サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました17

 ……今から来るって何時間後だ?

 軍用車で森下ってそっから普通乗用車で移動だろ? 到着するの昼過ぎだぞ。どうしようかなその間……やるべき事をやるべきなんだろうが、何をやればいいのか整理できていない。今の内にできる事……なにがあったか……



 ……



 

 ……そうだな。職場に連絡だな。



 スマフォタップ

 


 連絡先表示。


 タップタップ。





 トゥトゥトゥ


 トゥトゥトゥ




 トゥルルル。

 トゥルルル。

 トゥルルル。

 トゥルルル。

 トゥルルル。

 トゥルルル。

 トゥルルル。

 トゥルルル。

 トゥルルル。


 トゥル……



「お電話ありがとうございました。弊社は大変込み合っておりますので大変残念ではありますが後日ご連絡ください。じゃ」


「待って! 不破付さんですよね!? 僕です! 輝です!」



 こいつ電話に出て切るとか剛の者かよ。



「あれ? 輝さん、今日普通に休みじゃありませんでしたっけ? 僕は休日出勤ですけども」


「えぇ、まぁ……」


「何か御用がおありのようですが、平日出勤した際では駄目な感じの内容ですか? 僕は休日出勤ですけども」


「いや、あのですね、上長いらっしゃいますか?」


「上長? 珍しく今日はいないですね。いや、ほんと、なんで今日に限って休んでるんでしょうね。僕は休日出勤ですけども」


「なるほど……あの、休日出勤の不破付さんにこういうお願いをするのも気が引けるんですが」


「え? なんですか? 休日出勤の僕にお願いがある? いいですよ聞きますよ。なんたって僕は休日出勤。業務に関わる事であれば雇用契約上履行する義務がありますからね。休日出勤の僕になんでも言ってください」


「はい、あの、明日から家庭の事情で出勤できなくなるので、欠勤分は有給消化で処理お願いしますと上長にお伝えください」


「はぁ!? ちょ、 はぁ!? マジ? マジで言ってんすか輝さん! 僕、今日休日出勤なんですよ!? その僕に向かって有給!? ちょっと精神的ダメージ大! え~~~~~~~~~~~~~……萎える~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」


「いや本当に、忙しい中大変申し訳ないと思っておりますが、どうしても、こればっかりは、何においても、ちょっと厳しいので、すみませんが……」


「いやぁ~~~~~~~~~~~~キツイっす! キツイっすよ輝さ~~~~~~~~~~~~~~~~~ん! あのね! 僕もそうですけどみんな有給とれね~~~~~~~~~~~~~~~休みね~~~~~~~~~~~~~~つって頑張ってんですよ!? 一所懸命に数字上げるために寝る間も惜しんで努力してるんですよ!? それをなんですか? 有給!? 家庭の事情!? そんな事いったら会社も家庭と同じでしょうが~~~~~~~~~~~~~~! 僕達組織はみんな兄妹! 兄弟のためなら何があろうと駆けつける! 会社のためならなんでもできる! なんでもなれる! それが社会人としての常識ってやつでしょうが~~~~~~~~~えぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」


「いや、すみません。ちょっとホント、マジ余裕ないんで……」


「余裕ないなら逆に出勤しましょうよ! やってやるぞって気持ちがないから余裕がなくなるんですよ! 気持ちで負けてるから休みが欲しいとか仕事できないとか脆弱な思想に陥るんですよ! 男は仕事してなんぼですよ輝さん! ちょっと、いや大分気合いが足りてないんじゃないですか!? そんなだからこの前も経理のババアに”この接待費はなんですか~~~~~~~~~? こんなんじゃ経費として認められませんよ~~~~~~~~~~~~~?”なって舐めた口きかれるんですよ! いいですか!? あぁいうのは一発かましてやんないと! 気合い一発ゾス! これで解決、はいご一緒に!? ゾス!」


「あ、いや、すみません。本当にそういう状態じゃないんで……」


「ゾス!」


「あの、本当に……」


「ソッス!」


「……」


「ゾォォォォォォォォォォォォォォォォス!」


「ゾ、ゾス……」


「はい、というわけで無事ゾスをいただいたんですけれども、大丈夫ですか輝さん。コンプライアンスに抵触するので深くは追求しませんが、大分元気なさそうですけど」


「はい。さっきまでのやり取りでかなり精神削られました」


「やだなぁ冗談じゃないですか。僕ね、何度も言いますけど休日出勤なんですよ。一人で。孤独に悶々としながら仕事したんですよ? そしてら着信。表示を見たら知ってる番号。確認してみたらなんと輝さんからじゃないかと心躍らせて受話器を取らせていただいた次第なんですよ。そしたら元気なさげに有給申請。これはもう同僚として一肌脱がねばと愉快なトークを提供したわけでございますよえぇ。汲んでくださいよ僕の気遣い心遣い」


「ありがた迷惑でした」


「またまた! 輝さんまたまた!」



 またまたもくそもねーんだよ。なんでこいつこんなテンションが異常なんだ。休日出勤で頭おかしくなってんのか?



「ともかくそんなわけで、申し訳ないんですけど上長にご報告だけお願いします」


「はいはい了解です。ちなみに復帰目途は?」


「未定ですが、さすがに有給日数超えるような事はないかと」


「なるほど……ちなみに、残り何日残ってるんです? 有給」


「……」


「……? 輝さん?」


「……日」


「え?」


「……三日」


「え? なんて? よく聞こえなんですけど?」


「残り有給日数、二十三日です」


「……え? という事は、最悪一ヵ月いないって事?」


「……」


「ちょ、輝さん! さすがに1mはまずいですって! 僕毎週休日出勤になっちゃいますって!」


「……」


「輝さん! 聞いてますかちょっと! ねぇ! 輝さs……」



 通話終了タップ。



 よし、これで大手を振って休めるな。

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