サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした6

 もと来た道を引っ張られながら移動、エレベーターへ乗り込みフロント到着。



「いってらっしゃいませー」



 受け付けの爽やかビジネススマイル&社交挨拶に見送られ外出。ズダダダダと進みプラットホームから五分間隔で発射オーライされるメトロに乗り込み揺れる事十五分。博物館のある駅に到着。早かったな意外と。どれ、初めて来てみたが……



「なんか異質なオーラが漂っているなここ……」



 タンクトッパー、いかにもな格好をしたイケイケの女、オラついた若者に中東系の外国人。それと普通にスーツ着たサラリーマンが混在するカオスな雰囲気。なんだこれ? 怖いんだけど。ギャングとかに絡まれたらどうしよ。



「博物館は公園の方にあるそうです。さぁ、参りましょうピカ太様」


「お、おう」


「早く行こう! お兄ちゃん!」


「そ、そうだな」


 

 お子様にはこの非日常的なオーラを感じられないのだろうか。よく平常でいられるな。まぁこいつらその辺のチンピラより強いだろうし怖くもなんともないんだろうけども、俺は間違いなく集団でボコされてまうからなるべく隅っこの方を歩いていきたい。

 というわけでヌルッと壁際に避難。えぇっと、公園はどっちかなっと。スマフォポチポチ。あ、あっちね、了解了解……あれ? マリとプランはどこ行った?




「君ら二人? 時間ある? 俺ら今からそこの横丁で遊んでくんだけど、一緒にこない?」


「みんなでチームやってんだけどさ、興味ないかな?」


「え~~~~~~~~~~~どうしよっかぁプランちゃん」


「そうですねぇ」




 ナンパされとるーーーーー!

 今日日小学生ナンパするとかスタンダードなの!? いやないやろ! ないわそんなもん! あ、でも声かけてる男の方も子供だな……小中学生っぽいわ。ならOKか……ってなるかボケ! 止めねば!




「ちょっと! すみませんね! この二人ウチの子で!」


「なんだ、保護者連れか」


「残念だなぁ。あ、そうだ、連絡先交換しない? インスタとかでもいいよ?」


「え~~~~~~~~~~~どうしよっかぁプランちゃん」


「そうですねぇ」


「ごめんね君達! ちょっと時間ないから! また機会があったらよろしく頼むわ! ちょっとスケジュールがタイトなんだわ! 申し訳ないわ!」


「え? 保護者の方必死じゃね? 俺ら怪しまれてね?」


「考えてみたら確かにそう思われるかもしれん。今の世の中何があるかわっかんねーしな。しゃあない。ここはグッバイするしかねぇっしょ」


「そうかもしれん。じゃ、また会ったらよろしくっす」


「それじゃっす。さよなら」




 ……妙に物わかりがよくて助かった。

 服装なんてめちゃめちゃクレイジーだったのに。人は見かけによらんものだな。




「お兄ちゃんって硬いよねぇ。別にいいのに、連絡先くらい」


「そうですねぇ。悪い人達ではなさそうでしたので、お話くらいはしてもよかったかなと」


「俺も彼らの言動を鑑みるとそれはそれでよかったかもしれないと思い始めている。しかし、今日は博物館に行くんだろう? 余所様のチームにお邪魔している場合でもあるまい」


「それはそう」


「一理あります」


「そうだろう。じゃあ公園に向かうから、はぐれるなよ?」


「はいはい」


「oui」




 まったく、こんな土地で好き勝手動かれては困るな。さっきのようなお子様ばかりじゃないんだから気を付けていただきたい。とはいっても、子供の危機管理能力なんてのはたかが知れてるから俺がしっかりしないといけない。万全の状態で保護者としての責務を全うする。それが俺の務めだ。よし、さっきまでは日常モードだった故に抜かりがあったが、切り替えて見守りモードに移行しよう。常に緊張感を気を張り巡らせておけば見失う事などないはず。そうさ、なんたって俺はずっとピチウの面倒を見てきたんだぜ? 長男力を発揮すれば一人や二人の子守りなど容易い……! 




「プランちゃん! 公園まで競争しない!?」



 さぁゆっくりのんびり散歩がてら……え? 競争?



「よろしいですよマリさん。では、今夜先に入浴する権利を賭けましょう」


「いいね! じゃ、よーい……」


「ま、待てお前ら! 公共の場で走ったりしたら他の方のご迷惑に……」


「ドン!」



 ドンしちゃった! まずい! 追わなくては! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ速いんじゃあいつらぁ……

 全然追いつかん……あと足が上がらん……都会に越してきて数年。歩くは歩くが整備された道ばかりだし、エレベーターやエスカレーターを駆使しているもんだから筋力減退の一途を辿っていて子供の体力についていけない……あとあいつら普通に人外だから無理……あぁ……どんどんおいていかれる……




 ヒソヒソ。


 ヒソヒソ。




 ……そして聞こえるヒソヒソ声。

 そりゃジョガーでもない人間が汗だくでゼェゼェと走ってたらヒソヒソもされるわな。しかも遅いし。おまけこれ、公園に近付くにつれて家族連れやら主婦層が多くなっちまっててまぁ不審者を見る目が凄い。こんな生き恥晒すハメになるとはトホホギスだよ。あぁさっきまで空腹だったのにもう疲れで腹も減らねぇ……あ、しまった。博物館行く前に食事するんだった。忘れてたわぁ……でもこんな状態じゃ食べられないよ……胃が受け付ないんだって。激しい運動しちゃうとね、身体がもういう事きかなくなっちゃうの。食べなくていいから休めって脳が伝令を出してくんのよ。分かるかなぁ。分からねぇだろうなぁ。特にお子様には分からねぇだろうなぁ……なんたってなぁ……



「お兄ちゃん! いい感じのご飯屋さんがあったよ! エビフライ専門店だって! ここだったらいいでしょ!」


「先ほど仰っていた日本発祥の洋食でございます」



 食べ盛りだもんなぁ子供ってのはさぁ……

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