サキュバス、大型スーパーマーケットで休日を過ごす事に情緒を感じ始めました9

「いただきまーす!」


「……」



 ま、きてしまったものはしゃあない。食べよう。

 しかしなんだな。安いランチとはいえ、存外見てくれはいいじゃないか。肉厚で食いでのありそうな牛タンが四枚。その端には例の辛いやつが添えてあって、小鉢には漬物。おまけにスープととろろがついていて麦飯が食べ放題ときている。これで約千円とは恐れ入る。あれ? 馬鹿にしていたがランチって素晴らしくね? お得で美味しくいただけるメニューなんじゃね? なんか、既に肉抜きされてるファイターマグナムを初心者用と思って舐めていたら思いの外面白い機体だったみたいな、そんな嬉しい発見。これは良い知見を得た。今度からは、「ランチメニューなんてダッセェよなぁ」なんて小馬鹿にせずに選択肢の一つとして考慮するようにしよう。



「うわぁ見てピカお兄ちゃん! この牛タン、箸で押すと肉汁があふれ出てくるよぉ!?」


「……」


「よーしいただきまーす……ん-! 凄ーい! 柔らかーい! こんな牛タン食べたの初めて! 美味しいー!」


「……」



 熟成黄金牛タンのダブルセット。いったいどんな味がするのだろうか……いや、やめよう。想像したところで俺が食えるわけでもなし、考えてもしょうがいない。今日の俺の昼はランチ。牛タンのスペシャルランセットだ。これだってきっと美味しいからいいんだ。どれ一口食べてみようじゃないか。さすれば解するだろう。ランチ牛タンの味。どれどれ……

 ……うん。普通。普通に美味しい。他の牛タンと比較して柔らかいとかジューシーとかいった特色はない、いたって普通の牛タン。でもそれでいい。いいんだよ普通で。別に熟成

されてなくたって黄金じゃなくたってダブルセットじゃなくたって、等しく牛タンなんだから。競わず持ち味を生かす事が大切だよな。うん。美味しい美味しい。ボロボロ崩れる麦飯と脂っこい牛タンの相性といったらない。いやぁ美味しいよランチメニューの牛タン。頼んでよかった。



「ピカお兄ちゃん、美味しい?」


「あぁ」


「ふぅん。一枚頂戴?」


「お前の黄金牛タンと交換なら考えてやる」


「え~~? がめつ~~~~い」


「無償トレードを仕掛けてくるお前の方ががめついと思うんだが」


「それはだってほら、妹の特権的な?」


「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」


「残念ながら我が家系の一族は歩く治外法権と呼ばれておりますので、日本国憲法の効果は無効化されるのです。というわけでピカお兄ちゃんはターンエンド。そして私のターン! 熟成黄金牛タンの効果発動! 熟成黄金牛タンが攻撃表示の時、相手フィールド上の牛タン属一枚を選びコントロール権を得る事ができる!」


「お、俺の牛タンがぁ!」


「じゃ、いただきまーす! あ、いけるねこれも。美味しい美味しい」


「俺のなけなしの牛タンをそんなあっさり食べるな!」


 いかん! 牛タンが除外されちまった! これは痛い! 計画が台無しじゃないか! おかずローテーションの再考が必要だぞ! くそぉどうすっかなぁ……うぅん、まずは残り二枚のタンを主軸に、漬物を挟みつつ、辛いやつ単独で飯を進ませよう。からいやつは本来、牛タンとセットでいただくサポート役。つまりはGファイターのような役割を担うはずであったが致し方なし。ここはこいつに谷間のローテを頑張ってもらう。順番としては、漬物、辛いやつ、水、牛タン、漬物、漬物、スープ、辛いやつ、水、牛タン、スープ。で麦飯を平らげるのが理想。その後はおかわりを頼み、とろろを楽しむ算段。頼むぞ漬物。お前にかかっているからな! よ~~~~し……いざ開幕! まずは漬物! 麦飯! 辛いやつ! 麦飯! 水! うっわ思った以上辛いわこれ! いや知ってた! 知ってたけどもやなぁ! 我慢できると思った! 俺ならいけると! 長男だから頑張れると思っていたぁ! でもこれ無理! 水水水! 麦飯麦飯! ……あぁ! なんという事だろうか! 一掬いのからいやつのせいで麦飯が半壊! これではローテーションもくそもあったもんじゃない! リカバリのしようがねぇ~~~~~~どうすっかなぁ~~~~~~~



「ピカお兄ちゃん牛タン食べないの? もらっていい?」


「馬鹿! お前、俺からこれ以上俺から肉を奪うというのか!?」


 

 それじゃただの漬物と辛い物セットになっちまうよ! パティのないハンバーガーみたいなもんだぞ!




「冗談だよぉ。まったくピカお兄ちゃんは卑しいなぁ」


「どっちがだ!」


 

 まったくいつからこんな風になったんだピチウは。昔はもっと可愛げがあったというのに……ってその昔が思い出せねぇんだよぉなぁ! よし! いいタイミングだ! いい加減わだかまりもあるし、率直に俺の過去について聞いてやるぞ! 



「なぁピチウ」


「うん? なぁに?」


「その、昔の事なんだが……」



 聞くぞ~~~~~~~聞いちまうぞ~~~~~~~~ちゃんと答えろよピチウ~~~~俺の過去について知ってる事全部~~~~~~~~~~~~~




「お客様、お水よろしいでしょうか?」


 

 え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!



「あ、くださ~い!」



 またもや~~~~~! またもや障壁~~~~~~~! なんなんここの店員~~~~~~狙ってやってきてるの~~~~~~~~~? 困るんですけど~~~~~~~~~~~~?



「こちらはいかがいたしますか?」


「あ、ください」


「かしこまりました」




 とりあえず、呑んで落ち着こう。水。



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