サキュバス、幽霊と暮らす事になりました1
居間の幽霊(敬意を込めて奥さんと呼称する事にしている)は内助の功スキルが高い。
確かに常に首を吊った状態でグロテスクな顔を浮かべているのは心臓に悪いがそれも慣れ。気立てが良く家事全般も抜かりない彼女は首の紐が届く範囲で完全に家の事をやってくれる(おでんが美味い)。ちなみに射程距離は台所から居間まで。何故紐が取れないのかは知らんが、まぁアンビリカブルケーブルみたいなものだろう。幽霊にも色々と事情があるに違いなく、深く追求しない事にする。
個人的には居て困るものじゃなし。むしろ部分的とはいえ掃除もやってくれるし料理も作ってくれるのだからちょっと癖のあるお手伝いさんだと思えばまったく気にはならないのだが、全力で全否定する奴がいるのだ。まずはこいつを納得させねばならないだろう。
「ぜっっっっっっっっっっっっっっったいにNO! 死んでも幽霊と同居なんて無理無理無理のカタツムリ! 早く祈祷師に祓ってもらいましょう! 金なら出す!」
「そう言うなよ課長。人畜無害どころか家事までしてくれるんだぞ? すごくいい人? じゃないか。慣れだよ慣れ」
「慣れんわ! 貴方頭おかしいんじゃないの!? なんで幽霊と一緒で平気なの!? 普通怖がるでしょ人間だったら!?」
「いやぁサキュバスとか出てくる世界観だし別に……」
「私達はまだ人間的な恰好してるでしょ!」
「奥さんだって人間の身体だぞ?」
「そういう事じゃ……はぁぁぁぁぁぁぁもうぉぉぉぉぉぉぉぉ嫌だぁぁぁぁぁぁぁ」
「そんなに気を落とすなよ。禿げるぞ?」
「誰が禿げ……あ、お茶ですかどうも……あ、ふぅ……」
ちょうど奥さんがお茶と煎餅を出してくれた。気の利く事だ。まったくゴス美め。人を見た目で判断するなど失礼千万だろうに。狭量が過ぎる。
「あ、ゴス美課長また寝てるんですか? 最近たるんで……あ、お茶ですか。ありがとうございます」
ふらりとやってきたムー子の目にはクマができている。なんでもスーパーチャイニーズワールド2通常攻撃のみでクリアするまで寝られません生放送とかいう無茶な企画をやっていたらしいが、クリアできたのだろうか。知ったこっちゃないが。
「お前は平気なんだな幽霊」
「私はっていうか、基本悪魔の類が幽霊怖がっちゃ駄目じゃないですかね……」
「一理ある」
「まぁ悪魔それぞれだとは思いますけど……ゴス美課長は過去に何かあったかもしれませんね。面倒くさいので詮索はしませんが」
「意外とドライな奴だな」
「そりゃ悪魔ですから。人情あったらおかしいでしょう」
「悪魔っていうより現代っ子みたいだ。米津玄師とか好きそう」
「いいですよね病棟305号室。私も大好きです」
「え? 知らん。気持ち悪」
「はぁぁぁぁ!? なんそれ!? お前が始めた会話だろうがぁ!? 責任持てよ!? 知らないならせめて へぇ今度聴いてみようかな くらいの事を嘘でも言えやぁこのコミュ障やろうがぁぁぁぁぁつぅぅぅぅぅぅぅぅぅい!!」
あんまりにもうるさいものだからお茶をぶっかけてやった。いい気味だ。
「ちょっと……うるさいんですけど」
「起きたか課長。ところで米津玄師好き?」
「え? いや、知らない。普通?」
「あ、課長おはようございます。今度貸しますので聞いてください。ハチ時代の楽曲もありますので」
「いや、私はいい」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ思わずクソデカ溜息出ちゃいますわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「私はパプリカ好き」
「お! いいですよねパプリカ! あれのせいですっかりNHK視聴者になっちゃいました! 受信料はちょっとあれですけど!」
「あぁその曲なら知ってる。あれだよね。なんか子供たちが●●●●(※自主規制)みたいな感じで歌うやつ」
「大きく語弊がある表現だな……ところで課長」
「なんですか?」
「子供の幽霊なら平気なのか?」
「え?」
あまりにナチュラルに入ってきたため気がつかなかったのだろう。いつの間にか会話の人数が増えていた事に。
「はじめましてお姉さん。私、瑠璃 マリ。この前はお姉さん寝ちゃってたからご挨拶できなかったけど、これからよろしくお願いします」
「え、ちょ……は、はじめまして……? 私は、鳥栖 ゴス美と申します……以後、お見知りおきを……」
ゴス美気絶。途切れいく意思の中でもしっかりと挨拶していった。さすがビジネスウーマン。面構えからしてムー子と違うだけある。
「ねぇお兄ちゃん。どうしてゴス美さんはいっつもすぐ寝ちゃうの?」
「毎日疲れてるんだよ。無能な部下の面倒を見たりうるさい上司に怒られたり先方に媚び諂ったり謝ったり……働くって大変なんだ。だからそってしておいてやろう」
「大人って大変。私、大人になる前に死んでよかった」
「その考え方は正しいが致命的に間違っているからあまり人の前でいうもんじゃないぞ?」
「意味はよく分からないけど分かった」
「そう。そういう納得の仕方は大事だ。人生理不尽な事ばかりだからな、そうして人は成長していくんだ」
「私幽霊だから成長しないよ?」
「あぁそうだった……」
純粋無垢なマリの声に若干心を痛める。これからはちゃんと考えて喋らないとな……あぁ、子供の相手は面倒だ。でもまぁいっか。幽霊だし。
「ところでお兄ちゃん。ゴス美さん泡吹いてるけど大丈夫?」
「まぁ大丈夫だろう。放っておこう。ところで、ゲームするか?」
「勉強終わったらね」
「そうか……」
しっかりしてんなこいつ。
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