UFO神社

口一 二三四

UFO神社

 山の上には大きな神社がある。

 長い長い石の階段を上った先の境内はいつ行っても綺麗で、竹箒を持った巫女さんが参拝者に会釈をする。

 立派な本殿へ続く石畳の道の両端にはおみくじやお守りを売る小屋と神主さんの住む家。

 赤い鳥居は所々剥げているもののまだまだ現役で、眼下に広がる町を見守り続けている。

 いつの頃からその神社があるのかはわからない。

 お父さんに聞けば自分が子供の頃にはもうあったと言い、お爺ちゃんに聞けば自分の祖父母が生まれる頃からあったと言う。

 それだけ古い時代から町と共に存在する神域。

 祭りがあれば出店とお客が押し寄せ賑わう場所。

『神主さんと巫女さんが明らかに宇宙人』であることを除けば、どこにでも建てられている神社だ。

 グレイ型宇宙人、と言うのだろうか?

 詳しい名称はわからないけど、似たような姿をしている宇宙人をテレビ特番はそう呼んでいた。

 灰色の肌色に肥大した頭。合わせるよう釣り上がったアーモンドみたいな黒目。

 その全てが竹箒で境内をはく巫女さん、神事の際に顔を出す神主さんの特徴と一致した。

 幼少時代から知っている場所、人達がまさか宇宙人だったなんて。

 気がついた時はとても驚いたけど、同時に新たな疑問も生まれた。


 一体いつから?


 お爺ちゃんの祖父母が生まれた頃から神社があるということは、ずっとずっと昔から居ついていることになる。

 しかしとりわけ宇宙人だと話題になったなんて話も記録も無く、神主さんも巫女さんもそこまで歳を取ってるとは思えない。

 いやまぁ、宇宙人が人間みたいに歳を取るのか定かではないけど。

 仮に、もし仮に。

 実は神主さんと巫女さんは殺されていて、宇宙人に成り代わられているのだとしたら。

 町を起点に星を乗っ取るつもりだったら……。

 こんな恐い話も無い。

 自分の知らない所で地球侵略計画が進んでいる。

 陰謀と好奇心をくすぐる憶測にいても立ってもいられず色々調査を始めた。

 この町の成り立ちから現在に至るまで。

 神社がいつ頃から現れて神主さんと巫女さんがどういう人物なのかまで。

 気づかれて消される可能性も考慮して、細心の注意を払って宇宙人の目的を探った。

 文献と聞き取りだけでは不十分だと感じ神社にも足を運んだ。

 もちろん神主さんや巫女さんがいない時間を見計らい、そっと本道から外れた獣道を通って境内へと入って行った。



 いつもの様に境内に入ると、神主の住む家の戸が開いているのが見えた。

 色々調べ回ったがここはまだ手つかずだったなと。

 これ幸いと近づき入ろうとして。


「……もう少しだ」


 中に誰かがいるとわかりサッと身を潜めた。


「もう少しで宇宙船の修理が終わる」


「長かったわね、アナタ」


 微かに聞こえてくるのは神主さんと巫女さんの声。

『宇宙船』という明確なキーワードを聞いて憶測が確証に変わる自分を他所に進む話は。


「この地に不時着して幾数百年。硬貨から修理に使える物質を抽出する機器を発明するのに幾数十年」


「アタシ達ようやく星に帰れるのね」


 思い描いていたのとは少し違うモノであった。


「人間のフリをしていたとは言えこの町の人達には本当にお世話になった」


「ひと時だけの仮住まいではあったけど、寂しくなるわ」


「随分とこの星、この町にいたからな。我々にとっては第二の故郷のようだ」


「……ねぇ、このままずっとは居られないかしら?」


「それは出来ない。キミもボクも歳で人間のフリをするのは限界に近い」


「今はまだ大丈夫だけど、勘の鋭い人間はもう気がついている、ですよね?」


「このまま我々が宇宙人だと解ればお互い失うモノの方が多いだろう」


「……そっちの方が、別れとしては寂しいわね」


「あぁ、だから……」


 年末年始。

 大量の小銭が賽銭箱に入れられ宇宙船の修理が完了次第この地を離れる、と。

 物悲しそうな声がもれる家に背を向け境内を後にした。

 宇宙人が神社にいる訳。

 それは何十年何百年と帰れなかった故郷に帰るため。

 自分達人間でも抱えることのある目的のため。

 世知辛い事情に胸を締めつけられる。

 それ以上の、昔から馴染みのある『町の住民』が来年にはいなくなるのかと寂しさを抱え。

 今のうちに硬貨を集めて賽銭箱に入れてあげようと心に誓った。

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