サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました32

「善処はするが、最低限の護身くらいはしとけよ? さっきも言ったような相手はガチでヤバイ相手なんだ。俺だってどこまでできるか分からん」


「……」



 なんだ、急に黙って。気持ち悪いなおい。



「ピカ太さん、守ってくれるんですか?」


「話し聞いてたか? 善処はするが確約はできないって」


「いえ、そうではなく、少なくとも手は打ってくれるって事ですよね?」


「あ? あぁ。そりゃあ、まぁ……」


「どうしてです?」


「あ?」


「どうして私を守ってくれるんですか?」



 なんだ? 急に諸般の事情で止む無く敵対してましたけどちょっと主人公に心動かされているキャラみたいなセリフ吐きやがって。気持ち悪いな。メンヘラか?



「正直不本意ではあるが。俺の親父のしでかす事だ。血族の迷惑に他を巻き込むわけにはいかんだろう」



 まぁもう巻き込んでるけども。



「……なるほど。なるほど」


「さっきからなんだ気色が悪い」


「いえね? ピカ太さん、これまで散々私への配慮を怠ってきたじゃないですか。だからいったいどんな風の吹き回しなのかなぁと思って」


「配慮を欠いていたのはむしろお前の方で、だからこそ暴力的行為による説得を試みていたのだが?」


「暴力を説得と言い張るピカ太さんの持論にはまったく同意しかねますが、理由は納得いたしました。なるほど、なるほどね。むふふ」


「なんだその妙な笑い方。怖気が走ったぞ」


「いやぁ? どのような理由であれ、ピカ太さんが私を守ると言ったとなると、これがもう、恋とか愛とかに発展してミラクル逆転ホームラン的なサクセスがあるのでは? と、ほくそ笑んでいたのです。ピカ太さんが私にぞっこんとなれば即ワンナイトライブでお仕事完了。オープンユアハートの効果も解除されて晴れて地元に帰れますからね。それを想像すると……むふふ。ニタニタがとまりません」


「捕らぬ狸の皮算用って言葉知ってるか?」


「皮算用であるかどうかは結果で判断していただきたい。これはもうね。勝ち。勝ちですよえピカ太さん。圧倒的に私の勝利です。ピカ太さんの心は既に私に向かって傾きつつあります。あと一押しすればもうLOVEアクセラレートです。ベクトルはエモーション。ハートはすっかりバイブレーション。二人で眺めるロケーション。きっといつまでもハピネスコミュニケーションです」


「……お前のその馬鹿話に付き合わなくてもよくなるのであれば、一夜くらいいいかもな」



 あ、しまった。つい気持ち悪い事言ってしまった。



「おぉ~~~~~~~~~~~~!? マジ? マジでヤらせてくれんの!? よ~~~~~~~~~~~~しじゃあ一夜と言わずに今からそこのホテルで休憩しよっか!」



 ……盛ってる男に嫌悪感抱く女の気持ちが少し分かった気がする




「俺は今、自分の言った言葉に大変後悔している。冗談でも皮肉でも嫌味でも、言うもんじゃなかった」



 本当にどうしてあんな事言ってしまったんだ俺は。どうかしていた。だいたいそもそも反応しないんだからやりようがないという話だ。女の裸なんぞ見て何がいいのかまったく分からん。だらしない脂肪と開帳する粘膜構造はどう考えてもクリーチャーのそれだろ。デザインしたやつは悪趣味すぎる。




「でもピカ太さん。仮に私がいなくなったとして、大丈夫ですか? 寂しくありませんか? 太陽が如き輝きを持つこのムー子ちゃんの存在が消えてしまったら、ピカ太さんの生活は冥府と変わらなくなってしまいますよ?」



 あれ? こいつ話聞いていた? 無理だって言ったんだけど? 無理だって事は、お前ご帰宅できないって事なんだけど? あれぇ? 頭悪すぎて伝わらなかったのかなぁ? 改めて説明した方がいいのかなぁ? いいや。めんどくさい。やめとこ。やめといて、拒絶の意思だけ表明しとこ。



「お前と一生で会わなくてもよくなるのであれば、俺は生涯日に当たらない生活を送る事になっても後悔はしない。抱く以外に方法があるのであれば間違いなく実行する。果断に、火急に、迅速に」


「ふぅん……まぁ、いいです。いまのところはそれで、ね? 徐々に徐々に、外堀を埋めてやりますから」



 永遠に埋まる事ない穴をどうぞ埋めていってほしい。




「ところでゴス美課長はどうなんです? もし、肌を重ね合わせなくてもオープンユアハートの効果が消える方法があるとした場合、どうしますか?」


「課長は……本人の意思次第の所はあるよな。まぁしばらくいたいというのであれば、好きにしたらと言う他ない」


「え? え? え? なんで? なんで私は強制帰還ウェルカムなのにゴス美課長は良きに計らえ状態なんです? 意味が? いまひとつ意味が分からない。掴みかねる。ピカ太さんの心情と思想」


「いたってシンプルだろ。一緒に暮らしていて課長は助かる部分が多いが、お前は皆無だ。いい加減何か役に立て」


「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~? めっちゃ役立ってるでしょう~~~~~~~~~~~~~~~~~!? 立てばパトラ! 座れば貴妃! 歩く姿は小野小町ですよ私は!? そんなんもういるだけで毎日ハッピーじゃないですか! 眼福効果全開ですよ!?」


「家の中でお前に会った時ってさ。ゴキブリに遭遇した時の不愉快さと一致するんだよね。殺虫剤かけてやろうと何度か思ったことあるよ」


「害虫扱い~~~~~~~~~~~~~~!? 心外! 心外です! さすがにそれはとっとご立腹ですよ私は! 謝ってください!」


「ゴキブリって海老の味するらしいんだけど本当かな」


「雑に話を変えないでください! あとその雑学擦り尽くされてますが普通に嫌な気持ちになるのでやめてください! 海老が好きな子だっているんですよ! まぁ私の事なんですけども!」


「え? お前海老好きなの? じゃあ今度食用ゴキブリ買ってくるわ」


「露悪的な冗談は本当にやめて! 私は虫と無視は嫌なの! 次言ったらつねるからね!」



 マジでキレかけてるなこいつ。そうか、虫が苦手なのか。これはいい事を聞いた。うざくなったら部屋にばら撒いておいだしてやろ。まぁ俺も嫌いだからできるかどうかは分からんけど。


 それはともかくとして……




「着いたぞデ・シャンの家」


「あ、ほんとだ。意外と早かったですね」

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