サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした25

「で、なんなんだよ。嘘吐いた理由ってのは」


「それなのですが輝さん。ここまでの話で不自然な点にお気づきになりませんでしたか?」


「なんだ急に。そういうのいいから早く答えろよ」


「まぁまぁいいじゃないですか。あるでしょう。変なところが」


「んな事言われもなぁ……プラン、何か分かる?」


「……一部、悪魔の視点かの如く語られている箇所がございました」


「ご明察」


「? 嘘だろ? どの辺り?」


「ピカ太様……どうしてアニメや漫画の考察にはご熱心なのに、こういった真面目な時は全然頭を働かせないのですか?」


「え? すまん……」



 ストレートな悪口! でも事実だからしょうがない。だって興味ないんだもん、仕方ないじゃん。俺はどうでもいい内容は話半分に聞いてるから概要と結論しか覚えられないんだ。新規案件なんてその最たる例よ。だからやらかしてめっちゃ怒られる時もたまにあるんだ。でもウチの業界って割とそんな事当たり前だから気にしたら負け。ノリと勢いって大事だね!



「……なんだか全然悪びれていない様子ですが、まぁいいです……例えば男が老いていくところがありましたよね?」


「あぁ、あったね」


「そこで、“落涙を堪えきれなかった”などという表現がございましたが、これは明確に悪魔側の感情であり当事者しか知り得ない感情です。それをどうしてこの男が知っているのか、不思議ではございませんか?」


「言われてみれば確かに」


「つまりこの男の一族はどこかで悪魔から話を聞いていたという事になりますが、ずっと捜索を続けており、ようやく居場所を突き止めても崩落に巻き込まれたと言います。それでどうやって悪魔の心情を知る事ができたのか……答えていただきましょうか。望とやら」


「別にそこまで大仰な話でもございません。単に日記が出てきただけです」


「日記?」


「えぇ。崩れ落ちた地下の辺りを調査していたらございまして」


「そんな都合のいい事があるわけないでしょう!? 馬鹿にしているんですか!?」



 こっわ。プランがマジギレしてんじゃん。こいつこんなにヒステリックになるのかよ。面倒そうだからなるべく怒らせないようにしてこ。



「馬鹿になどしていませんよ。本当に、崩れ落ちた地下の入り口に大変綺麗な状態で置かれていたんです。これが意味するところ、貴女ならお分かりなんじゃないでしょうか」


「……悪魔が意図してそうなるよう仕向けていた」


「その通りです。恐らく恨み言を伝えたかったのでしょう。広辞苑サイズの日記がズラリと二十冊。中にはそれまでの半生が事細かに記載されておりました。それを解析した結果、逃走劇中の生活を把握する事ができたというわけです。私は読んでいませんが、奴らの落ちぶれていく様がリアルに生々しく記載されていたようで。リアルに作業していた人間は笑いが止まらなかったでしょうね」


「ふぅん。それは分かった。分かったからもういい。どうでもいいし。それより、なんで嘘吐いたの?」


「……聞きたいですか?」


「え? うん。そりゃあ聞きたい」



 聞きたいかといわれたら実はそこまで興味がない。さっさとミイラを渡してホテルに帰り、高めのシャンパンでも買ってでお疲れ乾杯(一人)と洒落こみたい所存ではある。だがプランがそれを許さない。こいつめぇ。



「……彼女が言うように、悪魔はあえて老化を止める術をかけなかった。これは男の要望だそうです。奴は悪魔に対し、人間として愛し、人間として別れてほしいと懇願。悪魔の方は男の願いを叶える他なく、老いていく男を甲斐甲斐しくし世話していったそうです」


「へぇ。でも、それって結構自分勝手な事言ってるよな。そいつがんな事言わきゃ追手から逃げ切れる可能性も高まるわけだし、なんなら悪魔の地元にでも行って普通に暮らせばよかったんだ。随分な綺麗事を並べるなぁという印象を受けるね」


「ピカ太様。ピカ太様は本当に人間でございますか? 発言が悪魔のようでございます」


「現実的かつ責任感が強いだけだ。考えてもみろよ。追われるの分かってて一緒に逃げました。でも悪魔になるのは嫌です。愛した悪魔とは人間のまま死滅したいですつってんだぜ? 都合よすぎだろ舐めてんのか。一つも責任取ってねーじゃねぇーかよこの男」


「まさに輝さんの仰る通りだと私も思います。男の方は、自分が死ねば悪魔は魔界に帰れるから、そこで悪魔同士で子供を作ってほしいとか、短命種である自分がいつまでも彼女の心の中に残るわけにはいかないとか言っていたらしいですけども、そんなもの欠け落ちする前から分かり切ってた事でしょうと私でさえ思いましたよ。後先考えず感情だけで事に及び、挙句自分が死んで全部終わりにしたいだなんて下衆極まった人間性です。自業自得ではありますが、この点だけは悪魔に同乗してやってもいいと考えていますね私は」


「で、なんでこれが口外無用なの?」


「月日の経過とともに美談と化す可能性があるからです」


 

 出会ってはいけないはず二人が織りなす禁断の恋。悪魔を狩る男は悪魔に恋をした……悪魔祓いと恋煩い~永久に続く悪魔の愛~……せーの、悪恋! サイコ―! 全国映画館で上映中。アナタはもう、悪泣きしましたか?




「……確かにクソ映画確定な内容だな!」



 邦画だったらアイドルが主演やるやつだわ。絶対観ねぇ。




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