サキュバス、諸行無常の響きを奏でました24

「……愛です」


「……」



 聞いた俺が馬鹿だった。もとよりムー子の話になど耳を傾けるだけで時間と精神の無駄だった。何故血迷ってこいつの話に傾聴できるかもしれないなどという一縷の希望も発生し得ない幻想を抱いてしまったのだろうか。これは深く反省せざるを得ない。



「あれ? どうしたんですかピカ太さん黙りこくっちゃって」


「お前をどうやって殺そうかと考えていた」


「物騒~~~~~~~~~~~~~~どうして~~~~~~~~~~~~~~~~? 私のパーフェクトな助言に何かご不満でも~~~~~~~~~~~~~~~~?」


「不満しかねぇわ。何が愛だ。誰の何に対して愛を注げというのだ。結局そんな抽象的で意味不明な回答が返ってきて俺は怒り心頭。それにより検討し認証。決行するお前の殺害」


「違うんですよちゃんと聞いてくださいよこれには深いわけがあるんですよ」


「わけ? そんなもんしるわけねぇ。聞く耳もたねー意味がねー。マジふざけた調子で言葉並べるのやめねぇ?」


「なんでちょいちょい韻踏んでくるんですか……」


「いや、最近YouTubeのショート動画でラップバトルが結構出ててくるから真似てみようと」


「慣れない事するもんじゃないですよピカ太さん。中学生じゃないんだから。ところで私の話聞いてくださいよ。ちゃんと説明しますから」


「聞いてやってもいいが。ふざけた内容だったらぶっ殺しポイントが加算されていくからそのつもりで話せよ?」


「いいでしょう。ポイントでゼロでフィニッシュしてやりますよ……いいですかピカ太さん。ピカ太さんは機械好きですけど、女の子は好きじゃないですよね」


「当たり前だぶっ殺すぞ」


「あ、もうぶっ殺しポイントが加算されてる感じですか? 勘弁してくださいよ」


「加減点方式だから最終的にどうなるかはお前次第だ」


「なるほど……では減点目指して続けますが、メカの擬人化へ抱く忌避反応は、メカへの愛が強すぎる故に起る感情の起伏だと思うんです」


「それはまぁ分かる」


「そうでしょう。可愛いあの子があんな姿にされてしまった! 許せない! 的な想いがあるわけです。いやぁ私もですねぇ。カレンデバイスはちょっと衝撃的すぎてしばらくフロントミッションできなかったですよ」


「あれリアルタイムでプレイしてた時、なんか気持ち悪いから売っちまったなぁ」


「人の心ないんです? それはさておき、つまりはメカへの偏執的な愛をですねぇ。より広域にしていけば多様なコンテンツを楽しめるようになるんですよ」


「例えば?」


「これは私がよく使う手なんですが……好きなキャラにあんまり好きじゃない声優が声を当てるっていう事があるじゃないですか。そんな時は理解ある彼女面するんですよ」


「理解ある彼女面?」


「そうです。こう考えるんです。あのキャラクターは最高に推せるけど声やってる奴が敵なんだよなぁ……でも、それを受け入れてこその担当だよね! だって完璧な人間なんていないんだもん! あのクソみたいな声も含めて私は好き! だから私は彼の担当になる資格がある! と!」


「ただの妄信じゃないのかそれは」


「違いますね。猛進です。愛の方向へひたすら進む力、パワーです。例えばピカ太さん。ピカ太さんが好きなモビルスーツってなんです?」


「いっぱいありすぎて一つに絞れない」


「不純すぎる……じゃあ、ファーストだったら?」


「それでも多いんだが……そうだな連邦側かつ、MSV含めなければ母数が少なくなるからなんとか……それでもガンキャノンとジムの二択になるんだよなぁ……甲乙付け難い……」


「どっちでもいいんですけど……じゃあ仮に、ガンキャノンが金髪巨乳のアメリカンガールに擬人化されたらどう思いますか?」


「……主義趣向は人それぞれだし、人には人の楽しみ方がある。俺は基本的に女だからこのキャラクターが好きというハマり方はしないが、無論そういった需要が多くある事は知っているし、どのような形であれ創作行為は基本的に偉だと思っている。そういう前提を理解したうえで、ガンキャノンがそんな目に遭ったとなればもう、殺意しか湧かん」


「あ、そんなに憤る感じです?」


「当たり前だ。連邦の傑作だぞガンキャノンは。それを金髪巨乳のアメリカンとか何考えてんだって話だ。あ、でも連邦はアメリカっぽいからその辺はしっかり考えられている感じはするな……」


「まぁキャラクター設定はどうでもいいんですけれど、ここにですね。先ほど私が提唱した理解のある彼女面思考を適用してみましょう」


「どんな風に?」


「そうですね……あ~~~~ガンキャノンが汚れされてしまっている~~~~~~~でもキャノンはキャノンなんだよな~~~~~~~~~~よくよく見るとデティールも細かいし各パーツも原作を忠実に再現している~~~~~~~~これはこれでアナザーなガンキャノンではないか~~~~~~~~~~? 俺とは趣味が合わないけど~~~~~~~~~こういう表情を見せるガンキャノンもまたガンキャノンの一面である事に変わりなく~~~~~~~~~~であればこれは受け入れるべきであり~~~~~~~~~~否定してはならない~~~~~~~~~。と、いった感じですかね」


「なんか無理やり納得させようとしているだけのような気もするんだが」


「身も蓋もない事を言ってしまえば気の持ちようですから。美少女主体ではなく、あくまでメカあっての擬人化と考えれば納得はいくのではないでしょうか」


「……まぁ、考え方の参考にはしておこう」


「ありがとうございます。ちなみに、この話でぶっ殺しポイントは何ポイントですか?」


「百」


「えぇ~~~~? なんでぇ~~~~?」


「ガンキャノンとジムの二択に際し、お前、どっちでもいいと言ったよな? それが俺の逆鱗に触れた」


「え? そこぉ?」


「お前ガンキャノンとジムだぞ!? どっちでもよくねーんだよちゃんと考えろ!」


「内容で判定してくださいよぉ!」



 うるさい馬鹿。とはいえ、まぁちょっとは有用な発想な気もしなくはないから、心には留めておいてやる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る