サキュバス、ヤベー女がやってきました4
「では早速連絡先を交換いたしましょう。プライベートでも対応いたしますので、お気軽にメッセージをご送信ください」
「分かった」
死んでも送らねぇ。用が済んだら即ブロック確定だよ。
「……嘘は、やめてくださいね?」
「は、はい……」
くそ! 釘射してきやがって! だいたいなんだよこいつステレオタイプなメンヘラムーブかましてきやがってよぉ!? 確かに俺はデレステで佐久間まゆが好きだよ? でもそれはゲームの中の話じゃん! 作り込まれたキャラクターに裏があるんじゃないかと思わせる設定! それとソロ楽曲あっての推しだよ! あ、あと中の人もいいよね!
でも実際俺女興味ないし寄ってこられても困るっつーの! とういかこういう事考えてしまう自体なんかナルシストっぽいなって思っちゃってストレスフル! 自己嫌悪で潰れそうだからやめてくれよもう! 俺寝る前にその日の会話内容とか心境を振り返るから眠れなくなって仕事に響くんだよ分かるぅ!? 分かんねぇだろうなぁお前にはよお!?
「ところでピカちゃん。お食事会にはどういった方をお呼びになるおつもりですか?」
そしてもう既に会食の話題に移行しているその感じ~~~~! こっちは何一つ整理ついてないのにそっちはもう次のターン! 俺のフェーズはいつの間に終了してしまっていた~~~~~お前は星守の騎士プトレマイオスか~~~~~~?
「……知り合い少ないので適当に声を掛けますが、多分仕事関係の人間になるかと」
凄いな俺。この状況でめっちゃ冷静に対話してるぞ。孔子の霊でも取り憑いたか? 君子九思!
違うわ。単純にテンションが萎んで虚無ってるだけだわ。刃牙と戦ってる時の末堂状態だわ。サイドに構えてワイドスタンスだわ。
「そうですか。確かピカちゃん。代理店にお勤めでしたね」
「えぇ。ただ、大手の下請けや派遣とかで食いつないでる木っ端企業ですので、そう大したものではないですね。つまんない仕事ばかりやってますよ」
「いえ。そういう方々とのお話はきっと楽しいでしょうから、お友達も喜ぶと思います」
「そうですか」
そんないいもんでもないけどな。給料安いし休みは少ないし急な変更とかあるし。煌びやかなのは大手だけだよこういう業界は。俺達はひたすら地味な作業ばかりだから絶対話弾まないぞ? 聞きたいか? プロモーションの代行をするにあたって延々とインシテントの値について会議したって話。んなもんデザイナーに頼めよって思うだろ? 駄目なんだな~~~色々な理由で~~~~逆にいえば、ウチの会社に回ってくる仕事なんて誰がやっても同じような仕上がりになるようなもんばっかりなんだよね。じゃあなんで商売が成り立ってるかっていうとコネとお値段と臨機応変な対応に定評があるから。つまるところ薄利多売で無茶なスケジュール組むから社員がてんてこ舞いってわけ。駄目だこの会社。一刻も早く潰れた方がいい。
「……」
「……」
……
「……ピカちゃん、お気ならないのですか?」
「……え?」
「お気に、ならないんです?」
「何がですか?」
「私のお友達の事です」
「あぁ……」
すまん。全然お気にならなかったわ。一つも想像しなかったわ。察せ。俺の態度で。
「皆、学生時代のお友達なのですが……」
あ、勝手にお話しする感じ。俺の返答いらない感じ。まぁ嘘吐くなって言われた手前、「あ、すみません全然どうでもいいです」としか返せないんだけどね。もしやそれを見越して会話のドッチボール始めた感じ? なんでそういうとこだけ察しちゃうの? 都合よすぎない?
「女子高だったせいでご縁なく今日まで一人で過ごしているので、その点ご留意していただきますと」
「あ、はい分かりました。どうせ僕が呼べる人間も女っ気のない人間ですので釣り合いがとれますね。破れ鍋に綴じ蓋とも言いますし、多分大丈夫だと思います」
「あら、そうなんですか。それなら丁度いいかもしれませんね」
「まったくです。あっはっはっは」
愛想笑いをしてジョッキを傾ける。あ、温い。くそ、氷が入ってないからすぐに冷たさが逃げていく。まずい。こんなもん飲めるか。なんだか悲しくなってきたな。用も済んだし、さっさと帰るか。
「あ、プリンまだありますよ?」
「いえ、結構です。お話しも済んだようなので、僕はそろそろ……」
「そうなんですか? それは残念ですね。まだご一緒したいのに……」
「はははは」
笑ってお茶を濁す。俺はあんたと一緒にいるのは御免だよ。
「では、さようなら。食事会の日時が決まりましたらご連絡ください」
「分かりました。さようなら」
……ふぅ。ようやく脱出に成功した。やれやれってやつだぜ。
それにしてもまた余計な予定が追加されてしまった。いったいいつになったら俺は平和にプラモを作る事ができるんだ。くそぉやはり一人暮らしがしたい……したいが、ピチウが来ちまったからなぁ……妹を置いていくというのはやはり忍びないよなぁ。しばらくは現状に甘んじるしかないか……どうしてこう上手く運ばないものかね。まぁ、今のところは、あのヤバイ女から無事離れられたという事を素直に喜ぼう。そもそも邂逅した時点で不運であるという点については目を瞑る。
ブブッ。
バイブレーション。スマフォが揺れている。なんだ? ピチウか? どれどれ……ゲッ!
ピカちゃん今日はありがとうございました。おかげさまで、とっても素敵な時間を過ごせました。
私、男の人と一緒にカフェに入るのって初めてで緊張しちゃったんですけど、おかしくありませんでした? 途中、変な感じになってしまったのは慣れていなかったからなんです。ごめんなさい。どうか、お気を悪くしないでいただけると嬉しいです。
ところでプリン。美味しかったですね。私、甘い物ってあまり好きじゃないんですけれど、一緒に食べたいなって思ってつい頼んじゃいました。そしたら想像していた以上に大きくって、あぁどうしよう。こんなに食べられるかなって思ったらピカちゃんがいっぱい食べてくれて助かりました。とっても美味しそうにお召し上がりになっていて素敵でした。でも、あんなに食べるのにピカちゃん細いから少し羨ましいです。私、くびれができたって言いましたけど、まだ余計な少しお肉がありまして、お見苦しくないかなぁなんて考えてしまったんですが、いかがだったでしょうか。両親意外にあんなにはだけた姿見せたのって初めてで、今考えると恥ずかしいです。でもピカちゃんならいいかなって思えるんですよね。不思議です。今度はピカちゃんの体も見てみたいな。そうだ。夏になったら海かプールにでも行きませんか? 私水着とか持ってないので一緒に選んでいただけると嬉しいです。あ、どうせ行くなら泊りがいいですよね。ピカちゃんは旅館とホテル、どっちが好きですか? 私は断然旅館なんですけれど、ピカちゃんに合わせますね。お部屋はやっぱり別々でしょうか。まだ私達、知り合って間もないですもんね。でも、私はピカちゃんと一緒の部屋でもかまいませんよ? 布団は二つ? それとも一つ?
なんて、はしたなかったですね。すみません。仕事以外で初めて男性とメッセージのやり取りをしたもので、少しはしゃぎすぎてしまっていました。反省いたします。
お食事会、楽しみにしていますね。ではまた今度。
阿賀ヘル。
……
スマフォタップ。
入力欄にひらがな四文字と句点打ち込み完了。送信。
そうだね。
さ、帰るか。
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