~」


「そんな事!? どうだっていい!? はぁー! クリスタルちゃんまでそっち側に立ちますかぁ!? 戦争ですねこれは。えぇ、戦争。断固として戦いますよ私は」




 敗北必至だがいいのか? 止はしないが損しかしないぞお前。




「あの~いいですか?」


「どうしたの~ワイルドボルトちゃ~ん」


「あの、まぁ、確かにやりたい事とか、将来の事とか考えた方がいいような気はするんですが、やっぱり私はお家を継ごうかなって思います」


「何故だ。お前が縛られる事はないだろう」


「いやぁ、別に縛られてるつもりはないんだけど、でもまぁ、考えてみると返って縛られていた方が個人的には嬉しいかなぁって思うんだよね」


「なんだと?」


「だって、縛られてるって、いってみれば家族としての絆があるって事じゃない。私、やっぱりお母さんとお兄ちゃん達が好きだし、お父さんだって、あんな事されたけど嫌いになれないの。それで、家族って大事だなって思って、皆を大切にして、いつか子供を産んで、それで、新しくできる家族も大切にしていきたいなって、お家を守っていきたいなって」


「……」


「ピチウ……」




 健気な奴……その優しさ! 心意気! 立派! 素晴らしい! とてもじゃないが俺の妹とは思えん! 畜生どうしたってそんないい子にそだっちまったんだいまったく! なんか俺がゴミクズみたいに思えちまうじゃねぇかよぉ! 感動と劣等感が同時に押し寄せてくる! 



「ピカ次君! 飲もう! ピチウはもう立派な大人だよ! 俺達がどうこう言うもんじゃねぇ! 自分の考えを尊重してやろうぜ!」




 さすがのお前もそう思うだろう!? なぁ! 認めようぜ! ピチウの意思を!




「……駄目だな」


「ちょ、お前、ここはもう感動的なシーンで〆って感じじゃん! 何が気に入らないんだよ!」


「言いたい事は多分にある。百歩譲って家督を継ぐのはいい。だが家族のくだり。そこは許せん。俺は認めん。ピチウに男など認めるわけにはいかん」


「おいおい昭和のクソ親父かぁ? さすがにそこまで過保護かつ過干渉だとドン引きなんだが。だいたい子供生めなかったらピチウで末代になっちまじゃねぇか。どうすんだよう家系はよぉ」


「そんなものお前がこさえればいいだろう。次期当主はピチウ。その次はお前の子供だ。よかったな。場合によっては摂政になれるぞ」


「だったらテメェの子供作れや!」


「俺は女に興味がない。お前がやれ」


「俺も同じだっつーの! というかお前が継ぐ事になったらどうするつもりだったんだよ!」


「だから、お前の子供が次期当主になるんだよ」


「自分勝手な計画に俺を組み込むんじゃねぇ!」

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