サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました16

 スマフォタップ。

 連絡先表示。

 タップタップ。



 トゥトゥトゥ

 トゥトゥトゥ


 トゥル……




「もしもし母です」



 電話出るの早いなオイ。半コールだぞ。コールセンターか?



「あ、もしもしお母さん? 俺だけども」


「着信表示を見れば分かります。なんですかこんな朝から。母は忙しいのですよ? もっと常識を弁え想像力を働かせなさい」


 

 半コールで出た奴が良くいうよ。



「それについては申し訳ない。ただ、火急の用事なので」


「火急? この泰平の世の中で親の死に目以外にそんな事態がありますか?」


「お母さん、阿賀ヘルって知ってるか?」


「それはまぁ存じております。阿賀家の当代ですね。流派は違いますが同じ生業の一族。知っていて当然です。で、それが何か?」



「いや、今朝、家に侵入してきて……」


「侵入? 不法に?」


「まぁ、不法に……」


「ほぉ……仮にも同業の者が、宙家の血を引く者に狼藉を働きましたか……これは、穏やかにはできませんね……」



 怖。なんだその権威主義のお手本みたいなセリフは。



「いや、それだけならよかったというか(よくはないが)、こんな風に電話はしないんだけども」


「何か別の問題があると?」


「うん。実は、その阿賀ヘルって奴の目的が、俺と親父を会わせる事らしく……」


「ちょっと待ってなさい。今すぐ阿賀家へ乗り込んで対処してきますから」


「ちょ、ちょっと待って! 話しを! 話しを最後まで聞いてくれ!」


「何を仰いますか貴方。これが待っていられますか貴方。あの下衆と貴方を会わせるなんて貴方、許せるわけないでしょう貴方。というより何をいけしゃあしゃあとそんな事を!? アレは養育費どころか慰謝料だって支払っていないんですよ? それが急に息子との対面をお望みになる? そんな馬鹿な話が通りますか。許せません。絶対に許しませんよそんな事。そのような真似をする家はどのような理由があろうとも断絶取り潰しです。その愚行を十分に悔いさせてやりましょう」



 本気で言ってるなこれ。お母さんならやりかねん。早く話を進めて止めなければ。



「ピチウが手を組んでる可能性があるから待ってくれって」


「……ピチウが? 誰と?」


「阿賀ヘルと、ひいてはその裏にいる親父と」


「……それはありえません」


「なんで言いきれるんだ?」

 

「私には分かります。絶対にないです。そんな事があっていいはずがない」


「……よく分からんが、可能性の一つとして浮上している」


「可能性? いったい何がどうしてそんな可能性が出てきたのか説明しなさい」



 それをするために電話したんだよ……だがまぁ今はそんな無駄な反抗をしている場合ではない。さっさと、端的に事の次第を話そう。



「まず、阿賀ヘルが深夜というか、早朝に俺の家に侵入して朝食を作っていたんだよ」


「……なぜ? どうして他人様の家へ勝手に上がり込んで朝食などを?」


「知らんよ。ともかく、作っていたんだ。で、物音しているのに他の奴は起きてこない。気になって聞いてみたら、どうやら俺以外に睡眠を促す術を使って眠らせたらしいんだよ」


「……」


「で、ここで疑問に上がるのが……」


「なぜピチウが気付かなかったのか」


「そう、それだ」



 さすが母親。話が早い。



「確かにあの子の探知能力は既に一流の域。この母と比較しても勝るとも劣らないレベルといっても差し支えないでしょう。しかし、アレもまだ未熟。油断や慢心もあるでしょうし、心身の均衡が崩れていたのかもしれない。それだけで獅子身中の虫扱いするというのは、いささか早計のように思いますが」


「そうだな。それだけだったら俺もそう思う」


「それ以外にあると」


「……理由は端折るが、ゴス美と俺の過去の話をしていたところにピチウがやってきて、逃げていった」


「……」


「おまけに人感式のトラップまで発動してだ。こうなると、やはり阿賀ヘルと何かしらの関係があると見る方が自然なように思える」


「……」


「……」



 黙ってしまった。珍しいな、お母さんが口を閉ざすなんて。



「……貴方は」


「え?」


「貴方は何ともありませんか? 動揺したり冷静さを欠いたり、ゴス美さんに対して暴力を振るったりはしていませんか?」


「……ピチウが出ていった直後は危うくゴス美を殺しかけたが、今は落ち着いている。自分でもあそこまでシスコンだとは思わなかった」


「……そうですか」


「……」



 ……




「お母さん。俺、子供の頃の記憶がないんだよね」


「……」


「これって、なにか今回の事と関係あるんじゃないかな。ピチウ、俺の過去の話になるといつも変な調子になるし」


「……」


「俺、昔ピチウになにかしたのもしれない。記憶がない事に、あいつを傷つけたり、苦しませたり……それが要因でこんな風になったのであれば、俺は……」


「……今すぐそちらへ向かいます。それまで、じっとしているように」


「その時、ちゃんと話をしてくれるか? 俺の子供の頃について。それと、どうして記憶がないのか」


「……えぇ。全てお話いたします」


「分かった。待っているよ」



 プッ。


 トゥートゥートゥートゥートゥー……




 ……

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