サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました8

 しかし悪魔って空飛べたりしないんだろうか。ちょっと聞いてみるか。


「課長、悪魔って空飛べないの?」


「無理ですね。力学的に」


「いや、あの、魔法とか」


「魔法そのものはありますが、そんな万能でもないんですよ。種族によって使える種類も限られてますし」


「ふぅん。サキュバスだったら催淫ガス出したりすんの?」


「まぁそんなところです。チーターが速く走れたり像の鼻が器用だったりするような感じですので、役には立ちますがなければ困るといった事は少ないですね。まぁそれこそ種族によりますけど」


「へぇ」


 世界に広まっているファンタジー像とは随分かけ離れているな。なんだか夢のない話だ。そりゃ鬼には勝てんな。


「ちなみに私は初級呪文もあまり使えません! だからよく失敗しちゃうんですよねーテヘ☆」


「ムー子。お前は後で研修な? 一年目でやった山岳研修をもう一回してやる」


「ひぇ!? 」


 なんでお前はすぐに余計な事口走るんだよ。


「そんな事よりピカ太さん。そろそろ休憩しましょう。山での行動は計画的に進めないとあっという間に動けなくなりますから」


「そうだな。もう少し行くと沢があるから、そこで休もう。ムー子の水筒に水も入れないといけないし」


「あのバカは自分の生き血でも飲ませておくので心配無用です」


「そうか」


 本当にやりかねないんだよなこいつ。俺も大概だけどゴス美は一線を越えている気がする。


「なんですかなんですか!? 今私の名前呼びましたよね!? 褒めてましたか!? 褒め!? え? え? ホメロス!?」


 うっさ! なんだこいつ。なんでこんなに元気なんだ? さっきまで完全に駄目な感じだったのに急にどうした。


「ちょっと量が多すぎたか……」


「え? 課長なんて?」


「あ、いえ、こっちの話ですすみません」


「……」


 ……そうだな。聞かなかったことにしよう。万が一白い粉のオクスリとかだったら俺も共犯になるかもしれん。知らぬ存ぜぬが一番賢い選択。何かあってもすっ呆けておこう。俺じゃない。あいつがやった。知らない。済んだ事。


「ゴス美お姉さん。さっきムー子お姉さんに打ってた注射なんだったの?」


 ……


「元気の出る薬。ヒゴウホウノ」


 なにも聞こえない。最後にボソッと何か言っていたような気もするが俺は何も聞いていない。そう。多分ただのビタミン剤じゃ。何の心配もないだろう。いやぁ今日も世界は平和だ。生きているって素晴らしい。


「……ツギハアシッドデモツカッテミルカ」


「お! 沢についたぞ! 休憩にしよう休憩に! 山で食べるご飯は美味しいぞぉ! マリも身体が手に入ったら一緒に食べような! 俺が特性アヒージョとか作るから!」


 いやぁ山でのご飯は楽しいからついテンション上がっちゃうなぁ! 木が邪魔で全然太陽光入ってこないしジメジメしてて気分悪いけど!


「あ、お弁当作ってきたのでどうぞ」


「あ、あぁうん。ありがとう……」


「? どうかなさいましたか?」


「いや? 別に? 具は?」


「焼きたらこと鮭とおかかです」


「お、そうかありがとう。どれも好物だ」


「そうでしたか」


 まさかとは思うが料理に怪しい薬いれてないだろうな? いや、こいつは料理にプライドをもっている感じだったからそんな事はしないだろうきっと。頼むぞゴス美。信じてるからな!?


「あ! お弁当ですか!? 美味しそー! 私おにぎりでご飯三杯いけちゃいますよー!」


 ムー子! 丁度よかった!


「そうかそうか! よしお前も食べとけ! この先まだまだ長いから!ホラ!」


「もごごごごごご!」


「どうだ美味いか?」


「もごごごご! もごごごごごごご!? もっごもごご!」


「そうかそうか! よし! たんと食べろ!」


「ごごご!? ご! ごっご! ごごぐぐぐぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 水水!」


 毒見させ過ぎたか。だがまぁ即効性の薬が盛られてるわけでもなさそうだし、一応安全そうだな。俺もさっさと食べよう。食べないと身体がもたん。


「あ、のりが横についてるのがたらこ。お腹についてるのが鮭。つつんであるのがおかかです」


「わざわざ分けてくれたのか。助かる」


 どれ、ではまず、焼きたらこから……


「グゴゴゴゴゴゴゴ」



 なんだムー子のやつ。まだ喉詰まらせてぐごごご言ってんのか。まったくしょうもない……


「……」


「……」


「わぁ、熊さん」



 この場で実体のないマリだけが冷静でいられるようだ。俺もゴス美も絶句。ムー子にいたっては食われている。いやぁまさか森の中で熊さんに出会うとは。ナイスハプニング。しかもこいつツキノワグマじゃないぞ。ヒグマだ。ヒグマが埼玉にいるのだ! なんでだろう! わっかんねぇなぁ! 


「……課長」


「はい」


「熊撃退用のスプレーとか用意してない?」


「ありますが、バッグに手を伸ばした瞬間に攻撃されるような気がします」


 うーん確かに気が立っているように見える。空腹というわけでもなさそうだが、いったいどうした。ん? よく見るとこいつ手負いだな。傷が背中にあるあたり、恐らく逃げてきたのだろう。うん? ヒグマが逃げるような相手ってなんだ? そんな恐ろしい動物が他にいるのか? 


「ピカ太さん! 危ない!」


 五爪がくる! 攻撃目標は俺か!? 間一髪で回避は成功! しかし窮地は続く! クソ! ヒグマって関節技効くのか? 鷹村守はパンチでぶっ殺してたが俺にあんな打撃力はない! どうする! あ! そういえばスグルが熊倒してたな! よーし俺もキン肉バスターやってやるかってできるかボケ!



「グゴゴ!」


 ムー子邪魔だな! なんでまだ喉鳴らしてんだよ! あ、なるほど食われて呼吸する度に血が噴き出てんのか。うーんLive Leak案件。数秒後には我が身となりかねない。どうしたものか。しかたない。一か八か攻撃を……


 パン!


 !? 銃撃!? ハンターか!? お! 熊が倒れた! ヘッドショットが決まっている! 助かった! しかし、遠距離で熊の装甲抜ける猟銃なんてあるのか?



「そこの人達―! お怪我はありませんかぁ!?」


 聞き覚えのある女の声。なるほど。お前か。


「ピチウ! 久しぶり!」


「え? お兄ちゃん!?」


 懐かしいな妹よ。何年ぶりだろうか。ともかく、助かったよありがとう。

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