サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした14
でもいうて常設展示は大した事ないやろ。公民館に毛が生えたような箱でゆるい出土品とか飾ってるだけ……
……思ったよりも広大だな。
ゲートから徒歩で三分。曲がりくねった道を歩けば広場を挟んで建物が三棟。この三棟、どれもかなりでかい。しかもここから結構な距離がある。歩くだけでも一苦労だが、なぁに。どうせハッタリ効かすために金のかからん屋外の敷地を広々と使っているんだろう。この手の施設は中に入れば見せかけだけの張りぼてだって事が証明されるんだ。日本の建築物はみんなそう! ちっちゃくちっちゃくまとめちゃって肝心の屋内が狭いったらありゃしない! 企画が昭和なんよ! だんだんと大きくなっていく体格にも増えていく人口にも対応しとらん! 観光資源で稼ぐつもりならもっとグローバルスタンダードなサイズ感を受け入れていこうよ! そんなだから駄目なんだ! ご意見箱があったらお気持ち投下してやるからな! 「私達の税金なんです! もっと派手に使ってください!」ってな! 俺的にはいいんだよ狭い分には疲れないし! でも子供が! 子供の体験が粗末なものとなってしまうのは許せんのだ! 保護者として! 故に俺はこの張子の虎めいたちゃちな博物館に対して物申してやるのだ! それが正義! それが道理! さぁ今から正面玄関をくぐるぞ!? チクショウ無駄に歩かせやがって! この歩数の数だけご意見の行数増やしてやるから覚悟しておけ!? さぁ入場……
「わぁ! 凄いね! 広い! ドラマみたい! それに吹き抜けだよ! 何階まであるんだろう!?」
「素晴らしいです! この中に重要文化財が無数に貯蔵されていると思うと胸の高鳴りを禁じ得ません! さぁさぁ! 早く行きましょうマリさん! ピカ太様!」
「……」
……広っろ。高っか。
おいおいおい。全然こけおどしじぇねーじゃねーかよ舐めてんの? なんだよこのゲームみたいなデザイン。てっきり貴族の屋敷に入り込んだかと思ったわ。エントランスから左右対称に伸びていく階段のなんとまぁ厳かな事。ここ上るの? ちょっと勘弁してほしいわ。限度があるわ。
「じゃあ上の階から行きましょう! ダッシュ! ダッシュですよ二人とも」
あ、プランのやつ遠慮なしで最高速出そうとしてる。これはまずい。なんとかせねば。
「待てプラン」
「待て!? 待てとピカ太様! この期に及んでまだ私を待たせる気なのですか!? 」
「まぁ落ち着け。お前、貴族の出なんだろう? こういうパプリックな場所で鼻息荒くして見境なく動き回るなんてはしたない真似をしていいのか?」
「そ、それは……」
「貴族なら貴族らしく、優雅にゆっくり、腰を据えて観覧するのが正しい姿勢だと思うのだが、どうだ?」
「……ピカ太様の仰る通りです。申し訳ございません。私、少し我を忘れておりました。お恥ずかしいところをお見せした事、お詫び申し上げます」
「分かってくれればえんや。では、悠々と参ろうではないか。マリ、プランをエスコートしてやれ」
「はぁい」
「マリさん。よろしくお願いいたします」
「うん! よろしくね!」
ふぅ、これで館内で忙しなく動くような暴挙には出ないだろう。やれやれ。こんな場所で高速移動されてみろ。俺の体力なんてあっという間に切れちまうって―の。ここはゆっくり歩いてダメージの抑制に努めさせていただくぜ。さもないと完全に足が死んでしまうからな。
「じゃあお兄ちゃん! 私達先行くからはぐれないようにね!」
「はんなりとした歩法で進ませていただきますので、よしなに」
よしよし。思ったよりも遅いぞあの二人。これなら足早で追いかけなくても良さそうだ。どれ、俺もゆるりと後をついてゆくとしよう。それ一歩、二歩、三歩……階段、思ったよりも辛いな……でもまぁこの程度なら……四歩、五歩、六歩……あ、これきついわ。明確に乳酸菌が蓄積していくのが分かるわ。おいおいただの階段だろ? なんだよこのしんどさ。上ってるだけでガンガンHP削られていくんだけど。ダメージ床でも歩いてんのか俺は。あ、でもこれ三階までっぽいな。ふふ……なんだ……その程度ならはぁはぁなんとかひぃひぃ大丈夫っぽいふぅーっふぅーっ……よ、よし……到着だ……最上階に……お、思ったよりも疲れるなこれ……よかった……プランを野放しにさせておかなくて……もし制御しておかなかったら階段だけで死ぬところだった……が、ともかくとしてこうして無事到着したわけなのだから俺の完全勝利といってもいいだろう。後は適当にぶらつきつつ降下していくだけなわけだし? 既に山を越えたといっても過言ではあるまい。さぁ、余裕綽々で展示物を流し見してやろうか! 多分観てもよく分からんだろうけどな!
「お兄ちゃん。こっちこっち」
「共に参りましょうピカ太様。道中は大勢の方がよろしいですから」
なんかプランのキャラが変な方向にいっているが面倒だからよしとしよう。で、こっちが順路か。どれどれ。どんなもんかなぁっと……
……広大だなぁ。
ここ歩くの? いや、ちょっと厳しくね? いくらゆっくり歩くつっても限度が……あ、いやいや。もしかしてこのフロアだけ広い可能性も捨てきれん、恐らくみんな上から順に観ていくという発想になるはず。であれば、初手でビビらす作戦を取る事も純分考えられる。うん、そうだ。そうに決まっている!
かぁー! こすい真似をしますね博物館さん! 俺はがっかりだよ! かぁー!
「お兄ちゃんはいこれ。案内図だよ」
「あぁ。ありがとう……」
「今私達がいるのがここ。で、順番に進んでいって、ぐるっと回ってから下の階に降りる感じね」
「……スゲーいっぱい部屋あるのな」
「そりゃあ国内最大級の博物館なんだから。これくらいはあるでしょう」
「……」
「さ、ぐずぐずしてないで、行こう? 私、感想文出す事になってるから、全部観ておかなきゃいけないんだ」
「……あぁ」
これを全部回るのか……
……どうやら覚悟しておく必要があるな。
明日の筋肉痛を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます