サキュバス、歌っちゃいました9
適時適切適当な判断により各案件を機械的に処理。責任丸投げのスピリッツで行われる「もうこれでいいやぁ~」対応。良くいえばラディカルグッドスピードよろしく件数最優先の拙速モード。悪くいえばどうとでもなれ。割り切って思い切りよく雑に終わらせた仕事の山をいったい誰が尻拭いするのか想像もつかず、考えるだけで同情の念を禁じえないのだが、それもまた致し方なし。人生、そういう事もある。さて、昨日分も合わせて努力目標は達成。デキはしらんが完了は完了。後はクソみたいな会議に出席して直帰するだけ。家に着いたらdニメでも再生しながらまったりと過ごそう。あぁ早く帰りたい。
「あ、あ、あ、輝君、そろそろ、あ、あ、出る、あ、あ、かい?」
上長……酒が抜けてる……この状態で会議するわけにもいかないだろうし、どっかで飲むんだろうなぁ……いいんだけどさぁ……
「はい、今出ようかと思っていました」
「あ、それ、あ、あ、あ、はよかっ、あ、あ、あ、あ、た。いっ、あ、しょにい行こう、あ、あ、か。つい、あ、あでに、昼飯、あ、あ、あ、あ、でも、あ、あ、あ、どうだ、あ、あ、あ、い? あ、あ、あ、それとも、あ、今日、あ、あ、あ、あ、も、弁当、あ、あ、かな?」
「いえ、今日は持ってきてないので、是非ご一緒させてください。店はお任せしてよろしいですか?」
「あ、あ、あ、任せ、あ、あ、くれた、あ、あ、あ、まえ」
こういつはいい。奢ってもらえるぞ。普段ゴス美に頼りっきりだから、弁当の用意をするの忘れてしまったんだよなぁ。前は冷食突っ込んだだけのお手軽ランチを持参していたのだが、慣れとは怖いもんだ。
そういえば最近冷食食べてないな。久しぶりに●ハニチロの冷凍塩鮭が食べたくなってきた。なんか普通の鮭とちがうんだよなぁあれ。なんなんだろうな。ちなみに鮭以外のおすすめはニ●レイの春巻き。これは結構感動するくらいには美味い。冷食ビギナーにぜひ試していただきたい逸品だ。あ、やっべ、春巻き食べたい。そうだ、昼は中華にしてもらおう。
「すみません。中華希望です」
「え? 任せるって言ったのに……」
「過去の僕は僕じゃないので」
「哲学的だね」
ご無礼仕った。
まぁこの人はこれくらいの対応の方が喜ぶ。ほら見ろ。なんだかんだ言って「仕方ないなぁ」なんて言いながらニコニコと酒を飲んでいるじゃないか。え? 酒? あ、もう飲んじゃうんだ……いや、いいんだけど、あまりに普通過ぎてびっくりしたわ。もう隠す気もないんだもん。
「それじゃあ行こうか」
「あ、はい」
……いいや。この人の飲酒についてはあまり深く考えないようにしよう。さ、移動移動。 執務室を出て廊下を渡りエレベーター。一階に着き外へ行き、駅までにある中華やにIN。オーダー。春巻き、麻婆飯セット、唐揚げ、ピータン、餃子、ザーサイ、メンマ、叉焼。それにビール大ジョッキと焼酎ボトル。いや、晩酌か!? がっつり飲み過ぎだろう!
「ここはねぇ昔からよく通っていたんだよ。営業をサボって飲んでいたものさ」
「へぇ。いつ頃の話なんですかそれ」
「二十年前くらいかな。自分でもよくこんなに長い間同じ会社で働いているなと思うよ」
よくそんなに長い間酒浸りで生きていられるもんだ。
「ところで、輝君は何処へ行くんだい?」
「はい。中野です」
「お、偶然だね。私も中野なんだよ」
「なら中野でランチしてもよかったですね」
「そうだねぇ。あ、どうだい? なんなら帰りも一、二件。いい店が幾つかあるんだ」
しまった。社交辞令のつもりだったが地雷を踏んじまった。
上司と食事かぁ……別にこの人嫌いじゃないんだけど、プライベートを削ってまで一緒にいたいかといわれるとそうでもないんだよなぁ。例えるならガッツとセルピコみたいな関係だろうか。でも、断るわけにはいかないよなぁ……しゃあない。これも仕事だ。付き合おう。
「気乗りしませんがいいですね! 是非行きましょう」
あ、やっべつい本音が。
「え? 今気乗りしないって言った?」
「言ってません」
誤魔化そう。それしか道はない。
「いやいや言ってたよね? 絶対、確実に、気乗りしませんが。って、凄く元気に言ったでしょ」
「キ・ノルールィ・スィマスィンクワァって言ったんですよ」
「なんて?」
「タジュズベク語で素晴らしいという意味です」
「本当に? ちょっと、もう一回言ってもらっていい?」
「いいですよ。キ・ノーリィ・スィマセンガァ」
「さっきと違うじゃん……しかもちょっと、気乗りしませんが。に寄せてきてるじゃん……」
「そうですかねぇ……同じなんですけどねぇ……」
なんと楽しい会話だろうか。これも尊敬する上長と卓を囲えばこそ。その辺の適当な知り合いだったら絶対にこんな風に談笑などできはしない。その証拠にほら見ろ。上機嫌となった上長が焼酎を一気に煽りはじめ……おいおいおい。死ぬわアイツ。いやいや一瓶はまずいってお前これから仕事だろ。しかも社外の人間と会うんだぞ? 平気平気じゃない以前に絶対臭いでバレるじゃんどうすんだ。
「しゃ、行きょうか」
呂律が回ってない! 会議どうする気だ! 明日の辞令張り出し
「ア、 コノ人、マタ酔ッパラッタネ。ダイジョブダイジョブ。スグ戻ルカラ」
あ! お店の人! なんて流暢な日本語を使うステレオタイプな中国人! シャンプーみたい! 見てくれは完全にゼンジー北京なんだけど。
「この人いつもこうなんですか?」
「イツモネ。イツモ酔ッパラッテルヨ。
「アイヤー。そうアルカー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます