サキュバス、一肌脱ぎました3

 よくよく考えると俺もあいつらが来たあたりからよく大声を出すようになった気がするな。最近疲れが抜けないのはそのせいかもしれない。賑やかなのはいいが、この先疲れきってプラモがつくれなくなるんじゃないかという不安が今更ながらぎるな。月一くらいのペースならなんとかなりそうだけど、毎日これだと身体がもたんくなる日もくるだろう。これは早急に手立てを……というか、あいつ金持ってんだから俺と同居する必要なくね? 名義だけ貸して、俺だけ別の部屋に住むとか全然ありじゃん。そうだよ! それありだよ! うんうん! そうだそれがいいそれがいい! なんで今まで気が付かなかったんだ! よーし帰ったら早速部屋を探そう! 久々の一人暮らしに胸がときめくなぁ!


「ピカ太さぁぁあぁぁぁぁん! 追いつきましたよ! 速いですよもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 早いのはぁベッドの中だけにしてくださいネ☆」



 サッ!



「なぜ身構える」


「いや、攻撃されるかなと」


「そうか……ちゃんと自覚はあるんだな。自分が悪い事を言っているという自覚が」


「えぇ! そりゃあもう! なんてったって私は魔の者! 悪さしてなんぼですからね! プロ意識はありますんんんんんんんんんんんんんんんんんん痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 

 少林寺拳法には逆小手というカウンター技があるらしく、先日実際に動画を見てみたのだが、これ攻撃にも転用できるんじゃね? と思い初実戦。結果的に大成功。面白なこの技。今度から積極的に使っていこう。ムー子め。お前が何かしたら手の筋をズタズタに……いや、俺は一人暮らしをするんだったな。



「さっさと起きろ。行くぞ」


「えぇ……なんか冷たくないですかぁピカたさぁん」


「いつも通りだろ……」


「そんな事ありませんーーー! いつもはもっと愛情を込めてくれていますーーー! なんですか? 愛が冷める瞬間ですか!? これがい所謂倦怠期ってやつですかーーーー!? かぁーーーー! きちゃいましたねこの時が! いやぁぁぁぁぁぁぁどうしよっかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! しちゃおっかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ浮気ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


「できれば本当に他の男に取り憑いてくれた方がこちらとしても楽なんだがな」


「やだ! どうしてそんなひどい事言うの!? この薄情者!」


「お前にだけは薄情者とか言われたくない……それより着いたぞ。俺はオフ会の相手知らんからお前が先導しろよ」


「あ、はい。ひとまずメッセを確認……あ、すみませんお報せきてました。窓際一番奥のテーブルに座ってるそうです」


「窓際一番奥……」



 ちょうどガラス越しに見えるな……、あの高垣楓みたいな髪型したやつか。



「あの娘……あの娘かぁ……なにあれ……めっちゃ可愛いし綺麗じゃん……は? あんだけ綺麗なのに男が苦手? は? 舐めてんの? こちとらもうマウント取るつもりでやってきたのに、なにあれ? ふざけてんの?」 


「……」


「なんて事、全然思ってないですからね私」


「なら言うな」


「いや、絶対ピカ太さんは私の事を誤解しているので、先手を打って晴らしておこうかと思いまして」


「余計な疑惑が産まれるからやめた方がいいぞそれ。そんな事より早く入ろう。俺は疲れた」


「はいはい。じゃ、行きますか」



 ウィーン。



「いらしゃいませ~二名様でしょうか」


「待ち合せなんでお構いなく」


「かしこまりました~」



 よかった。あの店員、前もいたけどこっちの事は覚えてなさそうだ。いや、よかった。本当によかった。この辺りあんまりカフェとか喫茶店ないからここ使えないと不便なんだよなぁ。これで気兼ねなく利用でき……



「黒マン皇帝さん初めまして~~~~ユーバス・咲でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇす!」



 ……なくなってしまった。なんだお前その名前。もうちょっと考えろや。あと大声で叫ぶな。



「どうも。はじめましてユーバスさん。今日は付き合ってもらっちゃってすみません」



 黒マン皇帝、めっちゃ真っ当な対応してるしなんか声にも品がある気がする。なんでそれで黒マン皇帝なんて名前つけちゃったの? 色物狙いは止めて王道を征こうよ普通に。



「それで黒マンさん。こちらが例の男です」


「……どうも初めまして。輝と申します。よろしくおねがいします」


「あ、あ、あ、はい……あの、あ、よ、よろし……」


「あ、黒マンさん! 大丈夫ですか! お水! お水を飲んでください!」


「ひゅ……はひゅ……こひゅー……こひゅー……」


「え!? ちょっと黒マンさん! 大丈夫ですか!?」


「ひゅ……こひゅ……ひゅー……ひゅー……ひゅ……っけ……ば……いん……」


「……これ過呼吸起こしてるな。ムー子。お前ビニール袋とか持ってない?」


「え? え? え? 突然そんな事言われましても……」



 しゃあないなぁ……店員に頼むか。お、いいところにさっき接客した奴がふらついてるな。よし。



「すみません。連れが過呼吸起こしちゃったみたいなんで、ポリ袋貰えますか?」


「え? あ、はい! すぐに!」



 ……



「お待たせしました! どうぞ!」


「すみません。ありがとうございます」



 めっちゃ急いで持ってきてくれたな……ありがとう。そして前回騒いでごめん。



「あ、お帰りなさいピカ太さん!」


「あ、ひゅ……ひゅー……ひゅー……」


「黒マンさん! 大丈夫だから! 声出そうとしなくていいから! ね!?」



 あまり大声出すなよ……まぁいいや。とりあえず、つまようじで軽く穴を空けてと……でした。まぁこんなもんだろ。あとは口に被せるだけだな。最近じゃこの方法を行うのはよくないらしいが、穴空いてりゃ窒息もないだろうし多分大丈夫。医者でもないのにわかってる風な感じになってしまったのはやっちまった気もしないでもないが。



「ほいムー子。これ、その子の口に当ててやれ」


「はい! あ、これ小学校とかで見た事あるやつ……なんて言ってる場合じゃない! どう黒マンさん! 大丈夫!? 回復した!? まだ!? どんな感じ!?」


「ひゅー……ひゅー……すこしゅ……よくなってきましゅた……」


「やった! ピカ太さんやったよ! 黒マンさんの意識がちゃんとしてきたよ!」



 やったな! 多分精神的な効果だと思うけど! あと叫ぶのはやめようね! でないと……



「お客様……」


 

 ほらぁ来ちゃったじゃぁぁぁぁん! また退店だよー! それとも、いよいよ出禁通達かぁ?



「すみません。静かにしますので……」


「あ、いえ、その、お連れの方、大丈夫でしょうか?」


「あぁ。すみません。良くなってるみたいです」


「そうですか! よかったです! 何かございましたら、またお声がけを!」


「はい。ありがとうございます」



 よくできた人だなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る