サキュバス、この戦争を終わらせに来ました16

「そろそろ終わりか!? もった方だが、こんなものだな! 止めを刺してやろう! さぁ! 死ね!」



 ……手刀……首を刎ねる気か……こっちが満身創痍だと思って緩慢な軌道だな……これなら……!



 !



「……まだ意識があったか。だが、今更何をする事もできまい。俺の腕を掴んだところで反撃する力も術も残っていないだろう」


「そうかもしれんな。だが、俺はやらねばならんのだ」


「くだらん。死ぬ前に小さな達成感でも得たくなったか? ゴミのような考えだ。何をしたところでお前は死ぬし、俺やピカ太の未来が変わるわけでもない。お前はあの女が作ったつまらん偽りの人格として記憶され忘れられていくだけだというのに、何を抗う」


「……」


「虚無しかないお前の人生に未練もあるまい。生き汚く抵抗するより潔く死んだ方が名を汚さずに済むぞ? それが分からんか」


「元より俺の名が汚れようがどうなろうがどうでもいい。それに、こんな俺であっても死んでほしくないと言ってくれる奴がいるんだ。さっさと逝くわけにはいかねぇよ」


「は。愛を持たない欠落品が他人のためなどと。笑わせてくれる」


「そうだな。俺も笑える。だが、生きる意味なんてのはその程度でいいんだよ……!」


「死にそうな奴が面白い事を言う。ならばあと数秒、せいぜい足掻いてみろ」


「……ぐ」



 圧されている……パワーが全然入らねぇ……ダメージ貰い過ぎたのとガス欠だな……ムー子の奴もそろそろ限界だろうし、本当に打つ手がねえ……こんな状況でゴス美は何をやろうってんだ。もう逆転は無理だろ。体中痛いし、いっそ楽になってしまいたい……が……









 ”お願い……戦ってぇ……”










 ……諦めるわけにはいかねぇな。

 何秒経ったろうか、果てしなく長く感じるが、それでも俺は耐えなければならない。ゴス美がやれると言ったんだ。きっと何かある。必ず勝てる手段があるんだ。だから、もう少しだ、もう少しだけ頑張れ俺。精魂尽き果てるまで……




「ぐぅ……!」


「ここまで往生際が悪いと返って清々しいな。だが、それもここまでだ。後ほんの少しで俺の腕がお前の首に到達する。言い残す事があるなら今だぞ?」


「言い残す? 勝利者インタビューの練習でもしておいた方がいいか?」


「それが最後の言葉でいいのか?」


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」



 だ、駄目だ……力が抜けていく……マジで限界まで粘ったがここまでか……ピチウ、お母さん……俺は結局駄目だったよ……



「さぁ! 死ねぇい!」




 ぐッ! ゴス美! すまん!




 ……





 ……ん? なんだ? この感覚は……!?





 !





「……な!?」



 力が湧いてくる! さっきよりも強く、圧倒的に! 




「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


  

「ぐ……」




親父に競り勝てている……! なんだ!? なにが起こったんだ!?









 お待たせいたしました。


 課長! なこれはいったいなんだ!?


 私がピカ太さんに取りつきまして、契約による身体能力強化の上乗せを行いました。これにより単純計算で二倍の出力となります。そして更に……


 ピカ太様。この度はペーがご迷惑をおかけしたようで……


 プランか!?


 はい。実は、いざという時のために私の精神にプランの分体を潜ませておいたですが、それが功を奏しました。こちらピカ太さんとの契約を結んでもらって強化効果の増加させております。手間どりましたが、先ほどようやく私とピカ太さんとで交わした契約の移譲が完了いたしました。


 契約? なにか結んだか?


 はい。先ほどこちらから、”戦って”と要望をお出しいたしました。


 ……ありなのか? それ?


 色々問題はございましたが全てクリアいたしました。内容に不備はございませんのでご安心を……


 まぁ、課長がそういうのであれば……


 三柱分の契約し、憑依による直結接続により今のピカ太さんは圧倒的な力を手にしています。例え相手が地上最強の生物であっても引けを取らないでしょう。それと……


 それと?


 お義母様より託けがございます。


 お母さんから?


 はい。私の記憶を送りますね。








 ……


「お義母様、なんでしょうかそれ……呪文ですか?」


「そう。あの子がもし危険な状態になりそうなら唱えるように伝えてちょうだい。そうすれば、私が直接、あの子に力を送りますから」








 お母さん……


 最後の最後まで案じておられました。陰でこっそりですが。


 ……


 こちらからの報告は以上となります。それではピカ太さん……キめてください。


 ……あぁ!












「馬鹿な! この俺が力負けしているだと!? いったい何をやった!?」


「あんたが生き残っていたら教えてやるよ」


「おのれぇ! 舐めるなよ小僧! 偽物風情が!」


「……ごめんな親父。輝ピカ太じゃなくてよ」


「当然だ! お前などピカ太ではない! お前とあの女がいなければ! 俺はピカ太を連れていけたのだ! 詫びるのであればここで大人しく死ねぇい!」


「……悪いな、それはできないんだ」



 なんたって……俺は俺として生きてるんだからな!




「……お母さん……頼むぜ……ฉันรักแม่!」



 !!!!!!!!!!!!



「こ、この力は……あの女の……!? おのれぇ! どこまでも邪魔をするかぁ!」


「これで本当に最後だ親父! できれば……死ぬなよ!?」




 ムー子! プラン! ゴス美! これで終わりだ! 頼んだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!




「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る