サキュバス、合コンって言葉が死語になりつつあるって事に時代の流れを感じざるを得ませんでした10

 ……恐怖は酔いで克服しよう。さぁビールビール。ピッチャーのビールっていまひとつ好きになれないんだけどここのは中々。多分容器が二重底のガラスなのが要因だろう。スゲーなどこで買うんだこんなの特注かぁ?



「輝さん。他にはどんなお仕事なされているんです?」


「え? 他にはですか?」


「はい。後学のために色々お聞きしたいなと」


「なるほど」



 そうそう。こういう奴は真面目だから話題領域が仕事に重なると途端に興味を持ち始めるんだよな。飲み会くらい仕事の事忘れて馬鹿な話してりゃいいのにとは思うが、まぁそれも人それぞれ。愚痴言いたいって奴もいればお気持ち表明の場にしたい人間もいるし、マグみたいに勉強熱心なのもいる。それぞれの価値観の元酒を楽しもうと意気込んでいるのだから、それは尊重せねばなるまい。



「ではお一つお耳汚しをいたしましょう。まぁ大した話ではないんですが、ウチで担当してるVチューバーの事を」



 かいつまんでユーバス・咲ことムー子の事を話してみるか。個人的にはこれが一番の鉄板だ。アホな話には事欠かないからなあいつ。



「去る日。僕は件のVチューバー……そうですね。仮にYとでもしておきましょうか。彼女と共に、とあるイベントのため会場に入りました。ハコは小さく、まぁ地下アイドルみたいな活動をする予定だったんですが存外ファンが集まりまして、これは成功だなとひとまずの安心をしていたんです。ところがそれも束の間。楽屋でスマフォを片手に打ち震えるYの姿。”どうした”と声を掛けると、奴はこう言ったんです」



「この会場の中に。私のアンチがおる」



「思わず”はぁ?”という言葉が出ました。本番前に何を言い出すんだと。で、あまり深入りしたくなかったのですが仕方なく聞いてみたところ、どうもエゴサしてたらしんですよね。おいおいこんな時に自分から悪口覗きにいってどうすると思いはしましたが、見ちゃったものはしょうがない。ともかくとして、イベントは開催しなきゃいけないものだから、とりあえず落ち着くよう諭したんです。でもね、Yはまったく聞く耳もたず、生身のままで飛び出してステージに立ってこう叫んだんです」



「誰じゃあ! ”とりあえず会場入りしたけど、ユーバス・咲ってクソだよねー。始まったら速攻咲クラップと同時に煽りコールしたろ"ってツイートした奴ー! ぶち殺すぞー!」



「もうね。会場騒然。スマフォの写真を向けてYの姿を撮ろうとする輩も当然出てくる。これはまずいと思ってとりあえず会場の電気全部落としてからアナウンスですよ。”皆さん。過激なファンが入場したようで”と。でもね、皆気付いてるんです。そいつが中の人だって。だってそうでしょう。声が一緒なんだもん。バレるに決まってる。で、そっからが凄かった。”ユダだ! ユダがいるぞ!” ”アンチ殺すべし!” なんて過激な信者がいる一方、”おもしろすぎるだろ! やっちゃえ皆さん!” ”推しがやられてんのに日酔ってる奴いる~~? いね~~よなぁ~~~!”と野次馬根性丸出しで暴動を見物するアナーキスト共が扇動する始末。事態は混乱を極め収集が付かず、かといって今更中止にするわけにもいかず、もういいやとなって曲を開始。ヤケクソ気味なYの生ライブとそれどころじゃない会場の暴動でハコは混沌となり、全てが終わった後には死屍累々の山ができ上がっていました。この事件は後に、サキュバスの人柱事件としてwebで小さく語られています。いやぁこれ、社長から大目玉を喰らいまして。”自分達しでかした事を自分達の目で見ろ”なんて言われちゃって、騒動の経過と内容を観察してまとめる事となりました。酷い騒動でしたよあれは」



 あの時は本当にどうしようかと思ったよ。下手したら人死にが出るところだった。ホント、大ごとにならなかった事だけが救いだったな。帰った後ムー子がゴス美にめっちゃ詰められててクソ笑えたけど、結果としていらん仕事が増えて誰も幸せにならない案件となってしまった。あそこのステージは多分二度と使えないだろうな。



「ユーバス・咲はその後どうなったんですか?」


「変わらずV活動してますよ。あれ? 僕、本人の名前いいましたっけ?」


「えぇ。思いっきり。それに、その事件に関してはウチの会社でも少し調べましたので知っています。リアルイベントが起因となって発生した炎上事例として取り上げさせてもらいました。事件の裏が知れて、大変面白く参考になりました」


「そうですか。お力になれてよかったです。あと、この話は聞かなかったことにしておいてください」


「分かりました」



 ふぅ。話の分かる人間で助かるぜ。もしこれで情報が外部に漏れたらまたどやされる。始末書じゃ済まんぞ。ちょっと業種も被ってるし内容は気を付けないとな。さて、それを踏まえて、次はどんな話を……




「は~~~い皆さ~~~~ん。そろそろ席替えタイムといきましょうか~~~~」




 あ、そういう感じ? 四体四で席替えとかしちゃう感じ。煩わしいなぁもう。でもまぁ、これで暴走する乳から目を背けられるか。いやぁ話はそこそこ盛り上がった気がするが、やはりデカイ乳が目の前にあるとどうにも泡肌が立ちそうになるんだよな。離れられてよかった。して、次の対面は……



「どうも~~~輝さ~~~~~ん。ライコで~~~す。よろしく~~~~~~」




 ドグか……う~んスレンダーなのはいいんだが、喋り方がなぁ……あと、こいつが履いてるミニでタイトなスカートがちょっと嫌だなぁ。

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