サキュバス、合コンって言葉が死語になりつつあるって事に時代の流れを感じざるを得ませんでした9
グラスが鳴ってようやくスタート。これでやっと、本当にやっと酒が飲める。始まるまでが長すぎなんだよ。Zが出てくるまでのZガンダムかっての。引っ張り過ぎだ馬鹿。
でも始まったからといって楽しい時間というわけではないんだよなぁ。どうしよ。一応、礼儀的に目の前にいるマグに話を振った方がいいんだろうか。しかし何を? 俺はこいつについてちっとも興味がないし菜園なんかもてんで知識がないぞ。「魔界のオジギソウって本当に気が荒いんですか?」とか聞けばいいのか? それにしても植物使いって蔵馬以外あんまり思い浮かばないなぁ。七つの大罪に出てるって話は聞いた事あるけど途中から読んでないから分かんないや。忙しくなって途中で追えなくなっちゃったんだよなぁ。アニメ化もゲーム化もしてる大作なのにリアルタイムで楽しめなかったのは悔しい限り。鈴木央先生の漫画は金剛番長も読了していなかったし、今度まとめて買うか。
「輝さん」
「あ、はい。なんでしょうかマ……識場さん」
あっぶねー。危うくメーガス名で呼ぶところだったぜー。
「なにか私に対して質問とか、ないんですか?」
「質問?」
「そうです。こういう場では男性陣がトークのエスコートをするのが常と聞いているんですけど」
「あ、なるほど。会話を弾ませろと」
「端的に言うとその通りです」
「すみません。こうした場には疎いもので」
「結構です。私もよく知らないので。でも、もっと明るくした方がいいとは思います。機嫌が悪いのかなと勘ぐってしまうので」
「性分的なもので如何ともし難いのですが、善処します」
ははぁ。この女。思った事をズケズケと言うが裏表のない人間と見た。経験則になるが間違いなくそういうタイプ。会社に何人かいるけど、この手の奴は空気を読まない反面しっかり対応すれば反応してくれるから、対話にいおいてまだ楽な部類に属する。一番困るのは反応が薄い奴で、なに言っても分かってるんだか分かってないんだが計れない返事をしてくるからどうしていいか考えるストレスが発生するんだよなぁ。コミュニケーションは大事だよ本当。
「輝さん」
「あ、すみません。質問しろという話でしたね。では……ご職業は何を?」
「はい。情報関係の仕事をしています」
「へぇ。どんな事やってるんです?」
「守秘義務があるのであまり詳しくは言えませんが、会社の評判をチェックしたり不適切な動画が公開されていないか監視したり……」
「あぁ、Web監視業務ですね。うちでもたまに案件対応してますよ」
「あ、そうなんですか」
「はい。この前なんか某タレントの悪口を全部調べてくれなんていう無茶な依頼がきたんで、派遣三十人雇ってその分の人件費請求してやりましたよ。そこから仕事こなくなりましたけどね!」
「へぇ」
いやぁあの時は酷かった! なんせ期間も詰まってるわ他の案件もパンクしそうだわレポート溜まってるわでてんてこ舞いだったんだよな。大手派遣会社から地元のシルバー人材まで、とにかく使えそうなところ全部使って人かき集めて貸し会議室でレクチャーしたんだよ(会議室代は恩情で請求しないでやった)。二度と経験したくねぇなぁと思っていたから先方がブチ切れてくれてよかった。上長が血吐きそうになってたけど。
「なんだか親近感湧きました。あ、グラス空ですね。注ぎます注ぎます」
「あ、こりゃどうもありがとうございます」
「あぁエンティちゃんなんでぇ? なんで私にはお酌してくれなかったのにぃ輝さんには注いでるのぉ? 差別くなぃ? それってとっても差別くなぁぃ?」
「うるさい黙れ殺すぞ」
「はぁ? なんてぇ? なんてぇ言ったぁ?」
スゲーナチュラルに売り買い言葉が交わされるなこいつら。喧嘩のバイヤーかなんかか?
「エンティちゃんの直喩的悪口による喧嘩勃発~~~この子いっつも口悪いんだよね~~~~~」
「横から間の抜けた声でしゃしゃってくんなライコ。口が悪いのはお前らにだけだ」
「そんな事言って~~~~この前会社の上司に”死ね乳エルボー野郎”って罵倒してたらしいいじゃん」
「あれはあいつがいっつも私の乳めがけて肘押し付けてくるから! そもそもなんで知ってる! その事を!」
「え~~~~? 内緒~~~~~?」
「割れ。口を。殺すぞ」
「エンティちゃんに殺せるかな~~~~私を~~~~~?」
「……宣戦布告だな? 表出ろ」
「お食事会が終わったら相手してあげる~~~~」
……能力バトルものの敵幹部の会話みたいだ。それかブラックラグーン。これあれだな。一見仲悪そうに見えて本当のところ仲が悪いっていうパターンだな。諸事情あってつるんでるけどできれば顔合わせたくないっていう感じのやつ。難儀だなぁ仕事でもないのに嫌いな人間と一緒にいないといけないなんて。
……いや、なんで一緒にいるんだお前ら? どう考えても距離置いた方がいいだろうに、どうして友達面してお食事会なんかに?
「喧嘩はそこまでにしてくださいね? 今日は仲良くしようって、皆で決めたんですから。ねぇ?」
「そ、そうだったね! うん。そうそう……仲良く、仲良く……」
「あのぉ、えっとぉ、ごめんねぇ?」
「スマイル~~~スマイルを忘れずに~~~~」
……一瞬で理解した。
お前ら阿賀ヘルに弱みでも握られてんのか? そんなに怖がられると俺の方も不安になってくるわ。連絡先教えちゃったし。というかそもそも俺の実家知ってんだったなこいつ。あれぇ? これ大丈夫? 俺、結構なリスクの海の沖合にいないぁい?
「ピカちゃん。浮かない顔してますが、どうかなさいました? エンティちゃんが、何か失礼な事でも?」
「ひぃ!?」
「あ、いや、なんでもないです。失礼なんて働かれてません。ちょっと仕事の事を考えてまして……」
「そうですか。それならよかったです」
スゲー怯えてたなマグ。これ、俺も将来こうなる可能性ない? 怖すぎるんだが。
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