サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました20

「なになに~? ワイルドボルトちゃんのお家ってなにやってるの~?」


「あ~……えっとぉ……お寺? 神社? 陰陽師? 的なあれです。はい」


「へぇ~凄~い。占いとかやってるの~?」


「あ、はい。一応、世にいう易の類なら」


「そうなんだ~今度占ってよワイルドボルトちゃ~ん? 幾らくらいかかるの~?」


「あ、うちのはちょっと高めなので、簡単なものでよければ無料でしますよ」


「駄目だよそんなの~仕事を安売りしたってろくなことにならないんだから~ちゃんと払うからさ~? ね~?」


「……あの、本当に高いですよ?」


「大丈夫だって~私だって~フリーターみたいなものだけどそんなに貧乏なわけじゃないし~一万くらいだったら出すよ~?」


「……あ、えっと~」




 ピチウが困っている。しゃあない。ここは俺から事実を伝えてやるか。




「すまんクリスタル。我が家系は由緒正しく政治家なども利用している事から、洒落にならない金額が発生するんだ。桁が足りない」


「え~? 十万ってこと~?」


「一千万だ」


「いっ……」


「……」


「マジなの~? ワイルドボルトちゃ~ん」


「はい……」


「馬鹿みたいに高いだろ? ただし効果は絶大でな。幾度日本の有事を回避してきたか分からん。とはいえ、占いに税金を使っているとなると国民の反発が厳しく、現代じゃ誤魔化すのも難しいから使途不明金のうちの一つになっていて先生方もご無沙汰らしい」


「へぇ~なんか凄そうだね~でも~いっちゃ悪いんだけど~。確かに血税が占いに使われてるなんて知ったら私も怒っちゃうかも~」


「真っ当な国民ならそう思うだろうな。しかし、それを承知のうえで未だに依頼がくるんだ。少なくなったとはいえな。効果は推して計るべきだろう」


「……」


「まぁそれだけに占い相手も選んでいて、基本国益のために尽力するような人間じゃないと受け付けないらしい。一般の方はご遠慮願っている状況だ」


「……そんなのをタダでやろうとしてたの? ワイルドボルトちゃん」


「いやぁ? ほら、当たるも八卦当たらぬも八卦っていうじゃないですかぁ? 確かにお母さんは皆中なんですけどもぉ、私はまだ修行中の身なのでぇ」


「とはいえその辺の占い師とは段違いだろう。一千万はいかないにせよ、その半分くらいの価値はあるんじゃないのか?」


「うーん……」


「半分でも五百万か~。でも、結果は折り紙付きなわけで~……これは岐路かもしれない……仕事の話もなんかトントン拍子で進んじゃったし、私今これキてるのでは? 今後のモデル生活を占ってもらって成功の秘訣を聞いた方がいい気がする……! 五百ならなんとか……!」


「やめておけ」


「え?」




 ピカ次君。意外とお喋りだな……




「ピチウの易は恐らく当たる。精度だけなら当代に引けを取らないだろう。ピチウの術師としての性質は、読み解く。探す。予見するといった能力に向いているからな」




 へぇ。そうなんだ知らなかった。




「ただし女。仮にモデルの道を諦めろと言われたらお前、その言葉に従うのか?」


「それは……」


「さっき諦めようかと言っていたが、諦められないから今バイトをして生きているんだろう?」


「……」


「ピチウの占いは当たる。だからお前がモデルとして成功しないと言われれば確実にそうなる。だが、会って数十分しか経過していないが、お前はそれでもモデルとして生きていく道を選ぶだろう。違うか?」


「……そうだね」


「であれば五百万払うけ無駄だ。合理的じゃない。その金を別の所に使うべきだな」


「……」





 なにこれ? カウンセリング会場? だったら個室の方がよくない? こんな込み入った話聞いちゃって大丈夫? 大丈夫じゃないよね? ねぇ? 聞かされるこっちの身にもなってくれよ。なんか微妙な空気感じゃん。なんかグラス空なのに頼みにくい雰囲気になっちゃってんじゃん。飲まなきゃやってられない感じなのに全然酒がねぇ。ちょっとピチウに目配せして酒だけいれてもらおう。おーいピチウー。酒じゃー酒をくれー。




 チラ、チラチラ。パチリパチリ。


 ……




 あ、駄目だわ。目が合わないな。なんかこの空気に呑まれてあたふたしてるわ。そりゃそうなるよ突然人生劇場が始まったらさぁ。日曜昼にウキウキで昼食とってたら突然神妙なナレーションでにっちもさっちもいかない人を追うドキュメンタリーが流れ始めたようなもんだよなぁ。困る困る。めんどくせぇなもう。




「こんなところで電話相談室みたいな話をしてもしょうがない。そんな事より酒をくれ酒を今度はハイボールで」


「あ、は~い。りょうか~い。ごめんねワイルドボルトちゃ~ん。やっぱり、占いはやめておくね~?」


「あ、はい。私もその方がいいと思います」




 ふぅ。ひとまずこれで流れは戻った。いいんだよ真面目な話は! 聞いてるだけで疲れるんだから! もう頭馬鹿にして酔っ払お!




「……ところでピチウ。話が逸れたがお前、将来的にどうしたいんだ?」


「え?」




 え?




「このまま家を継ぐ事に抵抗はないのか? やりたい事はないのか?」





 相手を変えて第二ラウンドー!? お前は飲み屋でバイトの子に説教する親父かぁ!? やめろよそういうムーブはよぉ!

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