サキュバス、黄鶴楼にて上司の恋路に之くを送りました8

 とはいえ今日はしっかり働きますよっと。でないと定時に帰られないからな。おかしいよね。声高にライフワークバランスとか提唱されているのにどうしてウチの会社は、いや、世の中にある大半の企業は残業あり気でものを考えるんだろう。まぁ百歩譲って残業はいいよ。俺が許せないのはそういう環境を作っておいて「あ、原則定時退勤オナシャス」と要望してくる上の連中よ。仕事自体はバッチリ取ってきて「ウチなら他社より早くできますが?」「業界最速ですが?」みたいな戯言をお吐きになれと営業に吹き込むんだもん。それで皺寄せくるのこっちなんですけどーー!? 睡眠もままならない黒の剣士が誕生してしまうんですけどーーー!? ま、営業の方はアフターフォローとかこっちのミスで頭下げざるを得ない事が度々あるから、それを考えると持ちつ持たれつかもしれんな。足の引っ張り合いともいうけど。


 そんな負の連鎖により積み重なった仕事も後一件。よく頑張ったよ俺。ここまで本当に長かった。いやぁ連日タクシー帰りで三時間睡眠の後また出勤ってお前、古代エジプトの奴隷の方がまだ人間的な生活してるぞ? 会社に泊った方がいいじゃんなんてリアルに思い始めてきてヤバさを実感。人間、仕事を中心に考えると命を削る事に抵抗がなくなってくるんだなって知りたくもない事知っちゃった。しんどい。上長こんな生活ずっと続けてんだから偉いよ。酒の蝕まれながらもちゃんと仕事はしっかりやってるから偉いよ。そして死ななくて偉いよ。ホントよく生きてんなあの人。俺なんて二日目で死を覚悟したぞ。ブラック企業に勤める皆様お疲れ様です。労働者は法律によって守られているだなんてまやかしに唆されず立派に責務を全うするその姿勢、尊敬いたします。でもお前らが黙って働くから一向に日本の労働環境は改善されないんだからなぁ!? 社会人としてとか大人としてとか考えなくていいから不利益出たらちゃんと言えよぉ!? ま、言えないから俺はこうして働いてんだけどね! ガハハ! 

 そんな事より完成したぞ最後の仕事が。どうでもいいけどタイトルの”リプライマーケティング実例と効果”って学生のレポートみたいだな。こんな薄い内容かつ恣意的に集められた報告書に価値があるのかは分からんが、仕事内容の意義を考えたら負けだ。やれといわれるからやる。それだけでいい。それだけで……はい、そんなわけで送信! タスク全件完了! 俺はこのターンでタイムカードを切らせてもらうぜ! 効果発動! 定時ダッシュ! 帰るぞ~~~~~~~~




「輝さん」



 誰だ俺の定時ダッシュを阻む奴は!? あ、不破付さんか。なんだぁ? てめぇ? まさか「やっぱり帰るんで仕事できません」なんて言うんじゃないだろうな!? ふっざけ!? おま、ふっざけなさるなよ!? 男がぁ~~~~~男が一度引き受けた事はぁ~~~~~~何があっても返しちゃいけない~~~~~~~よって、もし返上しようものなら逆ギレかまして速攻立ち去ってやろ。後でどうなるか分からんが俺は今なんだ。明日は明日の風が吹くよきっと。



「どうされたんです輝さん。なにやら怖い顔されてますが?」


「あ、いや、もし仕事できないと言われたらどうしようかなと」



 もういいや全部正直に言っちゃえ面倒くさい。



「あ、なんだそんな事。大丈夫ですよ。僕はこれから女と会う人間を邪魔するほど野暮じゃないんで」


「そうですか。それはよかった&ありがとうです。しかし、それではいったい何の御用が?」


「いえ、確認しておこうかと思いまして」


「確認? なにを?」


「女の子ですよ女の子。女の子の写真」


「はぁ?」


「ほら、今度食事に行くっていう女の子達の写真。あるんでしょう?」


「ない」


「え?」


「ないですよそんなもん。お見合いじゃないんですから」


「え~~~~~~~? じゃ、担保がなく~~~~~~~? 開けてびっくりなサプライズ演出を楽しめと~~~~~~~~? とんだミステリーツア~~~~~~~~旅行ならドキドキだけど合コンだと不安しかね~~~~~~~~」


「別にいいしょう。女なんてどれも同じですよ」


「うっわ輝さん。今どぎつい女性蔑視発言でしたよ」



 お前の口から出る言葉よりだいぶマイルドだと思うぞ。



「ともかく~~~~なんとかして写真もらってくださいよ~~~~~一人でいいから~~~~~ねねねね! ね!?」


「うるさいなぁ……そんなに気になるんですか女の面」


「そりゃそうでしょうよ! しがらみなく楽しい一夜を過ごせるのが合コンのメリットですよ!? そんなお楽しみ会の相手が仮にくさったしたいとかがいこつけんしみたいな感じだったらもうそれはハロウィンパーティーでしょう!? 望まぬスリラーナイトに僕のテンションは火葬直葬で昇天です!」



 なんとまぁ酷いルッキズムだ。こんな人間がさっき女性軽視なんて言ってたんだぜ? 信じられないよな。



「じゃあちょっと幹事の女に聞いてみますけど、”好みじゃないからやっぱりパス”なんて事はなしでお願いしますね?」


「その場合大変気は進みませんが、保証しましょう。男に二言はありませんから」



 その台詞を聞いて安心したぞ不破付さん。では仕方ない。超絶に嫌だけど阿賀ヘルにメッセを……うん? そういえばこのメッセージアプリ、確か写真投稿機能があったな。もしかしたら……お! やっぱり! 阿賀ヘルめ! 知り合いしか登録していないと思って自分の面が写った写真を投稿してやがる! 迂闊よな~~~そんな事してると~~~~


「あ、こいつです」


「ほほぉ~~~中々の上玉ですなぁ~~~」



 と、こんな風に晒されてしまうのだ。

 この情報化社会でプライベートを公開するなど愚の骨頂。新にクローズされたweb媒体などない物と知れ。

 あまり趣味はよくなく多少の罪悪感はあるものの、こんな風に簡単にアップロードする方が悪いのだ。俺に罪はない。




「満足ですか?」


「えぇ! そりゃあもう! ま、そこそこいい感じに興奮してきたので仕事頑張れそうです!」


「そいつはよかった! じゃ、僕は上がります!」


「はい! お疲れ様っした~~~~」




 お疲れ不破付さん! お先に上がります! 退勤! そして行くぞ! レストランへ!




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