サキュバス、諸行無常の響きを奏でました8

 タップタップ。通話……


 プププ。プププ。トゥルルルルルル。トゥルルルルルル。トゥルルルル。プッ。



「もしもし。都仁須でございます」


「あ、もしもし都仁須さん? 私、マリとプランの保護者でございますが……」


「やや! その声はグレート! グレートですね! お電話ありがとうございます! 僕です! オランです!」


「あ、どうも。今日はマリとプランと遊んでくれてありがとうね」


「いえいえ! 大したおもてなしもできず……」


「いやぁそんな事はないよ。二人とも喜んでたし」


「それはよかった! ずっと巨人の星を鑑賞していただけなので別段僕は何をしたわけじゃないんですが、喜んでいただけたのであれば幸いです!」


「ははは」



 とりあえず愛想笑いで返答したが、本当にアニメ観てただけなの? それでいいのか小学生。外で駆けまわったりゲームしたりしないの? せっかく人数いるんだからなんかすればいいのに。でも複数人で遊ぶっていったいなにをやるんだろう。俺、ずっと一人だったから分からないや……



「ところで、ご両親いる? 代わってほしいんだけど」


「あ、はい。少々お待ちください」



 悲しい記憶は消し去って、さっさとお礼だけ言って切ろ。



「もしもし。お電話代わりました。オランの母です」


「あ、もしもし。私、マリとプランの保護者をやっております、輝と申します。本日は二人がお世話になったようで、大変ありがとうございます」


「あぁ。わざわざお礼のお電話を? とんでもないです。こちらこそ女の子に遊びに来ていただいて花が咲いたような気持でした。いいですね女の子。一人家に譲ってほしいくらいです」


「ははは」



 愛想笑いで返答。

 なんか、そこはかとなくヤバイ感じがするんだが気のせいだろうか。



「いやねぇ? うちなんて男ばっかりでしょう? もう困っちゃうんですよぉ。他と比べて落ち着いてはいるんですけど、ほら、やっぱり女からすると考えられない事するじゃないですか。変なところ怪我したりとか、服に穴空けてきたりとか。そうそう。この前なんて上着が焦げてて、何をしたの? って聞いたら”素手で焼き芋を取れるかやってみた”なんて言い出すんですよ。私もしかしたら苛めにでも遭っていて、それを隠すために馬鹿な嘘を吐いたんじゃないかなんて思ったんですけれども、どうやら本当に焚火に手を突っ込んだらしくて、あまりの馬鹿さ加減に呆れて怒る気すら出ませんでした。なんでも、男子生徒で集まってそういう度胸試しみたいな真似を度々行っているとかなんとか……嫌ですねぇまったく。困ったものですよ」


「あ~~~~大変っすね!」



 知らんがな。お前の家庭が男ばかりなのも上着を焦がした事も度胸試しの事も全部知らんがな。興味すら湧かんがな。



「本当に大変! 大変なんです! 先日もねぇ、塾が終わってるのに帰ってこないなぁなんて思ったら連絡があって、”知り合いとバッティングセンターで遊んでいくから返るの遅くなる”ってメッセージがきたんですよ! こっちはもう晩御飯の準備もしているのに! 早く片付けたいのに! いきなりスケジュールが押す旨を伝達されてもう溜息! もう少し大きければ”勝手に食べてきなさい”って言えるんですが、さすがに小学生にはねぇ……」


「そうっすね~~~」


「そうなんですよ! なんで親の心子知らずってよく言ったものですよねぇ。あぁそういえば、今日の晩御飯、お寿司を頼んだんですけれども、マリちゃんとプランちゃんは本当に美味しそうになんでも召し上がってるのに、うちの子は”きゅうりは嫌いなんですよねぇ”ってかっぱ巻きを残すんです。他人様が遊びに来ていらっしゃるんですからあまりみっともない真似はしないようにって叱るんですけどもちっとも聞きやしない。仕方ないのでかっぱ巻きだけ私がいただいたんですが、まぁ本当に困ったもので」


「いやぁ好き嫌いはありますよねぇ」


「それはまぁそうですけどもねぇ。もうちょっと大人になっていただきたいものです。あぁそういえば輝さん、保護者会についてなんですが、奥様からお話し伺っていますか? 今度のチャリティーバザーについてなんですけれども」


「奥さん?」


「ほら、ゴス美さん」


「あぁ……あれは別に結婚してるわけでもなく、共同の保護者みたいなもので……」


「あ、すいみませんすみません。私ったら他人様のご家庭の事情に首を突っ込んでしまいました」


「いえ、それは大丈夫なんですが……チャリティーバザーというのは……」


「あぁはいはい。こちら、教育支援を目的として行っているんですが、テント設営など毎年何かしらの力仕事がございまして、ご協力いただけないでしょうかというお話しでございます」


「ははぁ。なるほど」


「お仕事などで中々難しいとは思いますが、是非よろしくお願い致します。最近人手が足りず、町内会の方々に手伝っていいただいているという現状がございまして」


「そうですね。課ちょ……ゴス美がきたら相談してみます」


「はい。よろしくお願いします」


「はい分かりました。それでは、失礼します。夜分遅くすみませんでした」


「いえいえ。二人にまた遊びに来てねとお伝えください。それでは」



 ティルリン。



 ……終わった……疲れた。

 話が長いしどうでもいいんだよ。あんな会話は主婦仲間で共有してくれ。しかもチャリティーバザーて。くそめんどくさいけどこの流れ参加しなきゃいけない感じじゃねーか。だるー電話なんかしなきゃよかった……

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