サキュバス、大型スーパーマーケットで休日を過ごす事に情緒を感じ始めました6

 まぁいいともかく下降だ。行きはエレベーターを使ったが今度はエスカレーターを利用しよう。


 そんなわけで、はい。テクテクと乗り場に到着。あとは移動するだけ。


 しっかしエスカレーターとエレベーターって未だにどっちがどっちか迷うんだよなぁ! 漫画とか描いてたらエスカレーター背景にして「よし、このエレベーターを使おう」みたいなミスしちゃうそうだなぁ! でも「よし、このエレベーターを使おう」なんて台詞を使うタイミングが今一つ思い浮かばないから多分大丈夫な気がする! エスカレーター選択を宣言するってどんな場面~~~~~~~~? 複数のエスカレーターのうち一つが硫酸のプールに繋がっているみたいなデスゲーム~~~~~~~~!? やだーーーーーライダーマンになっちゃうーーーーーーー! 



「ピチウお前、エスカレーターとエレベーターってどうやって区別つけてる?」


「レはエスカレーター乗ってる人の象形文字っていうイメージを記憶にピン止めしめ覚えた」


「……頭いいなお前。じゃあ、エレベーター乗った際、開と閉ってあるじゃん。あれたまに間違えるんだけど、なんかいい見分け方ない?」


「門の前でオロオロしてるのが閉」


「うわぁなんかスゲー認識しやすくなってきた気がする! じゃあ、エレベーターの開閉を矢印(←→と→←)で表現してるやつあるじゃん! あぁいうのは!?」


「真ん中が詰まってるのが閉まる」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉすげーーーーーーーー! これで二度と錯誤する事がなくなったような気がするぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! お前発想力の化物だな! 我が妹ながら恐ろしいぜ! いったい何処でそんな柔軟な発想を培ってきたんだよぉ!?」


「ジャス子」


「……は?」


「ジャス子だよピカお兄ちゃん。夏休み、友達が旅行としてる間に一日ジャス子に入り浸って、あれこれ思いながら過ごしてたら閃いたんだよ」


「……そっか!」



 想像の起源はジャス子にあり。そういう事にしておこう。それ以外は何も気にしない。気にも留めない。触れる必要のない悲哀はスルーの一手! 藪をつつく事はないのだ。

 そういえば俺も家族旅行の経験なんてないなぁ。まぁ記憶そのものがなさげなんだけども、物心が定まってる時代にもないんだから多分ないんだろう。家業上仕方ないといえば仕方ないのだが、クラスの奴が「夏休みにグァムに行ってさぁ……あ、違う違う! グァムね、グァム。グアムじゃないよ?」なんて自慢話を「へぇ」って聞いていたもんだよ。



「ともかく牛タン食べに行こう。奢ってやるから好きなタン食べろ!」


「やったー! 私タンだぁい好き!」


「お前そんなに牛タン好きだったか? 家族で焼肉行った時、レバーばっか食べてた記憶があるんだが」


「ピカお兄ちゃんは本当に昔ばかりを参照するね。がっかりですよ私は。今を見てほしい。今を」


「最近好きになったの?」


「そうだね。前、鬼退治したじゃん。その帰り、お母さんと一緒にご飯食べにいったんだけど、その時に」


「ふぅん」



 そんなレベルの最近かよ。



「詳しく聞きたい? 聞きたいかぁ……じゃ、教えてあげるね? 私とタンの出会いを」


「……」



 別に聞きたくないんだけど、これは耳に入れないといけないパターンのやつだわ。移動中のBGM代わりになってしまいそうだわ。くそだるいわ。やっぱキャンセル……あ、駄目だわ。もう完全に口を開いていらっしゃるわ。完全に口を挟む余地がなくなってしまったわ。やれやれ……




「車の中で、なに食べよね~なんて話してたら、なんか看板が出てるんですよ。牛タンって。私はてっきり焼肉屋さんかと。タン推しのコンセプト経営をしていらっしゃるんだと思い違いをして、”お母さん。タンですって”なんて言いましたところ、じゃああそこにしましょうかと、トントン拍子で入店という運びになったんです。そしたらもうね、凄いの。なんか凄く丁寧な接客で席に案内されたんですけどもねぇ。まるでレストランみたいな佇まい。おまけに網がないから、あ、これが七輪を用意してくれるタイプなのかなーさすが高級なお店は手間がかかってるなぁと勝手に思っていたんです。で、メニュー見てびっくり。ないの。部位メニューが。見事にタンばっか。しかも写真をみると全部調理済み。これはひょっとして焼肉屋さんではないのではと気付き始めた矢先、お母さんが店員さんを呼ぶんです。知っての通りあの人、迷いや悩みを嫌いますからね。ご飯屋さんの注文メニューなんて秒で決めなきゃお叱りを受けるわけで、万事平和を愛する私はままよと”すいませーん! このダブルタンタンセットくださーい”なんてオーダーをいたしましたんです。待つ事二十分。やってきた大量のタン。そうなんです。この店、タンが二種類あるんですけれども、その二種をセットで大盛にしたのがダブルタンタンセットだったんですね。いやぁこれはしまったなと。お母さんは食事を残すと大変お怒りになりますから、これは土山しげる先生の漫画が如く、死ぬ気で完食せねばと、邪道喰いしてでも残さず食べねばと決意して一口いただいたんですが、これがもう、美味しい美味しい。へぇ~~~タンって今までカルビやロースの前座かと思ってんだけど完全に主役張れる器だったんだぁ~~~~ポテンシャル半端な~~~~~~い! といたく感動いたしまして。それでこうしてすっかり魅了され好物になったというわけです」



 なるほどそんな理由が。

 分かる、初めて牛タン専門店で焼かれたタン食べた際の感動。俺も似たような感想を抱いたもん。付け合わせのなんか辛いやつと一緒に食べるとヤミツキどころか中毒症状が出ちまうよ~~~~ってな具合にパカパカ白米が進んでおかわりもしてしまうよあれは。いやぁ美味しいよね牛タン。



 それはさて置き、ピチウお前さ……



「お前、好きなもの語る時、オタクみたいな口調になるのな」


「え? そんな事ないでしょ?」


「いや、なんかオタキングみたいな喋り方になってたぞ」


「うっそだぁ! そんな事ないって! だって私、漫画夜話で男塾語ってたくらいでしか知らないよあの人!」


「そんな感じになってたんだよ。間違いなく」


「……」


「……」


「……今後はちょっとだけ気を付けようかな」


「そうした方がいいな」


 


 たまに観るけどねオタキングのYoutube動画。切り抜きだけだけど。

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