サキュバス、諸行無常の響きを奏でました15

「ところでご飯どうしますかピカ太さん」



 切り替え早いな。



「今からもう一度作るってのもなんか怠いし、どの道散歩に出る予定だったから外で食べるよ」



 幸いにして洗い物はマリとプランがやってくれているし、もうすぐに家でちゃお。正直体力がどこまで持つかは分からんが近くのファミレスかカフェなら徒歩十分余り。耐えられる……それくらいなら……!



「あの……」


「あ?」


「私はどうすれば……」


「あぁ!?」



 知るかボケェ。自分でなんとかしろ自分でぇ。



「……ピカ太さん」


「あ?」


「奢って?」


「なんでお前に奢らなかんねん馬鹿かぁ? だいたいお前の方が収入上だろうが殺すぞ」


「いやぁ、実は私今、ゴス美課長にお金の管理されてまして……」


「なんで?」


「いえね? この前プロセカに百二十万程ぶっ込んだ事バレたらブチギレられまして……それで、”お前に金を持たせるとろくな事をしない!”と、カード没収。電子決済アプリも消され、スマフォに紐づけられている情報も消されてしまいました……」


「それおかしくないか? ウマの時はともかく、今回はお前のポケットマネーから出したわけだろ? 何に使おうが自由だろ」


「それがですねぇ……」



 ……なんか嫌な予感がする。



「使ったのは私の物になる予定のお金と言いますか、来月分のお給料といいますか……」


「え? 横領したのお前?」


「いやぁ? 将来的に自分の物になるのであればまぁいいかなぁなんて軽い気持ちでやっちゃったんですけど、もう激怒されちゃって精神的にぶち殺されちゃいましたぁ」


「……お前クズだな」


「そんな事言ったってお金なかったんだから仕方ないじゃないですか!」


「開き直って逆ギレるな馬鹿。だいたいなんで横領するまでカツカツな生活になってんだよお前は」


「ほら、あれあるじゃないですか。Youtubeに出てくる、”ところで別収入! ところで高額収入! ところでサブワーク! ところで月収百二十! これ利率高すぎ~~~~~~~メンマ!”ってやつ。ちょっと、あれ試してみようかなぁって思って連絡したら、なんか、ツールの最適化だの、サーバー費用だの、テキスト代だの、サービス費用だので、絞られるだけ絞りつくされ……」


「……馬鹿なの?」


「だってしょうがないじゃないですか! 私だって怪しいと思ったんですよ!? でも楽してポチポチスマフォ弄ってるだけで配信一本分くらいのお金が稼げるってそれめっちゃ効率いいじゃないですかぁ! ってなって! なんなら動画撮らなくてもいいくらいの稼ぎが生まれる可能性もって考えたらそりゃあもうやっちゃいますよ! で! 最初に幾らか私払っちゃったんですが、そしたらですねぇ! 止まらない! 止められないんです! せめて支払った分だけでも回収しないとっていう気持ちが強すぎて後に退けなくなってしまうんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! たはーーーーーーーーーーーーーやられたーーーーーーーーーーーーー! これはホント上手い事考えられた悪徳なサービスだなぁーーーーーーーと思いましたーーーーーーーーーーーー!」



 詐欺被害者の典型的な心理過ぎる……お前は絶対株とかFXの類はやらない方がいいぞ。



「お前、Vチューバーやりたくてやってんだろ? なんで動画撮る事にちょっとネガティブな感じ出してんだよ」


「え? そんなもん決まってるじゃないですか。過激なファンな方々がちょっと面倒くさくなってきたからですよ」


「お前のファンってクソ雑魚テンプテーションで魅了(弱)してる奴らだろ? 十分ハンドリング可能なんじゃないか?」


「甘い。甘いですよピカ太さん。私のテンプテーションは弱いが故に、強力な作用を発揮する時があるのです」


「どんな風に?」


「私の術はご存じの通り不完全なもの。相手の自我を支配するレベルには到達していません。ですが、その結果として本心から私に魅了されてしまう人間がでてきてしまうんですよ」


「なんだそれ」


「分かりやすくいうと、夢に出てきた人に恋心抱いちゃう事ってあるじゃないですか。それです」


「え? 分からん。そんな事ある?」


「あるんですよ! 普通の人間だったらそんな事いっぱいあるんです!」



 そんな力強く言われてもしらんがな……



「で、それだとなんで面倒なんだよ」


「なまじ自我が働いている分、制御が効かないんですよ。自分の意思でやってるからこっちのいう事も聞かないし……良かれと思ってとんでもない暴走し始めちゃうことがまぁ多々あって……そのせいで掲示板とかTwitterで諍いが起きたりしてて対応がまぁ怠いんですよね」


「トラブル起こすなって言えばいいんじゃね?」


「そんな事言って聞くわけないじゃないですか! 私の言葉だって自分達の都合のいいように脳内捏造してるんですから! あれですよあれ! 善意への道は地獄に繋がるとかっていう、中学生が好きなあの言葉のまんまですよ! もっやってらんないってこっちは!  おまけに仕事もあるし動画は撮らないといけないし! そらあんな詐欺PRに引っかかりますって! メンタルやられてる時に正常な判断ができるわけないってマジで!」



 なんだか大変そうだだな……知ったこっちゃないけど。



「というわけで奢ってくださいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! お願いですからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 お願い……お願いかぁ……

 はぁ、ほんと、俺は願われると弱いんだよなぁ……



「……しゃあない。今回だけなんか奢ってやるよ」


「やりぃ! ありがとうございますピカ太さん! あ、アルコールは?」


「なしに決まってんだろ!」


「え~~~~~~~~い・け・ずぅ~~~~~~~~~~~~」


「調子のんなボケ!」

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