サキュバス、諸行無常の響きを奏でました22

 ところで今何キロくらい歩いただろうか。体感的には八百メートルくらいなものかなと思っているが……そうだ、スマフォの地図で確認して……あ、しまった。



「? ピカ太さん。どうかなされましたか?」


「いや、スマフォ忘れた」


 

 そういえばずっと部屋に置きっぱなしだったんだったわ。別段誰から連絡があるわけでもなし、軽い散歩程度でも携帯しなきゃいけないレベルの人間でもないんだが、ないとやっぱりソワソワしてしまって落ち着かないよなぁ。これが現代病。スマフォ依存症か。



「もーうっかりさんですね! あ、ところで私が送ったメッセージについてなんですけれど……」


「まだ見てない」


「え?」


「まだ見てない」



 そういえばなんか送ったとか言ってたな。すっかり忘れてた。



「え? え? え? おかしくないですか? 送ってからそこそこ時間経過していますが? あまつさえ私、確認よろしくですーって口頭で伝達いたしましたが? は? ありえなくない?」


「いや、どうせろくでもない内容だしいいかなって」


「ろくでもない!? 読んでもいないのにそんな判断ってありますか!?」


「過去の傾向とお前の性格を考慮しての判断であり、間違ってはいないと考えている」


「ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ随分な物言いでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? それじゃなんですか? 私が今までクソみたいなメッセージ送ってきたっていいたいんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? だったら例をあげてみてくださいよそのクソみたいなメッセージの例をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


「タイのバンコクの正式名称は、クルンテープ・プラマハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロックポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット」


「……は?」


「ピカソの本名は、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」


「……え?」


「世界一長い地名はニュージーランドのタウマタファカタンギハンガコアウアウオタマテアポカイフェヌアキタナタフ。意味はマオリ語でタマテアという、大きな膝を持ち、山々を登り、陸地を飲み込むように旅歩く男が、愛する者のために鼻笛を吹いた頂」


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! なんですかいきなり始まったその長い名前シリーズは! 脈絡なく~~~~~~~意味不明~~~~~~~~~~」


「ほぉ……意味が分からんか」


「全然皆目ですね。もしかして誤魔化そうとしてますか?」


「違う……煙に巻こうとかしてんじゃない……これらはな……連絡先を教えた日にお前が送ってきた内容だボケェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? じゃないんだよ馬鹿! 俺、教えた時に言ったよな!? くだらない事で連絡してきたら殺すって! それをお前はその日のド深夜に三連発で送ってきたんだよこの内容をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


「すみません記憶がないです」


「おいおい脳みそ八ビットか? ぴゅう太か? ガッタンゴットン起動させる程度の容量しかないのかテメー」


「あ、すみません。私ぴゅう太は持ってなかったので、そのゲームの内容が分からないんですが……」


「マジかよ知らねーのかよ。ほらアレだよ。チクタクバンバン」


「あぁ。あれのゲーム版。類似ゲームよくありますよね。私あれ系大好きです。ソシャゲで出ないかなー。電車を擬人化して走らせたりするとか面白そうじゃありません?」


「おいおい擬人化とか、そんなもん平成から続きまくってる手垢塗れのコンテンツだぞ……ウマとか刀剣とか確かに人気あるけども完全にレッドオーシャンで入り余地もねーよ」


「大丈夫ですって! 今も昔もスタンダードかつポピュラーなコンテンツなんですから! オタクはチョロいからすぐ人気出ますってこれ! 絶対売れる! 間違いない!」


「でも鉄道擬人化は既にまいてつがあるからなぁ……」


「え? あるんですか?」


「そりゃお前、鉄道なんてオタク趣味がされてないわけないだろ」


「やられた~~~~~~~~~~もっと早くに計画しておくべきだった~~~~~~~~~~二十代! いや十代の私よ~~~~~~~~~~~~~~! 今から思念を送るからそれをキャッチしてパラレルワールドでガッポガッポ稼いでくれ~~~~~~~~~~~~~うぉ~~~~~~~~~~~~先駆者として利権を貪れパラレルの私~~~~~~~~~~~~~!」


 いや、多分十年二十年前でも遅いんじゃねーかな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る