Evil Spirit

愚弟

第1話 氷の女王

 放課後のことだ。深夜までテレビゲームに熱中したせいで、午後の授業から今まで机に顔を伏せて眠っていた。深く寝すぎて、クラスメート達はもう帰宅したのだろう。起き抜けの頭をリフレッシュさせる為に、椅子に座ったまま両手を高く上げ伸びをした。その時である。右側方から突然声が聞こえた。


「あなた憑いているわ」


 誰もいないと決めつけていた俺に少々の驚きはあったが、それは両目を見開く程度の驚きだった。横を振り向くと今度は五秒程、俺の生命活動が停止した。いや、実際に停止した訳では無いのだが、声の主にそれ程の衝撃を受けたのだ。


 学校の廊下で俺に話し掛けてきたのは、芸能人顔負けの美貌の持ち主であり、学校一の有名人である神宮(じんぐう)寺(じ)千冬(ちふゆ)である。


 黒く艶やかな髪は腰辺りまで伸びるロングヘア―で、全てを吸い込みそうな真っ黒な瞳、高めの鼻梁、薄い唇、雪よりも白い程に透き通った肌の持ち主である。背丈は日本人の平均身長である俺よりも少し低い程度なので、女子の中では背が高い方に分類されるだろう。加えて、女子が羨む細身な体型である。


 高校指定である制服をさらりと着こなす彼女は、白いシャツに赤いリボンを締め、灰色のブレザーに白と黒と紺のチェック柄のスカート、紺のハイソックスに黒のローファーという服装である。彼女の制服姿は、銃を持った兵隊よりもよっぽど物騒なのではないかと思わせるほどに、美しく、神々しい。その姿を堪能できるこの学校の生徒は、人生の幸運を全て使い果たしてしまったのではないだろうか。


 しかし、僕の生命活動を停止させた程の衝撃は、彼女の美貌とは別のところにある。


 『氷の女王』それが彼女の呼称だ。勿論、名前に『冬』が入っているから冷たそうな文字を選び『氷』と付け、その美貌————差し詰め雪女と思わせる部分も無きにしも非ずだが————故に少しわがままな性格から『女王』と称される訳では無い。むしろ、その程度のことで『氷の女王』と呼ばれているのであれば可愛らしいものだ。


 彼女が『氷の女王』たる由縁は、他にある。


 今から八カ月前の四月十五日に事件は起こった。



 入学式から一週間が経ち、教室は神宮寺千冬の話で盛り上がっていた。


「神宮寺さんってどんな人だろう?」


「まだ一回も学校に来ていないなんて体でも悪いのかしら」


「俺が聞いた話ではとんでもない巨体で柔道の修業中らしいぞ」


「えっ! 嘘よ! 女優業で撮影が忙しいから登校出来ないって聞いたわ」


「私が聞いたのは学校に来る前に交通事故で入院したって話よ」


 教室では様々な信憑性の薄い話が飛び交っていた。

俺はそういった噂話に話に入ろうとはせず、最後方に並ぶ隣の空席を見つめた。座席は名簿順になっており、縦に六列、横にも六列の計三十六席だ。神宮寺千冬の席は二列目の一番後ろ。西野(にしの)創(つくる)である俺はその隣に席がある。まだ見ぬ新入生がどんな人物か口に出すことはしなかったが、空席を見つめながら頭の中で想像を巡らせた。


 実は日本人の名前だが欧米とのハーフで美人。海外から日本に引っ越すのに時間が掛かっていて欠席中。いざ登校すると日本語が苦手で、隣の席の俺が、困っている彼女に救いの手を差し伸べる。そんなやさしい俺に彼女が惚れ、二人は付き合うことに。一緒に下校して、帰りに駅近くのカフェでケーキセットを食べて、俺の家の近くの公園で夕日が照らす中、青いベンチの上で頬にキスされる。


 ……ないな。うん。ない。稚拙な妄想に耽っているとチャイムが鳴った。


 担任の小林先生が教室のスライドドアを勢いよく開けてから叫ぶ。


「席につけ! 今日はグッドニュースがあるぞ!」


俺は目を疑った。七三分けをした四角い眼鏡を掛けた仏頂面が特徴の担任教師が、恵比須顔に変身していたのだ。「気持ち悪いよ!」と心の中でツッコミを入れた。

小林先生は大きく息を吸い込み教室中に響く声で話す。

「実は————神宮寺千冬さんが登校されました!」



何だと!ついに俺の彼女候補が登校されただと⁉脳内で驚く。


 俺の驚きと同時に教室でも歓声が上がる。


「「「えぇっ⁉」」」


「どんな子だろ⁉」


「マジか‼」


「先生早く紹介して!」


 先生はスライドドアをそっと閉め、教壇へと歩く。


「ふっふっふっ。 では、紹介しましょう! 神宮司さん、どうぞ!」


 異様な笑い方に再度ツッコミを入れよう————もちろん心の中でだが————と思ったその時である。教室のスライドドアがスッーと音も立たずに開いた。

そして仏頂面が恵比須顔に変わった理由が、異様な笑い方の意味が、すぐに分かった。


 彼女は今まで出会った中で最も美しい女性だったからだ。

 クラスメート達はその美貌に言葉を失い、教室に静寂が流れた。


「ほら、神宮司さん挨拶して!」


 少し溜息を吐いた様に見えた彼女から言葉が発される。


「神宮寺です」


 凛とした透き通った声だ。


 その挨拶の後、教室中が沸いた。


「美人すぎる‼」

「本当に女優じゃない⁉」

「このクラスで良かった! あんなに綺麗な子だったなんて!」

「柔道女子って誰のことだよ!」


 様々な歓声が飛び交う。


「静かにしろー‼ それじゃあ自己紹介でもしてもらおうかな」


 先生は意気揚々と彼女に話し掛ける。


「自己紹介ですか?」


 凛とした澄んだ声で彼女が聞き返す。


「そうそう! 趣味とか入りたい部活とか!」


 すると、今度は明らかに分かりやすくため息をつきながら呆れ顔でこう言った。


「皆さんにお願いがあります。私に話し掛けないで」


 俺は耳を疑った。この絶世の美女は何て言ったのだろうか。聞き間違いか。そうだよな。聞き間違いだ。教室中が静まり返っているがきっと集団幻聴だったに違いない。きっと彼女が魔法使いで教室全体に幻術が掛けられたのだろう。そんなことを考えていると、勇気を出した先生が少し困り顔で質問する。


「神宮寺さん? それは一体どういう……」


 言葉を遮るように彼女は答える。


「言葉の通りです。 私、誰かとコミュニケーションを取るつもり無いので」


 『氷の女王』が誕生した瞬間だった。


 誰も言葉を発さない教室の中を一瞥すると、唯一の空席を見つけた彼女がこちらに向かって歩いて来る。


新しいお隣さんに挨拶の一つでもすることが紳士の嗜みではないだろうか。しかし、話し掛けないでと言われたので話し掛けない方が無難なのか。その様な考えを巡らせながら椅子に座った彼女を見つめる。


「気持ち悪いから見ないでくれる?」


 笑顔で発された彼女の一言は女性経験が少ない俺を地獄へと突き落すのに十分な一言だった。反撃の気力も起こらない俺から反射的に出た言葉はこの一言だった。


 「ごめんなさい」


 その後、現在に至るまで、勇気を出して彼女に話し掛けた者も数人いたが、見事に玉砕された。何を話しても笑顔で「話し掛けないで」の一言に一蹴されたのだ。


 こうして神宮寺千冬は『氷の女王』と呼ばれるようになったのである。


 過去の経験から俺は神宮寺千冬が苦手なのだ。むしろ、得意な人は誰もいないだろう。彼女はそれ程までに周囲を拒絶しているのだ。さて、事もあろうにそんな『氷の女王』たる彼女が、俺に話し掛けているこの事実をどう受け止めればいいのだろうか。


 周囲から話し掛けられることはあっても自ら話し掛ける姿を見た覚えは一切無い。話し掛けられたということは、彼女と話す機会を与えられた唯一の人間ということでいいのだろか。そして、気になることがもう一つある。


 俺と話す為にずっとこの教室で待ってくれていたということになるのではなかろうか。もしそうであれば、一体なぜだろうか。よもや彼女が俺に好意を抱いているということはあるまい。何か理由があるはずだ。その理由を知るべく、勇気を振り絞り彼女と会話を試みよう。


 幸いにも俺が爆睡していたせいで周囲には彼女以外誰もいない。彼女が苦手な俺はおそらく敬語で話をするだろう。クラスメートに敬語を使うその情けない姿を晒さずに済むことが唯一の救いだ。


 何を話そうかと思案していると気掛りな言葉を思い返す。「ついている」と言ったのだ。それはどういう意味だろうか。運がいいのか、制服に埃でもついているのか、鳥の糞でも頭についているのか。


「あの……神宮寺さん『ついている』とは一体どういうことでしょうか?

 俺の返事は予想通りの敬語だった。


 彼女は少し面倒くさそうな表情で肩をすくめてから答える。


「憑いているわ。 悪霊が」


「悪霊? 悪霊とは幽霊のことですか?」


予想外の「憑いている」に戸惑いながら質問をする。


「広い意味ではその解釈でもいいわ。 細かく分類すると違うけれど」


 細かい分類については一旦置いておき質問を続ける。


「えっと、幽霊とか信じるタイプですか?」


「あなた……学(がく)がないのね」


「ごめんなさい」


 彼女に累計二回目の謝罪をする。


 彼女は大きなため息をついた後、言葉を続ける。


「まぁいいわ。 特別に説明してあげる。 まず、幽霊は善(ぜん)霊(りょう)と悪霊に分かれるわ。 善霊は良い事をもたらしてくれる場合もあるけれど、何も害が無いものと解釈することが一般的かしら。 対して悪霊ね。 悪霊は様々な危害を及ぼすわ」


「危害とは?」


「そうね。 まずは悪霊の種類から説明が必要かしら……」


 そう言うと、今度は明らかに面倒くさそうに黒いスクールバッグからメモ帳を取り出し、ペンを走らせる。


彼女の達筆ぶりに驚きつつも、書かれた三行の文章を見やる。


 ランクⅠ 【暗(あん)】 個体の魂から成る悪霊 

 ランクⅡ 【墜(つい)】 複数の魂が集まり形成される悪霊

 ランクⅢ 【獄(ごく)】 無数の魂を食した【墜】から生まれる突然変異

 

 幽霊なんて存在しないと思っていた俺だが『氷の女王』と称される彼女が俺に話し掛けること事態が相当なレアケースであり、彼女が俺に子供を騙す様な嘘を吐く理由も見当たらない。しかし、だからと言って「悪霊が憑いている」と言われてそのまま鵜呑みにする程、子供ではない。


「説明の前に証拠を見せて欲しいんですが……」


「はぁ……仕方ないわね」


 彼女は再度、スクールバッグに手を伸ばし、丸い手鏡を取り出す。

 鏡を覗くと、如何にも平均的な顔をした自身の顔が写った。


 地毛で少し茶色っぽい髪の毛は所々跳ねており、彼女の半分ぐらいの大きさの目――一般的には決して小さくはないが彼女が大きすぎる――に、低くはない日本人らしい丸目の鼻がついいている。口元には唯一のチャームポイントとである黒子がある。紺色の学ランもは第一ボタンだけ外され、そこから白いシャツが顔を覗かせている。


「自分の顔以外は何も写ってないのですが……」


「そうね。 不細工ではないけれど、整っている訳でもない平均的な顔しか見えないでしょうね」


 自分で平均的とは認めてはいるものの、他人に言われると少し不満な気になりそうなものだが、彼女に言われても反論する気さえ起きないのは不思議な感覚だ。彼女の美貌のせいだけでなく、彼女に反論したところで太刀打ちできないと直感的に感じているのかもしれない。


「証拠は一体どこに……」


「西野君はせっかちね」


「えっ……俺の名前を覚えてくれていたのですか……」


「入学式の日から今日に至るまで、隣の席に座っている私を一日に何度も横目でチラ見してくる気持ちの悪い人ですから。 いつかあなたにストーカーされた時に警察にすぐに相談出来るように名前ぐらい覚えているに決まっているじゃない」


「そんなに気持ち悪いですか……?」


 メンタルは強い方だと自負しているが、それでもさすがに心が折れそうだ。

「今から鏡に悪霊を写すわ。 鏡を見ておきなさい」


 今度は無視ですか。何て自分勝手な人なのでしょうか。


 鏡に集中することにしよう。


「悪霊を写し出すわ。 鏡を見ていて」


「はい」


 彼女はスクールバッグから真っ白な数珠を取り出すと、左手に数珠を二重に掛け、言葉を唱える。


「悪しき魂よ。 我が呼び掛けに応え姿を現せ!」


 光を当てた訳でも無いのに、鏡が白い光を放つ。咄嗟の眩しさに目を瞑り、恐る恐る目を開ける。


「今度はハッキリ見えたでしょう?」


 鏡には先程と同じように平均的な顔をした俺が写っているが、その背後には骸骨が写っている。骸骨は所々が破けた黒い羽織を被り、両手を俺の両肩に乗せている。


「おわっ‼」


 絶叫こそしなかったが、驚きの声を上げる。それと同時に背筋が寒くなる感覚を覚える。


「あの……これは……」


「言ったでしょ? 憑いてるって」


 彼女は鏡を俺から取り上げると、数珠と共にスクールバッグに片付ける。

 悪霊と言われて実感が湧かなかったが、手品でもないだろうし、彼女が嘘を言っている様にも思えない。まさか本当に悪霊が憑いているのか。半信半疑だった俺だが、実物を見せられた以上は信じる方に心が傾く。


「俺はどうしたらいいですか?」


「それを今から説明するわ。 さっきは話を遮ったり忙しい人ね」


「ごめんなさい」


 また謝ってしまった。三回目の謝罪である。


「及ぼす危害は悪霊によって異なるけれど、どのランクの悪霊でも魂を食す。ここは共通しているわね」


 メモを俺に渡すと、彼女は机に片肘をつきながら説明する。


「魂を食すとはどういうことですか?」


「簡単に言えば人を殺すわ」


「えっ……」


 思考が停止する。俺は死んでしまうのだろうか。ろくに誰かと付き合った事のないまま、短い人生に終わりを告げるのだろうか。様々な思いが頭を駆け回る中、彼女は淡々と説明を続ける。


「生きている人をそのまま食すタイプもいれば、殺してから食すタイプもいるわね」


 どっちにしても死ぬのか。どちらかと言えば殺されてから食べられる方がマシかな。とりあえずどちらのタイプか聞くとしよう。


「俺に憑いている悪霊は?」


「今から説明してあげるから少し待ちなさい」


「ごめんなさい」


 早くも彼女に四回目の謝罪をする。


「悪霊は実体を持つタイプと人に憑くタイプがいるのだけれど、あなたは後者ね。 不幸中の幸いと言うべきは人に憑くタイプは全て【暗】に分類されているわ。 ランクはアラビア数字が上がるごとに強くなるからランクで言えば低ランクに分類されるわね。 ちなみに【獄】の悪霊だと自然災害を引き起こして大量の魂を食したりするわ」


「えっと……話の腰を折るみたいで悪いのですが、この話が嘘ということは……」


「無いわね。 本当よ。 私が嘘を吐くタイプに見える?」


「で、ですよね」


「話を続けるわ。 人に憑くタイプは実体を持たないからあなたを殺してから魂を奪おうとするわ。 例えば、体を乗っ取って横断歩道の信号が赤でも交差点に進入させたり、精神を乗っ取って自殺させたりとかね」


「退治とか出来ないのですか?」


「質問が多い人ね。西野君って。 出来るわ。 ここからが本題ね」


 そう言うと、彼女は俺の両目を見つめる。このような状況下でも、容姿端麗な彼女に見つめられると、心臓の鼓動が早くなるのは男の性なのだろうか。きっと俺の頬は赤く染まっているだろう。その大きく黒い瞳に、今にも吸い込まれそうになる。


 一拍置いて彼女は言う。


「実は私、エクソシストなの」


「エクソシスト?」


 聞いたことはある。確か昔のホラー映画であったような気がする。


「映画のことですか?」


「あなた、本当に学が無いわね」


「ごめんなさい」

 これ程のハイペースで謝罪したことがあるだろうか五回目の謝罪である。謝罪の回数を競う大会でもあれば優勝出来るんじゃないか。


「除霊士と言えば分かりやすいかしら?」


「その言い方なら分かりました」


「それは良かったわ。 それで本題なのだけれど、私が除霊してあげるから一つお願いを聞いてくれないかしら?」


 あの『氷の女王』からのお願いとは一体どんなことを言われるのだろうか。大きく深呼吸をしてから質問をする。


「……お願いとは?」


「私の元で働いて欲しいの」


 会社でもやっているのか。とりあえず話を続けよう。


「ちなみに働かないとどうなりますか?」


「除霊しなければあと三日程で殺されるわね。 どうしても働かない場合は別の方法もあるわ」


「それは一体何ですか?」


「一千万円で除霊してあげるわ」


「働かせて下さい」


 間髪入れずに答える。


「高額に感じると思うけれど、こちらも命懸けで除霊するのよ。 これでも高校生相手だから相場より格安で提案してあげたのよ。 感謝しなさい」


「ありがとうございます」


「ところで働くというのは、まさか会社か何か経営をされているのですか?」


「その通りよ。企業や個人から除霊の依頼を受けているの。一人だけ従業員を雇っていたのだけれど、最近辞めてしまって困っていたのよ」


「具体的な業務内容は?」


「そうね。 接客、経理、電話対応、掃除、現場でのサポートぐらいかしら」


「結構多いですね……」


「あら?嫌なの?」


「いえいえ! 喜んで働かせて頂きます!」


「一応、時給も出すわよ」


「え! 本当ですか?」


「当たり前じゃない。雇うんですから。時給は五百円よ」


「五百円⁉法律上の最低賃金はどうなって……」


「一千万円」


「え?」


「あなたは一千万円を即支払えるの?」


「それは働くことで相殺されるはずでは……?」


「相殺なんて誰が言ったの?今すぐ支払うか、私の元で働きながら返すかの二択よ。無給は憐れだから、一千万円から差し引きつつ、時給をあげようとした私のやさしさが伝わらなかったのかしら?それとも短い人生にしたいのかしら?」


「時給五百円で働かせて下さい」


「契約成立ね。それじゃあ三時間後にここに来てくれる?」


 そう言って渡された白地の名刺の表面には縦書きで神宮寺除霊事務所と記載されており、代表兼エクソシスト神宮寺千冬の名前があった。裏面には所在地が記されている。


「さっきの悪霊憑いたままですが⁉」


「大丈夫よ。まだ何も出来ないから」


「まだとは?」


「悪霊が憑いた場合は、あなたの霊気を吸い取って成長するの。あなた自身に影響が出るまで、あと三日は掛るはずよ。あと一回憑かれたら、除霊されるか宿り主が死ぬまでは離れないから、他の人に憑くこともないわ」


「分かりました」


「三時間後、二十時に学校のグラウンド集合にしましょう」


「かしこまりました」


「あ、それから敬語、気持ち悪いからやめた方がいいわ」


「なっ……! もっと早く言ってくれよ!」


「上下関係を弁え(わきまえ)ていると少しばかり感心していたのだけれど、ずっと敬語で話されていたら気持ち悪くなってきたわ」


「じゃあ敬語はやめさせてもらおう」


「それと、私のことは社長なんて呼ばなくていいからね。同級生なのだから千冬でいいわ」


「それは気が引けるので神宮寺でいいか?」


女性経験の乏しい俺が下の名前で呼べる訳がない。

「構わないわ」


 彼女と一緒に帰っている所を誰かに見られると色々と問い詰められそうなので、一足先に教室を出ようと思った時、ふと頭にあるよぎった。なぜ彼女はあれ程までに周囲を拒絶していたのだろうか。節々で棘のある言い方や上から目線は感じたものの、今までの『氷の女王』と呼ばれる彼女とは別人の様な印象を受けた。意外と話せる人物だと感じた。


「まだ何か?」


「まぁその何て言うか……意外と喋るんだな。神宮寺って。 何であんなに周囲を遠ざけるんだ?」


「あなたには関係無いわ」


「連絡先教えておくから何かあれば連絡して頂戴。 あと、学校では一切話し掛けて来ないでね。 気持ち悪いから」




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