サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました41

「はい持ってきました! 水! まごう事なきウォーター! 完全なるH2Oです!」


「……本当だろうな?」


「本当ですよ! ウォッカでもなければジンでも焼酎でもありません! ノンアルコール! ノンアルコールです!」



 ……うん、酒の臭いはしない。飲み干して……よし、怪我の痛みとのシナジー効果で酔いが冷めつつある。少し待って、これから何をするのか考えよう。

 しかし、少し意識が遠のいたり意思が弱るとすぐに俺の中の何かが動き出そうとする。気をしっかり持たねばならんだ。

 あいつはなんなんだ。もう一人の俺? でも多重人格って詐病認定されてるんだよな確か。あともし仮に俺の人格が乖離していたとして、人格同士が干渉しあうなんてあるか? 脳は一つなんだぞ? 幽遊白書でしか聞いた事がない事例に思わず疑問符があがってしまうわ。それとも自己否定の強いバージョンみたいなものだろうか。このところナーバスになる事が多いから、その可能性は高いかもしれんが……でもそうすると、ピチウの件がまったく分からん。なんだ二度と仕留め損なわないって。これも、俺が過去に何かしたかもという疑念が生み出した妄想……それにしては……


 考えるだけ無駄だな。

 この辺りはお母さんが教えてくれるだろう。それまで待つ。今やるべきは、今後に向けて少しで考えをまとめておくという事。アルコールのせいで脳の働きは未だ万全ではないが、それでもやらなくては。ピチウを助けなくてはならないのだ。




「うっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? これマジ? 気持ち悪すぎだろ!」




 うるさいな。なんだムー子の奴。急に大声なんて出して。




「ピカ太さん! 大変! 大変です! 廊下が変なんです!」


「廊下?」


「いいから来てください! 見てください!」



 ……嘘は吐いてないようだが……いや、相手は悪魔だ、油断できん。嘘だった場合今回ばかりは暴力を振るってもいいだろう。さすがにそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。よし、移動移動。扉の先には……




「……」



 ……嘘だろ?



「ね? ね? ね? ね? 変でしょう?」



 いや、変とかそんなレベルじゃねぇ。なんだこの抽象画みたいな空間は。ケニー・Gのスタンド能力か何かか? いったい何があった? どうしてこんな事になっている? 幻覚? まだ酔ってんのか? それとも酒か水になにか怪し気なものでも入っていたのか? ともかくこれは異常だ。


 

「私、ピカ太さんの怪我を治療すべく救急セットを貰いに行こうと思ったんですよ! あ、ここ褒めてくれていいですよ? そしたらこれ! こんな事態に! もうわけがわからないんですよ! これ私の方が治療必要なのかなって一瞬考えちゃいましたよね!」




 知らんがな。まぁムー子の事は放っておく事にして……




「……進んでみよう」


「え? なに言ってるんですかピカ太さん! 危ないですよ! こんなダリの世界みたいな感じの所闊歩するなんて! 時空の間に流されちゃいますよ!」


「元はあの屋敷と同じ構造だろう? なら問題ない。これが幻覚なら面積や位置関係が変化わけじゃないんだ。壁を伝っていけばなんとかなるだろう」



  そうとも。テナーサックスの幻覚だって元の空間自体が変わったわけじゃない。どれだけ五感が狂おうが、物理的に到着できるよう手を打てば突破は可能なのだ。まぁ保険としてアリアドネの糸的なものは欲しいところだが……そうだな。窓に備わってる高そうなカーテンをひも状に断裁して括りつけよう。そうすれば階段くらいまでの距離は……



「そこを渡るのは止めておいた方がいいですよ」



 この声は……



「デ・シャン……」


「貴方にはしばらくそこの部屋でゆっくりしていただきたく。あ、廊下以外は何もしていませんので、安心してください」


「これはなんだ? どういう事だ」


「廊下は異空間をリンクさせました。そこだけ、時空の間にあるどこかとなっています。一度出れば恐らく戻れないと思いますので、大人しく待機する事を推奨します」


「なぜそんな真似を」


「理由はまぁ……色々ですね。ただ、今貴方に話そうとは思いません。必要なタイミングで必要な内容をお伝えいたしますよ」


「そんな説明で納得すると思うか?」


「承知するしないは輝さんの個人的なご判断にお任せいたします。ともかく、私は今、貴方を外に出すつもりがない。それだけ知っておいていただければ問題ございません。他に何もなければお話を終わりたいと思います。私も忙しいので」


「……お前、次会ったら全身の骨を粉々にするからな?」


「おぉ怖い。それは勘弁願いたいですね。まぁ、保証くらいはさせていただきますよ。何かご希望がございましたら叶えられるよう考慮はいたしますので、そこにいる間に考えておいてください。それでは、また」




 ……




「と、いう事らしいんですがピカ太さん。どうしますか? ボンバーマンします?」


「ボンバーマンはしない」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! どうしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!? しましょうよボンバーマンんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!」



この状況でショウブダ! できるお前の神経スゲーよ。



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