サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました29

「ところでピカ太さん。どうですか今日の私のコーディネート。すっごいイカしてません?」


「その目が痛くなるようなグリーンのパンツはどうなんだと思っているよ」


「あ、ピカ太さん。遅れてますねぇ。これ、今年流行のボトムなんですよ? 街中もう大量繁殖中ですからね。所謂量産型ってやつですが、でもそれって一つの共通美意識ですから私は気にしません。多くの人がセザンヌやミレーの絵を美しいと感じるのと同じです。で、トップスは黄色とか白も似合うんですけどぉ今日はあえて大人しめのブラックでクールに決めてみました! ラフさの中にフォーマルな雰囲気があって、シックな遊び心を演出してるんですよぉ? そして髪型はフェミニンなレイヤーボブ! いやぁ今日はね! 決まった!決まりまくりましたよ前髪が! いつもはセットに無駄な時間をかけているんですが本日一発成功! いやぁ実に気分がいい! こんな日はもうどっか行きましょうよ!  電車に乗って遠くへデートへ行きましょうよ! 私ザギンのシースーを食べたいです! 行きましょう! 大人の街へ! そして奢ってください!」


「行かない。奢らない」


「本当に? 本当に行かないんですか? いいんですか? こんなバッチリ可愛い感じの女の子と歩けるチャンスなんですよピカ太さん? 世界中の人々に見せつけたくないですか? すれ違う人達に”うわあいつ、ゲキマブなスケ連れてるやん”って言われたくないですか? 言われたいですよねぇ! じゃ! 行きましょうザギンへ! 寿司食べましょう寿司! そして奢ってください!」


「見せつけたくない。言われたくない。行きたくない。食べたくない」


「またまた~~~~~~~~~~~~~~ピカ太さんまたまたまたまたまたまた~~~~~~~~~~~~そんなムキになって否定しなくても大丈夫ですよ~~~~~~~~~~? 美女を隣に置いてザギンで寿司! いやぁこんな贅沢が他にありますかって! ない! 断言してもいい! ない! そう! そうなんですよピカ太さん! 今ピカ太さんは史上最高のハッピーを手にする権利を得たんですよ? それを行使しないなんて話あるわけないじゃないですか! ささ! さ! 行きましょうザギンへ! そして休日を楽しみましょう! そして奢ってください!」


「さっきからしつこいな。俺はデ・シャンに用事があるんだよ。そんなに銀座行きたいなら一人で行ってこい」


「一人はちょっと……私、飲食店とか入る時複数人じゃないと落ち着かないタイプですし……」


「お前図々しいくせいにそういうところは気にするんだな」


「ず!? ちょっとピカ太さん! 私は全然図々しくないですよ! めちゃくちゃ謙虚で慎ましやかじゃないですか!」


「謙虚で慎ましやかな奴は奢ってくれなどと言わない」


「富める者は貧しき者に施すというノブレスオブリージュの精神を尊重しているだけですが?」


「なにがノブレスオブリージュだ。稼ぎならお前の方が遙かに上じゃねぇか」


「前にも言いましたが、現在私の資産は全てゴス美課長に握られております。今、財布の中身は五百円しかありません。これじゃ寿司なんか食べられませんよ」


「やったな。スーパーのパック寿司が買えるぞ」


「い~~~~~~~~~~~~~~~~~や~~~~~~~~~~~~~~~~~だ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ザギンの寿司~~~~~~~~~~~~~~~~~~無駄に高級で変な石の皿みたいな器に出されるザギンの寿司がいい~~~~~~~~~~~~~~~~どうせ誰が握っても寿司なんて同じ味するんだから少しでも高いやつを奢ってもらって満足感と優越感に浸りた~~~~~~~~~~~~~~~い~~~~~~~~~~~~~~~!」


「寿司職人舐め過ぎだろお前。ネタの切り方握り方。絞め、炙り、煮るにどれだけの技術が使われてると思ってんだ」


「ピカ太さんはすぐそうやってどこかで聞いた事があるような事を言いますね。でもそんな正論逆効果ですよ? 女の子はいつだって自分の気持ちを分かってほしいんですから。常識とかそういうの、どうだっていいんです」


「女の子なら確かにそうかもしれんが、お前は既に”子”という歳ではないだろう。大人としての自覚を持つべきだと思うが?」


「……ピカ太さん、前から言ってますけど、そんな事言ってると絶対にモテませんよ?」


「俺も何度も言っているが、別にモテたいとも思わない」


「はぁ~~~~~~~~~~~~~~どうしてそうなっちゃったんですか? あるでしょう。子供の頃、一目惚れした思い出とか。大人のお姉さんとの交流を経て精通を迎えた記憶とか、色々と」


「あってもお前には絶対に話さない」


「どうして~~~~~~~~~~~? 一緒に楽しい思い出を語り合いましょうよ~~~~~~~~~~~~~~私達もう友達じゃないですか~~~~~~~~~~~~~~~あ、それとも自分からは言い出せないタイプです? よ~~~~~~~~~~~~~~し! じゃあ私からいきますね~~~~~~~~~~~~~~~~!? 私の初体験は~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」


「今すぐ静かにしないと課長に電話をかけるがどうする?」


「すみません今すぐ黙ります」



 効果覿面。今後しばらくは暴力の代わりにこの手を使っていこう。




 ……なんか、あれだな。なまはげとかみたいだな。

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