サキュバス、狙ってる男の妹と同居しました3

 そんなわけでグッモーニンとなったわけだが若干の二日酔いに早くもベッドに逆戻りしたい気持ちでいっぱいである。


 あぁしんどい。重い身体を無理やり起こし、こうして三文の徳をゲットしたわけであるが、三文を現代の価値に換算すると百円にも満たないそうだ。良い子の諸君。寝てた方がマシだな。

 しかしいかんな。最近どうも休日を健康的に過ごし過ぎているような気がする。朝早く起きて野球したり街をぶらついたりニチアサを観たり犬の散歩に付き合ったり……こんなんじゃ真っ当な中年男性になれんではないか。週末飲み歩いて昼まで寝てる。それが正しいサラリーマンの在り方である。こんな生活してたんじゃ、ちっとも社会人然とした姿を見せる事ができん。

 ……よーし来週だ。来週こそは堕落した休日を送ろう。飲んで、寝て、プラモ作って、いつの間にか一日が終わってるなんて怠惰の限りを尽くした休みを来週満喫するのだ! 想像しただけで心が洗われるようなホリデー! なんと素敵なのでしょう! お? それを考えるとなんだか頑張れる気がしてきたぞ? そうだな! 今日だ! 今日だけ頑張ればいいんだ! そうすれば必ず明日はやってくる! 明日のために! 休みのために! 今日も一日頑張るぞい! えいえいムン!



 ガチャリ。



「ピカお兄ちゃん。まだ~」


「うぉ! びっくりしたなお前! ノックくらいしろよ!」



 突然の来訪。本日のビックリドッキリシスター。あとちょっとで「ムン!」って声に出すとこだったぞ。あぶねーあぶねー。

 というか普通にやめてくれ心臓に悪いから! 普通にプライバシーの侵害だぞ。



「いいじゃん家族なんだし。それより、そろそろ出発したいんだけど」


「出発? まだ八時前じゃないか。どこもやってねーよこんな時間。もう少しゆっくりしてろよ」


「え? ジャス子まで六十分くらいかかるでしょ? 今から行けば丁度よくない?」


「……」



 ジャス子て。六十分て。冗談か? 

 ……いや、こいつは田舎からやってきたカントリーガール。きっとマジだ。一から説明せねばならんようだな。



「……ピチウ。残念ながら、ジャス子には行かない」


「え? なんで? 商店街でお店回って買うの? そんなの非効率的だよ! ジャス子なんでも揃うよ? 組合の談合や市町村との癒着で成り立っているような個人商店なんて使わず、安くて安定している資本主義的正義な大規模スーパーマーケット ジャス子で全部揃えようよぉ」


「そういう方々に喧嘩を売るような発言は止めとけ。個人商店だって頑張ってるんだ。悪く言うもんじゃないぞ」


「でも、ジャス子の方が合理的だよ? だから行こうよぉジャス子。それでフードコートでたこ焼き食べよ~」



 いかん。発想が完全に田舎の中学生だ。なんとかせねば、このままだと新しい学校で恥をかいてしまう。



「まぁ聞けピチウ。都会にはな。ジャス子以外にもジャス子的な複合施設が沢山あるのだ」


「え!? なにそれ! ジャス子とどう違うの!?」


「まず、洒落た店がいっぱいある」


「? ジャス子にもお洒落なお店あるよ?」


「……違う。いや、違わないが、そうじゃない。ちょっとベクトルの違う洒落た店があるんだよ」


「ふぅん。他には?」


「洒落た飲食店が入っている」


「? ジャス子にもお洒落なご飯屋さんあるよ?」


「……お前、なんでもジャス子と比べるのやめろよ」


「ピカお兄ちゃんが言い出したんだよ?」


「それはそうなんだが……あぁもう面倒くさい! ともかく今日はジャス子じゃなく普通の百貨店へ行きます! ショップ ザ ハイランドとか威勢丹とか特急百貨店とかセーフ百貨店とか! そういう感じのとこに行きますからね! あと服や小物なんかは商店街のセレクトショップや個人店も見ようね!」


「えぇ~なんか大変そうじゃないそれ?」



 お前そこはちょっと嬉しそうにしろよ! お上り一日目じゃねーかよ! 普通「きゃー私スウィパラ行ってみたーい」とか言うところだろーが!



「ともかく! 行くと言ったら行くからな! まずは百貨店で家具とか見てその後アーケードへ! ご飯食べたりカフェに入ったりしながら買い物したりしなかったりの予定! 分かったか!?」


「分かった分かった。ところでピカお兄ちゃん。車はどこにあるの?」


「あ? ねぇよそんなもん」


「え? じゃあどうやって移動するの?」


「電車だよ電車」


「え~電車~? だる~い 待ち時間暇だよ~」


「……お前、ここまでどうやってきたんだ?」


「え? 徒歩だけど」


「……なんで?」


「修行になるかなって」



 なんで? なんで俺の周りにはこういう化物みたいなやつしかいないの? 多摩の山奥から徒歩でここまで来たってお前、山伏じゃねーんだよ? 女子高校生よ女子高校生。女子高生普通山徒歩で降りないよ? ちゃんと電車でこれば待ち時間短いの分かるじゃ~~~ん! 交通網とか把握できるじゃ~~~ん! なんで~~~ なんでしないのそういう事~~~~~? はぁ~~~~~なんか疲れた……説明すんのもめんどくせぇ……もう実際に体験してもらおう……百聞は一見に如かずだ。



「ともかく電車移動だ。異論は認めない。出発は九時三十分。それまで瞑想でもしとけ」


「は~い。仕方ないなぁ……じゃ、準備できたら読んでね」



 バタン。



 ……出ていったか。なんか二日酔いも治っちゃったな……ともかく、ご飯でも食べるか……ゴス美なんか用意してくれてるかな……

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