サキュバス、諸行無常の響きを奏でました26

 観に行く映画は帰ってから決めるとして、確かに見覚えのある風景が目に入ってきたな。この駅周辺は中型ショッピングモールがあって田舎感が強いんだ。完全に休日に賑わう郊外の様相。ジャス子タウンと等しい街模様。嫌なんだよなぁなんかこういうの。全部近場でで完結しちゃってる感じがしてどうも面白くない。ジャス子もそうなんだけど、これだけあれば他何もいらない状態になっちゃったら街の文化が死んでしまう。安いし品物も豊富だし、そりゃ消費者からしたら万々歳だろうけども、なんか生活感溢れちゃって遊んでるぞー! って気分にならないんだよね。この辺りはアメリカとかを見習ってほしいもんだ。俺アメリカ行った事ないけど。

 


 「さぁとうとうですよピカ太さん! 待望切望熱望したバーガー屋の看板が見えてきました! どうですかぁベジータを彷彿とさせるあの黄色く彩られた巨大なシンボルマーク! オラわくわくすっぞぉ! 子供の頃、お母さんお父さんに連れられてきて食べたテリヤキバーガーを思い出しますぅ! ママ――――――――! パパーーーーーーーー! ムー子は今ーーーーーーーー! 頑張って生きてますよーーーーーーーーーーーー! おちこんだりもしたけれど私は元気で――――――――――――――――す!」



「往来の真ん中で騒ぐな馬鹿。人が多いんだよもうこの時間は。目立たないように大人しくしてろカス」


「えぇ~~~~? いいじゃないですか~~~~~~~~酔ってほしい~~~~~~~~~~~酔いしててほしい~~~~~~~~~~私の美声に~~~~~~~~~~~~~~」是非とも~~~~~~~~~~~


「どんだけいい声してても公共の場で騒いでたらただの迷惑な人だ」


「ピカ太さんたまに正論言いますよね」


「俺はいつも正しい事しか言わない」


「おっと独裁の兆候を検知。犯罪係数が千を有に越えそうですよこれは」


「あ、俺PSYCHO-PASS観てないんだよね。なんか雰囲気が苦手で」


「あー、っぽい。なんかあぁいうの苦手っぽい。攻殻機動隊とかは好きなくせにPSYCHO-PASSとかバビロンとか観なさそう」


「なんか合わないんだよなぁ……変にハードボイルドとかサスペンスっぽい感じ出してるとことか。なんでアニメでやるとあぁなるかねぇ」


「そんなパーフェクトブルーみたいなセリフ吐かないでくださいよ。面白いですよサPSYCHO-PASS。前半は確かに苦手な人いるかもしれませんが、そこはまぁ投資だと思っていただいて。後半に展開される様々な殺人者の心情や陰謀渦巻く政治ドラマなんかが凝縮されててお得な作品ですよ」


「それこそ攻殻でいいだろ……PSYCHO-PASSにしかない特異性がないし、主観で好みじゃないから観る気になれないな」


「あ、また出てますよピカ太さん。自分で可能性を狭める悪い癖が。さっきのメカ娘のくだりで言ったじゃないですか。”時には自らの殻を破り新たな世界を覗き見る事も必要なのではないでしょうか”と。何でも好き嫌いは良くないです。私もゴス美課長に無理やり食べさせられ続けた茄子の糠漬けと里芋の煮っ転がしも美味しくいただけるふりができるようになりました。ピカ太さんもレッツチャレンジニューアニメーション!」


「……じゃあお前、一緒にきんいろモザイク観るか?」


「え? それは……」


「酒飲みながら昼に一期。小休止を挟み夕方からハロー!! きんいろモザイクだ。余裕があったら劇場版も視聴しよう。二作」


「え……っと……いやぁ? 私はちょっと遠慮したいかなと……」


「何故だ。この殺伐とした世の中、きんいろモザイクは完全に脳を空っぽにして視聴できる最高の作品だぞ? いやぁ懐かしいな。あれは確か十年前くらいか。職場にようやく慣れてきたころ無茶な案件回されて毎夜毎夜ヘトヘトになって帰宅していたんだが、テレビを付けて一杯やりながらきんモザを観るのが唯一の癒しでな。もう完全に脳みそが動いていない状態でもスッとはいってきて大変良い気晴らしになったんだよ。今の俺があるのはきんモザのおかげといってもいい。最高だよきんいろモザイク」


「それはただ単に疲れていて脳が刺激を拒否していただけでは……」


「そんな事ない。現に俺は仕事に慣れてからも何度か観ている」


「より疲労の影響説が濃厚になったような気がするんですけど……というかですね。私、キララ系苦手なんですよ」


「時には自らの殻を破り新たな世界を覗き見る事も必要なのではないか?」


「くぅ! 意趣返し~~~~~~~~~~~~! 性格が悪いですよピカ太さん!」


「言っている事は同じだと思うがな……まぁ、そんなにきんいろモザイクが嫌だというのであれば、ターンエーガンダムでもいいぞ? 懐かしいなぁターンエー。束の間の休みに五十話一気観したっけ。ビールダースで買ってただただ酒空けながらずーっと観てたな。マニーピチあたりで丁度眠気のピークがきたけど無事朝まで完徹完酔いで完走できたよ。いい思い出だなぁあれも」


「……ピカ太さん」


「なんだ?」


「アニメは普通に観ましょうよ……」


「……」



 言われてみればその通りである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る