サキュバス、白球を追いました5

 で、野球だが、どこでやるんだろう。この前ムー子にマッスルドッキング食らわせたグラウンドだろうか。いや、あそこは広いけどネットもないし道路に面していて危険極まりないから学校側が許可するとは思えない。恐らくは別の場所だろう。しかし高校、大学でもなし、グラウンドが二つも三つもあるものだろうか。


「お兄ちゃん、あっちだよ。あっち」


「あっち?」



 どっちだ。あっちか。お、ネットが張ってあるぞ? ということは?



「野球はあそこの第三グラウンドでやるんだ」



 二つも三つもありました。



「第三? 三つもあるのグラウンド」


「うん。みんなが色々なスポーツで遊べるようにって先生が言ってた。第一グラウンドが低学年の子達が鬼ごっことかかくれんぼするとこで、第二グラウンドがサッカーと陸上競技。第三グラウンドが野球とかって感じ」


「へえ」



 凄いな最近の小学校は。ここが特別なだけかもしれんが。ん? なんかプランの様子がおかしいな。



「プランどうした? なにやらボケッとしているが。熱射病か?」



 汗もかいてないし血色も良好だから多分違うと思うけど。



「……いいえ。なんでもありません。それよりさぁ、行きましょう」


「……」



 露骨になにかある感じだなこいつ。でもまぁこれ以上はプライバシーに関する問題だし深入りはしないでおこう。世情的には子供の権利を認める方向に向かっているし、自分から話さないような事を聞いても仕方がない。一旦様子見だな。勿論、話しができる環境作りはしていかなければならないんだけどね。いやぁやっぱり家庭ってちゃんと話しをする、話を聞く。ってのをしなきゃいけないと思うんだ。うちの親父なんて最悪だったよ? 誕生日のプレゼントにストZERO欲しいつったらリアルバトルオンフィルム買ってきやがったんだよ。俺は言ったんだよ。何度も何度も。ZEROだよ? アニメの奴だよ? って。でもあいつ聞きゃしない。「ジャンジャンジャジャン! ジャン・クロード・ヴァンヴァンヴァヴァン、ヴァンヴァヴァンダム! どうだ!? かっこいいだろうヴァン・ダムは!? やはりスタローンよりヴァン・ダムだな!」つって唖然とする俺を尻目に一人で地獄のヒーロー状態。馬鹿かあいつは。キャプテン・サワダがいたから許すが……おっと、今はあけぼのフィニッシュバンザイについて考えている時ではない。プランのケアについてだ。とりあえず、適当にコミュニケーションを取っておこう。信頼は日々の積み重ねが大切。まずは気軽に話せる関係を築かなければ。



「まぁ、今日は野球を楽しもうな」


「はい。粉骨砕身。ホップステップ玉砕の覚悟で頑張りたいと思います」



 ……デッドボールには気をつけろよ?



 さて、やる事はやった。移動移動。荷物は相変わらず重いがついてしまえばどうという事はない。よっこらせとひと踏ん張りすればほらもう第二グラウンドだ。うわぁ広いなこれ。プロ二軍の試合くらいならできるんじゃないか? しかもベンチもちゃんとある(人も既に集まっている)。俺らの頃なんか縦に埋まったタイヤとか杭みたいな用途不明の遊具に座ってたのに。時代は変わるもんだなぁ……



「みんなー! お待たせ―」



 マリが走っていく。意外と気さくなんだな。



「お、来ましたね……ベーブ」


「遅いよ。お前がいなきゃ始まらないんだぜベーブ」


「今日の主役もお前だぞベーブ」


 

 ベーブってマリの事か? なんだ凄い人気だな。



「ん? 後ろにいるのはもしかして……」


「グレート!? グレートじゃないか!?」


「本当だ! グレートだ!」


「す、凄いぞ! グレートだ!! グレートが来たんだ」



 グレート? 誰の事だ? たつみまことでもいるのか?



「あの、グレート。サイン貰ってもいいですか?」


「あ? え? 俺の? え? なに? グレートって俺の事なの?」


「はい! できれば名前を……都仁須 オラン君へって書いてください!」


「う、うん……」



 サラサラ。



「ありがとうございます! 家宝にします!」


「……」


「ずるぞ都仁須! グレート! 俺にもサインください!」


「僕にも!」


「私もぉ!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんだこれ。誰かと間違えてないか? 俺はただのサラリーマンだぞ君たち」


「間違ってないよなぁみんな!? グレートはグレートだよなぁ!」


「そうだそうだ! グレートはグレート! グレートオブグレート!」


「グッレェト! グッレェト! グッレェト! グッレェト!」


 ちょっと怖い怖い。急にコール始めんといて……なんやこれ……なにがどうなっとるんや……あ、マリが戻ってきた! おい! どういう事だこれは! 説明してくれ!



「マリ! なにこれ! 怖い! 山田祭りみたい!」



 本当に自分が知らないうちに事が進んでるとマジで怖い! 有休明けて出社した際に新規プロジェクトへアサインさせられてた時と同じ恐怖を今味わっている! いやそこはプライベートでもいいから連絡よこせや!



「お兄ちゃん。この前ムー子お姉ちゃん不審者にキン肉バスターかけたりしたじゃん?」


「うん」


「それでみんなファンになったみたい。私がマンレディで、お兄ちゃんがグレートなんだって」


「お前、さっきベーブって呼ばれてたじゃん……」


「野球の時はね? 普段は海兵マリーン。授業の時は才女ミス・ジーニアス。で、戦闘モードの時がマンレディ」



 JOKERかお前は。



 

「そうそう皆。紹介するね。こっちはプランちゃん。私の友達。今日は一緒に野球やるから、よろしくね!」


「皆様初めまして。プラン・ラ・トモシヒと申します。なにとぞ、よしなに」



 硬いな。そんなんじゃ小学生分かんないだろ。



「これはこれはご丁寧にどうも」


「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します」


「本日はお互いに楽しく野球をしましょう」



 通じてる……いやぁ、最近の小学生凄いなぁ……

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