所詮何れも盤の上

彌(仮)/萩塚志月

所詮何れも盤の上

 民主制から君主制に切り替える術はないのだ。途中まで読んだところでそのことに気付き、もう一度目次を見返してその確信を得た。

 分厚い文庫本を閉じる。やはり無理なのだ、現状を打破することなど叶わない。下剋上の為の術など何処にもない。民主制に慣れた人々の中で著書の様な破壊行為を繰り返せば、確実に極悪非道のレッテルを貼られ、終ぞ平和に慣れた人々を動かすことは叶わないだろう。現代において、非道は人を動かさない。薄々わかり切ったことでありながら、僕はまだ、深く知りもしないナポレオンやジャンヌダルクに夢を見ていた。

 各国の全体が、いつからかチェス盤から人生ゲームの盤に切り替わった。抹消、破壊はただ運命による行為となったのだ。人の手によって意図的に行われるものではなくなった。人の手によって行われるのは、何時だってお金の受け渡しだけになった。全てが、粗雑にお金によって計られるようになってしまった。お金でしか、現状を打破できないようになってしまった。

 そんなことを考える僕だって、学生と言えど、よくよく世間様から見ればただのニートだ。学生の本分は学業だというけれど、その本分だけを全うし続けて職を手にするのは確実に一握りだけ。将来的に金にならない僕の本分は、所詮ニートへの架け橋。暗闇でしか書けないせいで、身体と深夜との親和性がどんどん深くなりつつあるのも要因だ。大学に入ってから、毎夜パソコンから溢れるブルーライトをただ只管に浴びる生活が続いている。こうして浴び続けても、自身の経験から基づいた著書が貢物に値し、更にそれが読み継がれることは、現代において殆ど無いに等しい。僕の書いたものが大勢に読まれることも、きっとない。人生ゲームでもサイコロで六ばかり出す僕は、上手くマス目も踏めないまま、きっとそのうちすぐ死ぬ。誰に影響も与えないまま、先に逝ってしまった猫たちとゴールのマスで三角座りをしたまま待つ羽目になる。


 ――何か一つでも、人より秀でたところがあれば良かったのに。そうすれば、極悪非道でなくとも人を動かせたのだ。何も、全てを破壊したいわけではない。破壊をやけに推奨するマキアヴェッリのようになりたい訳でもない。しいて言うなら、僕の言葉で、人を動かしたいだけ。現代じゃもう叶わないだろう。人々に動く理由が無い。

 チェス盤だったときは、物事を良い方へ動かすことが重要視されていたように思う。人生ゲームになってからだ、全員が終わりだけを見るようになったのは。サイコロを振るだけの人生は、他にやることが無さ過ぎる。僕には酷く生きづらい。


 そう言って僕も「生きづらい」と言いながら、結局死ばかり見ているのだけれど。

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