サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました2

「じゃ、行きましょう! 出勤しましょう! 初来店で初同伴なんて中々レアですよピカ太さん! 他のご主人様相手にマウント取れますね!」


「哀れみの目を向けられる未来しか想像できねぇ。絶対“おっふ、メイドの服着たできそこないと仲がよろしいのですか? ふぉかぬぷぅw物好きでいらっしゃるw”みたいな感じで病人扱いされるよ」


「はぁ~~~~~~? なんですかぁそれぇ? まるで私がネタキャラ枠みたいじゃないですかぁ~~~~~~~~~~~? ヒィッツカラルドの次に美しいこの私がぁ~~~~~~~~~~~~!?」




 ヒィッツカラルドもネタキャラ寄りな気もするけどな。それを言い出したら十傑衆の大半がそうなってしまうが。




「面倒くさいからお前の美醜についてこれ以上語らないが、他のメンバーはいるのか? まさかワンオペってわけでもあるまい」


「そこはゴス美課長が揃えたみたいです。まぁ私は人事について何一つ触れていないのでまったく知らないんですが」


「ふぅん。お前みたいなのが二人三人いたらどうしようかと思ったが、まぁ課長が動いたのなら大丈夫だろう」

 

「確かに私クラスのすたぁメイドがわんさかいたら困りますね、生態系が崩れますよ。えぇ」


「……」



 

 いかん。このままでは体力をもっていかれてまた療養生活に逆戻りだ。馬鹿ムー子の馬鹿な話は一旦スルーしよう。疲れる。どっと。





「とりあえず着替えるから出ていけ」


「え? いいですよ私は別に気にしませんから」


「俺が気にすんだよ」


「またまた~~~~~~~~そんなに照れなくてもいいんですよピカ太さ~~~~~~~~~~~~~~~ん! なんなら私が脱がしてあげますよ~~~~~~~~~~~~~~~~~!? ほら、ばんじゃ~~~~~~~~~~~~~~いってして! ばんじゃ~~~~~~~~~~~~~~~いって!」


「……万歳って、どうやるんだっけ?」


「え? なに言ってるんですかピカ太さん」


「万歳のやり方だよ。お前、知ってる?」


「はぁ? 言ってる意味がよく分からないんですが……万歳ですよ? ほら、こうやって両手を高く上げて……」


「ボディが……がら空きだぜ!」


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」



 荒咬みからの八錆! 京といったらこれと大蛇薙の「くらいやがれぇぇぇぇぇぇ!」だよね!




「か、仮にも女の子相手にボディはやめたってください……」


「悪魔に性別もくそもないだろう……っと、なんだこれ? ビラ?」



 殴った衝撃でヒラヒラと舞い落ちる半紙。いい紙使ってんなおい。



「あ、そこがお店です」



「ふぅん。なになに? “メイドカフェダークネスイリュージョン。今宵、闇の彼方で会いましょう?” 昼から営業してんだろこの店。“今宵”なんてワードは使わない方がいいんじゃないのか?」


「常夜の魔界に繋がっているっていう設定なんですよ。乾杯の時に“冥途へようこそ”って掛け声をする気まりになってます」


「あぁそういうコンセプト……だったらもっと衣裳をそれっぽくしたらいいのに」


「魔界の貴族が運営するメイドカフェなんで一般従業員はオーソドックスな格好ですし、衣裳の作りもしっかりしているんですよ。稀に領主自ら客人をもてなすっていうイベントがあるらしいんですが、その際はデミトリみたいな服着た人がオペレーション入るんですって」


「そこはモリガンじゃないのか」


「風営法に抵触する可能性がありますし、そうでなくても健全なお店なわけですから、過度な露出はご法度です」


「客層を考えるとその方がいいかもしれんな。ところで、そのイベントって毎日やるわけじゃないんだろ? 一日だけ出勤する人間なんてどうやって雇うんだ?」


「あ、そこについては事務仕事兼任してくれる方を募集するそうです。普段は裏方。イベントの時だけオペレーション。正社員待遇でついでに店舗責任者をやってもらうっていってました」


「へぇ。ちゃんと考えてんだな」


「そりゃゴス美課長が運営するんですからね。万が一私がやらされるかもって思って聞いたら“私は倒産RTAをするつもりはない”って一蹴されてしまいました。さすが分かってるなぁと思いました」


「お前はそれでいいのか?」


「もっちろんですよ! 面倒な仕事はしたくないし責任もとりたくない! ほどほどに仕事して自分の時間を優先するのが私の流儀です! 世間体!? 人目!? なんぼのもんじゃい! 私は自分らしく生きていきますよ!」


「そうか。頑張れ」




 清々しい程のクズ発言だがこれくらい開き直れると強いよな。俺も見習お……いや、見習いたくねぇわ。ちょっと共感しちゃったし何なら俺も似たような事やってるけどここまで落ちちゃいないわ。一緒にしないでほしいわ。

 



「そんな事よりピカ太さん。早く着替えてくださいよ。初日から遅刻しちゃいますよ」


「だから早く出ていけと言っている」


「だから! 私は! 気にしませんって! ほら! 私が脱がせてあげますから! ね?」


「……」




 腕まくり。




「お! 観念しました!? 脱ぎますかぁ!? そして一発始めちゃいますかぁ!? メイドプレイと洒落こみますかぁ!?」




 ……リキよ。お前のフェイバリット、使わせてもらうぞ!




一閃! リキ・ラリアット! これが長州力の技のキレだ!




 ぐえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……




 叩きつけて倒れたところを蹴りで部屋の外へ撃退! 悪霊退散! 朝からいい汗かいちまったよバカヤロウ!

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