サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました42

 クソ、頭が痛くなってきた。これが傷のせいなのかアルコールのせいなのか受け止めきれない現実のためなのかさっぱり分からん。もしかしたら全部かもしれんがだとしたら俺は超頑張ってると思う。引き続きこの調子で頑張ルビィしていきたい。



「ピカ太さん冷静ですね。普通、ただの人間がこんなシチュエーションに遭遇したら即テンパり状態で錯乱開始ですよ?」


「俺もそう思う」



 ほんとそれ。よく正気を保っているられる。これも今日まで妙な体験を経験してきたおかげだ。よかったよかった。いや全然よくねぇ。したくてしたいわけじゃねぇよこんなエクスペリエンス。普通の生活送りたいわ。なんかこんな事考えてると”力”を持った人間の憂いみたいな、八十、九十年代の漫画アニメでよく見たような、さりとて具体的な作品名を答えろといわれると思いつかないような、そんな感じのキャラクターを彷彿とさせるが、実際問題この状況はそこそこメンタルにきていて挫けそうになっている。だって意味不明なんだもん。なにこれ? なんでデ・シャンは俺を軟禁するの? 全然分からないんですけど。あ、そうだ。部下のムー子なら何か知っているかもしれないぞ。聞いてみよう。無駄だろうけど。



「おいムー子、なんでデ・シャンは俺を閉じ込めたんだ?」


「そんなの私が知るわけないじゃないですか」




 知ってた。

 ムー子についてはなから期待はしていなかったから怒りすら湧かない。一応聞いてはみたが、一縷もこいつが役立つとは思っていなかった。半ば様式美的な、お約束な展開になるだろうという確信をもって形式的に聞いただけに過ぎない。それほどムー子は使えないのだ。



「ピカ太さん。今、私について凄く失礼な事考えてません?」


「気のせいだろう。それよりこの場から脱出する方法を考えるぞ。お前もない頭を使って案を捻り出せ」


「おっと? ピカ太さんは私を侮ってらっしゃる。サキュバス一の知性派と称される私に向かって”ない頭を使え”と? ははー。これだから物を知らない愚かな人間は。真の知性ってものを知らないんだから」


「お前が一番頭いいの? 凄いなサキュバス。よく滅びないな」


「そんなお決まりな悪口を言っていられるのも今だけですよ。私の閃きを聞いたら、即座にひれ伏して崇め倒すに決まっていますからね」 


「いいだろう。そこまで言うのであれば聞いてやる。この状況、どうやって切り抜ける?」


「答えは簡単です。この部屋の床をぶち破って一階まで下りればいいんですよ」


「……思ったより真っ当な案を出してきたな」


「あ、ふざけた方が良かった感じの奴ですか?」


「大喜利やってもどうせクソつまんない解答しか出せないだろうから今はこれが正解だ」


「おっと? ピカ太さんは私を侮ってらっしゃる。サキュバス一のユニークと称される私に向かって” クソつまんない解答しか出せない”と? ははー。これだから物を知らない愚かな人間は。真のユーモアってものを知らないんだから」


「どうでもいいが、どうやって床をぶち抜く?」


「ん~~~~~~~話を聞いてくれませんね~~~~~~~~ピカ太さんは~~~~~~~~~~~~ま、いいです。今日の所は許してあげます。で、床の貫通方法ですが、そんなの簡単じゃないですか。この部屋にあるでしょう。使えそうなものが大量に。酒瓶で殴打してもいいし、包丁で掘っていってもいい。なんなら家電製品で質量に任せた自然落下アタックを食らわせてやっても問題ないでしょう。やり方は無限大ですよ」


「なるほど……そうだな、じゃあ、この生ハムの原木を使おう」


「え? なに言ってるんですかピカ太さん。確かにボストロールのこん棒みたいな形してますけど、ハムですよ? 建築物をぶっ壊すなんてとてもとても……」


「そう。通常では無理だ。そこで、不本意ながらお前と結ぶ事となった契約の力を使う」


「あ、なるほど。圧倒的なパワーで面攻撃を行い表層の破壊を試みるというわけですね?」


「そういう事。ムー子のクセに話が分かるな」


「クセにってなんですかクセにって」


「いいから。ほら、さっさと気合い入れてバフかけろ」


「う~~~ん発言がクズ男のそれ。ピカ太さ~~~~ん。そんなんじゃ将来のお嫁さんに嫌われちゃいますよぉ~~~~~~~~?」


「……」




 こいつとはあまり長い付き合いというわけではないのだが、一緒に住んでいて分かった事がある。この馬鹿、素直に頼むと高確率でウダウダと文句言って行動に移さない。暴力や見返りが背景にあって、初めて言う事を聞くのだ。この辺りが実に悪魔らしいが、さて、現在暴力を封じている俺がどうやって手綱を握るか。頭の使いようである。う~~~~ん……よし、いい案を思い付いたぞ!




「ムー子。お前、この前バーガー屋行った時の契約、覚えているか?」


「え? 何の事ですか?」


「店で紙ナプキン使ったら罰金というやつだ。これについて、まだ支払いが完了していないわけだが……今、ここで払ってもらおうか」


「覚えがないんですが、はて、そんな契約を結びましたかねぇ……」


「悪魔の契約は絶対。このルール、知らないはずがないよなぁ?」


「……ピカ太さん。ご承知の通り、私は今お金がありません。ない物を取るというのは、契約的に不可能です。残念ながら、現段階においては履行が不可能。無い袖は振れないというやつです。払う意思はあるんですけどもね。いやぁ、本当に申し訳ない」


「そう。今のお前は金がない。そこでだ。この場で俺の言う事を聞くのであれば、それを金の代わりにしてやってもいい。というより、この場で金を払えないのであれば俺の命令に従え」


「……ピカ太さん。私、長い事悪魔やってますが、悪魔に交換条件持ち掛ける人間なんて初めて見ましたよ」


「そうか。いい経験になったな」

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