サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました3

 ……一旦冷静になろう。

 メイドカフェなんて微塵も興味がないうえ、これから行くのはムー子が接客する店。つまり、入れば即座にムー子とランデブーなわけだ。あいつの事だから客がいよういよまいがお構いなしに俺を弄りにくるに違いなく、精神衛生上大変よろしくない事態になるのは必至だろう。考えれば考える程脱力無気力倦怠感のジェットストリームアタックで自律神経がマチルダさんのミデアよろしくブッ潰れちまう。そして、いざ入店すると多分死ぬか犯罪者になるかの二択を強いられるんだ。即ち、ムー子を殺すか俺が死ぬか。誇りか裏切りかしか答えは答えはないだろう。死神が貴方の側に佇む限り……



 どうしよう。一人で行くのが途端に心細くなってきた……でも一緒に行ってくれる人間なんて俺には……




 ……心当たり一人。




 スマフォタップタップ。

 電話帳。タップタップ。

 通話。


 トゥトゥトゥ。

 トゥトゥトゥ。

 トゥ……トゥルルルルルル。トゥルルルルルル。トゥルルルルッ!




「あ、もしもし? 俺だけど、ちょっと大事な話があんねん。今から言う住所に来てほしいねん。え? まぁそれは後程……いいから! ともかく住所言うぞ? えっと、ビラビラ……あぁ、あったあった。あ? なに? いいんだよ細けぇ事は。え~~~~っと……○○区○○。○○の三丁目七番地。うん。近くに今日オープンしたメイドカフェがあるから、そこの前で集合って事で。あ? いいんだよ分かりやすいんだから。じゃ、よろしく~~~~」




 トゥルリン。



 通話終了。手札より信頼の瓦解を発動! このカードは一ターン後手札からモンスター一体を特殊召喚する事ができる! ターンエンドだ!




「ピカたさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!? まだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? まだですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? なんか扉の向こうから話し声とか聞こえたんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 誰ですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」




 うるせぇなぁ耳敏く盗み聞きやがって。




「ピザ注文したんだよ」


「ピザ!? これから私と同伴出勤だというのにピッツァをご注文!? どういう了見!? 皆目分からない! 皆目!」


「俺の代わりに働いてくれている会社の仲間たちに差し入れしたんだよ。着払いで」


「それって嫌がらせじゃ?」


「そんな事はない。みんなピザ大好きで食べたいけど仕事が忙しくて注文できないだけなんだ。だから俺が代わりに電話してやったんだよ」


「そんな、亀のニンジャじゃないんですから」


「あいつらニンジャっていうより普通に武闘家だよな」


「そんな百万回擦られたようなツッコミはいいんですよ! 早く! 早く着替えてください! 準備を完了させてください! でないと本当に遅刻してしまいます! デスペナルティになってしまうんです!」


「へぇ面白そう」


「面白そう!? デスペナルティ! デスペナルティですよピカ太さん! 私死ぬんですよ一回! 信じらんない! 命をなんだと思ってるんですか! およそ関わりのない人間を殺す時……! ピカ太さんは! ピカ太さんは一体何を考え! 何を感じているんですか!?」


「別になにも」


「クズ~~~~~~~~~~~~~~~~! もういいです! よぉっく分かりました! そんな態度するなら今すぐお部屋に失礼サンバでアミーゴしちゃいますからね! そぉれ! ドアノブ回転一跳び! 消えてなくなれ理性と感情の境界線! はい! ガチャリ~~~~~って既に着替えてらっしゃる~~~~~~~~~~~!」


「丁度今着替え終わったところだ」


「いや、そこはなんか、こう、あるじゃないですか。パンツ履いてる途中とか、シャツ脱いでる途中とか」


「お前が“ピザ!?”って言ってる辺りにはもう着替え終わっていたわ」


「かなりの序盤じゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? だったらなんで早く出てきてくれなかったんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「いや、外出たくなくて」


「引きこもりの返答! もういいです! 着替えたらさっさと行きましょう! 時間がもったいない!」


「あ、俺お腹空いてんだよね。道中居酒屋寄ってっていい? 二十四時間営業のチェーン店が駅前にあるんだが……」


「いいわけないじゃないですか! 確実に出勤時間に間に合わないうえ私も飲んで出勤できなくなっちゃいますよ! いい加減にしてください」


「飲まなきゃいいだろ」


「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!? ピカ太さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 私に! 居酒屋入って! お酒飲まないなんて選択肢! あると思いますかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「いや、知らん」


「知っといてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! そこは知っといてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! そこそこ長い間一緒に暮らしてるんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 飲むに決まってるじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 私が居酒屋入ったらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! お酒ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ふぅん。どうでもいいけど、そろそろ出なくていいのか? 時間ないんだろ?」


「うっわ! ホントだ! ちょ、マジ! マジでヤバイ! どうしよ!」


「なんで初出勤なのに余裕持って動かないんだよお前は。馬鹿なのか?」


「誰のせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! あぁもう! そんな事言ってる場合じゃない! ほら! ダッシュ! ダッシュですよピカ太さん! 早く! 走って!」


「あ、すまん。俺今病み上がりなんで走れないんだわ。膝痛いし」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? なんなんもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! いい加減にしてくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」


「まぁそう怒るなよ。どうだ? 駅前のカフェで一杯。奢るぜ?」


「あ、本当ですか? やったぁ……って、だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 時間がないんですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ちょっと本当、マジ、いや、マジで行きましょう。本当にもう、お願いします……」



 

 マジでマジなトーンなやつだこれ。しゃあない。そろそろ行ってやるか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る