サキュバス、白球を追いました6

 自己紹介も済んだ事だし俺は三塁側の土手で一息入れよう。あぁ青い空にそよ風。過剰に流した汗と手の痛み。こんな状態で飲むビールは最高だなろうな。三缶しかないけど足りるかな。なんだか心許ないな。もっと買ってこればよかったな。いいや。足りなければデリバリーで注文しよう。今の時代電話一本で酒が届くんだ。いい時代になったもんだな。よーし。じゃ、早速移動っと……




 ガシ。


 なんだ? 誰だ俺の右手を掴むのは。

 なんださっきの都仁須君じゃないか。何か用だろうか?


「グレートの席はあちらです」


「え? なに? 席用意してなんの? せっかくだけどいいよ俺は三塁側で」


「駄目です。さ、こっちへ」


「えぇ……ちょ……なにぃ?」


 クソこいつ結構力強いな……で、何処へ行こうというのか……ネット裏の真ん中の部屋……なにここ放送席? 凄いなこんな設備まであんのか。で、ここで何をすればいいんだ?



「グレートにはここで僕と実況中継をしてもらいます。実況パワフル草野球です」



 なんだそのなんJで百万回立てられてそうなスレタイみたいなのは……というかお前選手じゃなかったんかい。





 それはそうと今度パワポケのリメイクが発売されるから買わないと。表サクセスの他、裏サクセス戦争編も遊べちまうんだ! 色々な意味で期待が尽きない! シリーズが途絶えて久しいパワポケシリーズだがこれを機にドンドンリメイクされる可能性も出てきたぞ! みんなも是非ゲットしよう! パワポケR! 十一月二十五日発売!

   





「実況ってお前、どこの誰に向けた中継なんだよ」


「YouTubeでライブ配信ですよ」


「へぇ。視聴者いるのそれ」


「直近だと同接三十万いきました」


「さん……! 凄くないそれ? なんでそんなにいくの?」


「我が小学校は野球文化が根付いていまして、半年ごとにペナントをやっているんですよ。で、それを面白がって地元のテレビ局が放送した結果コアなファンがつきまして、それが段々と伝播していったみたいです」


「なるほど……とはいえ、そこまで伸びるもんかね」


「昨今はクリーンな社会が求められていますので、野球は好きだけどちょっとブラックよりのグレーな日本プロ野球や、色々な事で騒がれる高校野球に嫌気が差している人が多いみたいなんですよ。それで、何人なんぴとからも介入されない小学生の野球がウケてるんだと思います。後は子供が頑張ってる姿を見たい層とか、特殊なお姉様お兄様方ですかね」


「ふぅん」



 達観してんなお前。



「でもやだよ俺、中継なんて。万が一知り合いに聞かれたらムカつくし」


「あぁそこは大丈夫です。軽く声も加工しますし、顔も映しませんので」


「あ、そう」



 そういう問題じゃないのだが。



「さ、座って座って」


「うん……」


 ……なんかもうそうするしかないような感じというか状況だな。まぁ別にいいんだけど。でも同接三十万かぁ……緊張するなぁ。とりあえずビールで誤魔化そ。カシュ! 





 テレテレテーテテ。

 テレテレテーテテ。

 テレテレテ。テレテレテ。テテン、テテン、テテ。


「飲んだらみんな、エビス顔」


 テテテレテ、テテテレテ、テテン、テテン、テテン。





「……なんだ今の」


「すみません。ちょうど今、スポンサーの商品をお飲みになっていらっしゃったので」


「ここ公立だろ? まずくないかそれ」


「野球はあくまで校外活動という事になっていますのでセーフです」



 闇を感じる……というかそれもブラック寄りのグレーじゃねぇか! なにが何人たりとも介入されないだ!



「そんな事より、相手のチームがやってきましたよ」



 そんな事よりて。



「さぁ始まりましたセンチュリーリーグ野球中継のお時間です。本日はブルードラゴンズ対レッドカープの三連戦第一試合の様子を都仁須がお送りいたします。ゲストは、校庭不審者乱入事件を解決しました、グレートにお越しいただいております。どうぞよろしくお願いします」


「お願いします」


「ペナントレースも終盤戦に差し掛かりましたが、現在我がクラスのブルードラゴンズは二位と二ゲーム差で首位となっております。今シーズン、途中から加入したベーブ事マリ選手の活躍が著しく、リーグ始まって以来の優勝も見えております。あの、ベーブルースにあやかってニックネームが付けられるほどの素晴らしい選手でございます。そして、なんとこちらにいらっしゃるグレートはマリ選手の保護者でいらっしゃいます。どうですかグレート。マリ選手について一言。いただけますか?」


「そうですねぇ。ウチの教育方針としましては、自主性を重んじ、やるなら徹底的にというのがありまして、それがいい方向に作用しているんじゃないかと思いますねぇ」


「ありがとうございます。間もなくプレイボール……おや? 両チーム、なにやら話をしていますね。少し聞いてみましょう」


「聞けるんですか?」


「はい。グランドには収音マイクが取り付けられているので、こちらで伺う事が可能となっております」


「なるほど」



 いいのかそれ? まぁいいのか。うん。いいや。別に。もう。







「大人の助っ人って、それは駄目でしょ。これ小学生の試合だよ?」


「しかしルールに駄目という記載はない。であれば、問題ないという事だ」


「論外だってことでしょうそれは!」


「論とか理とかはどうでもいいんじゃ! 可能か不可能化が大事なんじゃ!」


「クソ! 高学年の癖に汚いぞこいつら! プライドってもんがないのかあんたらは!?」


「勝てばいい! それだけだ!」


「この外道~~~~!」







「……どうやらレッドカープ。成人している助っ人を用意してきたそうです。確かに規定では禁止されていませんがしかし、これはどうでしょうか」


「相手もそれだけ必死なんでしょうが……まぁ、来シーズンから確実に規制されるでしょうね。社会でも、契約書には書いてなかったから。といって色々文句つけてくる奴が大勢います。そうした連中のせいで記載事項が多くなって作るのも読むのもまぁ大変なんだよ畜生! ムカつく!(グビ!)


「大人の社会を知って将来に対する不安が芽生えましたが、グランドの方はどうでしょうか」





「分かりました! 分かりました! じゃあもう今回は認めますよ」


「そうかい。まぁ、認めようが認めまいがこっちには関係ないんだけど、やはり両者納得のうえじゃないとね。気持ちよくプレーできないから」







「どうやら助っ人は容認されたようです。気になるのはその助っ人というのがどういった人なのかというところですが……」


「誰かの父親とか年の離れた兄貴だと思いますが、いやぁ、ダーティな事してきますね。勝負に貪欲なのは嫌いじゃありませんが」


「教育の側面としてはよくありませんね。反面教師という言葉はありますがしかし……お、一人ベンチから出てきました。あれが助っ人のようですが……うぅん? どうやら女性のようでうすね」



 あ、本当だ女だ。これならソフトボール経験者とかでもなければギリギリセーフな気もしなく……え?



「……なんであいつここにいるんだ?」


「お知合いですか?」


「まぁ一応……」


「そうですか。お話を伺いた所ですが、助っ人の選手、何か喋るようですので、そちらを聞いてみましょう」








「どうも! 美人助っ人の島ムー子です! 本日はよろしく!」







「自己紹介のようです。自身の行動に一切疑問を抱いていないような、そんな表情で自己紹介をしました助っ人選手。いい面の皮です。いかがですかグレート。知人があのような感じなのは?」


「最悪の一言です」




 本当に最悪だよ……

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