サキュバス、親父にもぶたれた事ありませんでした12

「狂気を受け入れられる価値観なんてあるか!」


「そうですか? 人間だって正気じゃない方は数多いと思いますが。輝さんの会社にもいらっしゃいません?」


「それを言われると否定はできない。いるいる。いるよ。モラルの欠如した奴が。自分より後に入ってきた人間を漏れなく格下扱いして呼び捨て暴言罵詈雑言誹謗中傷を浴びせかける頭のネジがぶっ飛んだ奴がよ。何が狂ってるって、そいつの中ではそれが間違いなく正義であるって点だよ。不思議な事に、本人はそれが善行だと信じて疑わないんだ。なぁ、徳を積むなんていうけどさ、確実に害悪なのに本人は正しいと思ってやってるってのも徳ポイントに加算されていくのかね。どうなんだろう」


「さぁ? ただ、地獄への道は善意によって舗装されているなんて言葉は聞きますね」


「出たよ。掲示板とかで有名な諺だ。でもすとんと腑に落ちるよな。実際にそういうケース見ると」


「その方って解雇にできないんですか? 何らかのハラスメントに該当すると思うのですが」


「あぁ駄目駄目。うちの会社、多分人が死なないと動かないから。それに周りのメンバーも一週回ってそういうコンテンツとして消費し始めてチームの名物みたいになっちゃったから、多分本人が辞めるって言わない限り一生いるわ」


「それはそれで狂っていますね。いやはや、人間というのはどうしてこう、悪魔以上に退廃的なのか、私は感心しますよ」


「それは皮肉か?」


「いいえ? 心からの賞賛です」


「それはそれでどうなんだろうか……」


「ピカ太さん。貴方がお勤めになっている会社、インターネットの口コミ評価が最低でしたけれど大丈夫なんですか? コメントも酷いものでしたよ?」


「今日日評価の高い企業の方が珍しいよ。そもそも大多数の人間が仕事嫌いなんだから、そら低評価が付く。ところでいつwebにアクセスできるようになったんだお母さん」


「母をあまり見くびるものではありませんよ? 私は既に、完全にスマートフォンを使いこなしているんですからね」


「マジかよコンピューターおばあちゃんじゃん」


「……」


「……」


「……折檻を受けたいのですか貴方は?」


「……すみません」


「ピカ太さん、なんで余計な事言うんですか? ムー子と同じレベルですよ?」


「さすがにアレと同じにしてほしくないんだが……ところで、そのムー子はどうしてんの? 留守番?」


「えぇ。その間に簡単な業務整理と雑務と案件確認を二日分渡してきました」


「二日分? できるとこまでやってねって感じ?」


「いえ? 完遂必達ですが?」


「……それを一日でやれと?」


「はい。まぁ正確には二営日分なので二十時間程度で終わる量ですね」


「ナチュラルに二時間残業計算するのやめよ?」


「大丈夫です。残業代は出ますから」


「金払えば労働力使いたい放題って思考はサビ残に勝るとも劣らないブラック度合いだと思うな俺は」


「でも法が許してますから……」


「許してねーよ?」


「告発されないって事はセーフですよピカ太さん。この資本主義社会、金儲けも浪費も正義なのです。まぁ私は悪魔なんですけどもね!」


「OH! デビルジョーク!」


「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA」


「鳥栖さん。島さんの残業時間、今月二百時間越えてまして、基本給より出す事になっているんですが?」


「……」


「さすがに困りますので、上手く誤魔化しておいてください」


「かしこまりました」


「誤魔化す?」


「最近、タイムカードが上手く切れない事が多いんですよね。おかげでどれだけ働いたか分からなくなってしまうんです。仕方ないので、そういう日は定時で上がっていただいたという事にせざるを得ませんね」


「おい、金儲けも浪費も正義なんじゃなかったのか」


「上司にNG出されたらそれはもう悪ですよピカ太さん」


「なんて軽い正義だ」


「まぁ私は悪魔なので」


「OH! デビルジョーク!」


「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA」





「ゴス美さん、ピカ太さん。お戯れはそれくらいに。そろそろ到着しますよ」


「え? あ、本当だ。なんかビルあるわ。え~~やっばいじゃん。ダベッてただけでろくに作戦会議もしてなかったけど大丈夫か?」


「最悪でも聖書さえ奪ってしまえばなんとでもなります。相手は最強の存在ですが所詮は単一生物。一旦退却さえできれば策を練る時間は十二分にできますよ」


「おい、デ・シャン。ピチウの事忘れるなよ?」


「それは勿論。ただし、私はあくまで手助けをするまで。実際に救出のため動くのは輝さんであるという事は、お忘れなきよう」


「……分かってるよ」


「心配しなくても結構ですよピカ太さん。この私がいるんです。例え精神体であってもあの男程度に後れを取る事などございません。アレを倒す。ピチウさんも連れ戻す。同時に行う事、さして問題ありません」


「頼りになる。まるでブチャラティみたいだ」


「……」



 そういえば、俺の記憶ってお母さんの記憶がベースになってんだったな……という事は、俺が知らないアニメや漫画やゲームの知識は……



「さぁ余計な事を考えている暇はありませんよピカ太さん! 気を引き締めなさい!」


「……」


「どうかしましたか!?」


「あ? いや……」


「ダスピルクエット。昔貴方が視聴していたアニメ、なんといいましたっけ? 確か、天空戦記シュラ……」


「黙りなさい淫魔! 今はそんな事どうでもいいでしょう! さぁ決戦前ですよ! 各自準備をするように!」


「……ナウマクサンマンダボダナン アビラウンケンソワカ」


「うるさいですよピカ太さん! 後で折檻しますからね!」


「修羅魔破拳で?」


「……」


「……」


「……」


「……すみません」


「ピカ太さん。今日二回目ですよ? 余計な事言うの。治しましょうよその癖」


「……生きて帰ってこれたらな」

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