サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした15
そして始まる鑑賞の道程。ノソノソノソノソと牛歩で進む遅延進行! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうざったい! これは逆に足にくる! もっとスイスイ進捗進めていきましょうよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
「プラン」
「何でございましょうかピカ太様」
「もうちょっとクイックにいかない? ほら、周りの人の事も配慮しないといけないし」
「ピカ太様、ピカ太様は先ほど、貴族らしく優雅に。と、仰ったじゃありませんか」
「そりゃあ……言ったは言ったが、限度ってものが……」
「いいえ限度などございませんピカ太様。貴族の気品はいつもどこでもオーバーフローでございます。推定一億ポイントの貴族パワーを常時発揮してこそ真の貴族。このプラン、お生憎様ですがそこいらの凡百とは格が違いますので」
「お前さっきまでダッシュだのなんだのやってたじゃねーか。なにが貴族パワーの常時発揮だよ」
「昔の事は忘れましたわ! おーっほっほっほ!」
なんだこれ。何故か知らんが完全に高飛車になってしまっている。いったいプランの身に何があったというんだ。
「お兄ちゃん、地雷踏んじゃったね」
「ん? マリ、なんだ地雷って」
「実はプランちゃん、育ちが良さそうだからって文化祭の劇で悪役令嬢役をする事になったんだけど、練習しているうちに妙に嵌っちゃって、たまにあぁいう性格が出るようになったんだ」
「学校の劇で……悪役令嬢……?」
「そ、悪役令嬢。web小説から書籍化した人気作品の劇だよ」
今の学校ではなろう系原作の演劇やってんの? 凄い時代だな。俺らの時代だとハルヒとかブギーポップをやるようなもんだけど大丈夫か? オタクと非オタクの間に埋まらない溝とかできない? なんならオタクの間でも意見割れそうなんだけど。「そっち方面なら転スラにしようぜ!」とか、「小説原作なら俺ガイルとか中二病とかが無難なんじゃ」とか「キノの旅に決まってんだろ」とか普段陰気なラノベオタ増が意見を出してきやがる事確定な議題。立案から可決に至るまで平和にできたのだろうか。興味と不安が同時に押し寄せてくる話だ。
「こうなるとしばらく戻らないから、こっちも付き合うしかないよお兄ちゃん」
「しばらくってどれくらいなんだ?」
「そうだね。博物館を観終わるくらいまでじゃないかな」
「……」
足の死が確定。継続した低負荷運動により時間をかけて毛細血管と筋繊維がブチ切れていく構図ができあがってしまった。俺は明日きっとヘロヘロとなり歩くだけで身体が悲鳴を上げ常に最低モチベーションのまま行動する事になるだろう。そんな状態でマリが希望した水族館に赴かなければならないのかと思うとまったく気が滅入る。くそ、お子様の付き添いなんてするんじゃなかった。家に帰って寝たい。
「ピカ太様! ピカ太様! これを見てくださいまし! 古田織部が作ったとされる茶杓でございますよ! 詫び寂でございますねぇ詫び寂! これお幾らなんでございましょうか! ちょいとそこの係の方! こちら私に売ってくださいませんこと!? 言い値で買わせていただきますわ! 言い値で!」
うわぁいつスタッフに絡みやがった。さすがにこれは謝って事を収めなければ。めんどくせぇなもう。
「すみませんウチの連れが……すぐに……」
ス……ッ。
え? なに? スタッフの方に手でスッと抑えるようなジェスチャーされたんだけど、牽制された? これってつまり、「ここは私が対応致しますから一旦ステイしていただけますでしょうか」って事? うん、どうやらそういう事らしい、この係の人、そういう目をしている。紛れもない仕事人の目だ。いいだろう。男にそんな目をされちゃあ退き下がるしかない。お前の実力、見せてもらうぞ!
「この度はご来館いただき誠にありがとうございます。失礼ではございますがお客様、やんごとなき御家柄の方とお見受けいたしますが……」
「あら、お分かりになりますか? そうですとも私は六大貴族が筆頭家! トモシヒの長子でございます! いずれは家督を継いで当主となる身なればその位は超ロイヤル! クロでもシロにする事が可能な超越一族でございますわ! 故に私の言葉は絶対! さぁ! この茶杓をお売りになりなさい! こちらの小切手に好きな金額をお書きになるがよろしいわ!」
「なるほど……大変高貴な生まれな方である事、よく承知いたしました。私のような市民階級の人間など、お話しできるだけで恐れ多くも光栄なこの上なく、まさに名誉。恐れ多く存じます」
「おーっほっほっほ! そうでございましょうそうでございましょう! 存分に畏まりなさい!」
「しかしながら失礼を承知であえて言わせていただきます。お客様。貴女はクソだ」
「な、なんですかって!?」
「この茶杓は時代を超えて当博物館に貯蔵された逸品。何百年と時代の波を凌ぎ難を逃れて、ようやく一時の平穏を享受しているのです。そんな茶杓を安易に金で買うと貴方は仰る。これは捨て置けません。確かにどこかの識者が勝手に値段を付け数値で測るなどという行為も見られる。しかしそれは下賤の極みと言っても差し支えなく、品性の欠片も感じさせない低次元の行い。金で物の価値をはかるなど庶民、いや浅眠の所業。ましてや札束を積んで買い漁るなど死肉を貪る獣に等しい。お分かりですか? 貴女はいま、それを行っていらっしゃるのです」
「うぐぅ……!」
プランが明らかにメンタルにダメージを受けている。でもその大袈裟なポージングはやめような? 悪目立ちするから。
「お母さーん。あの子何やってるー?」
「きっとラオコーン像の真似ね。そっくりだもの」
ほら見ろ言わんこっちゃない。完全にご家庭のお話しのネタにされてしまっている。勘弁してくれ。この先すれ違ったりしたらなんか恥ずかしいぞ。
「た、確かにその通り。私、貴族の力を誇示するだけに拘り、精神性には目を向けておりませんでした……」
「どうやらご理解いただけたようで。今後は是非貴族らしく振る舞っていただけますと幸いです」
「も、申し訳ございません……」
「それと、館内ではお静かにお願いいたします」
「はい……」
「ありがとうございます。それでは、また何かあればお声がけください」
「……」
……すごいパワーを持ったスタッフだったな。ここに配属されてる奴みんなあんなんなんだろうか。頼もし過ぎるだろ。俺も粗相がないようにしないと。あんなのに注意されたら堪ったもんじゃねぇからな。
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