106話:後輩の未来さん
体験入部週間も終わり、今年も新入部員が正式に入部してきた。計15人。私達三年生と一つ上の代を足した人数より少し多い。随分と賑やかになったものだ。
一年生はそこからそれぞれバンドを組むことになるのだが、ベースが足りなくて上手いこと分かれられないようだ。15人居てベース希望者はたったの1人。この間体験に来てくれた杉山さんのみだ。
「一年生ちゃん達や。ベーシストは意外とモテるぞ」
「そういうアピールの仕方なんかやだな……」
「てか、モテたくて楽器やるやつってダサくない?」
雫が苦笑いしながら言うと、一年生のうちの何人かが目を逸らした。そんな中、一人の男子が「ベーシストとギタリストってどっちがモテますか」と真剣な顔で質問を飛ばす。雫の容赦ない一言の後にそれを聞けるメンタル凄いなと半分呆れつつも感心してしまう。
「ギターの方が派手でカッコいいけど……まぁ、結局は人によるかな」
「クロッカスは半々だったよね」
「あれは……正反対なタイプの二人だったしね……分かれるわな」
「闇属性と聖属性って感じだったもんな」
「聖属性……
炎華の例えに、なるほどという顔をする新くん。「別にかけてねぇよ」と苦笑いする炎華。
「結局どの楽器でもモテる人はモテるし、モテない人はモテないから、モテたいからで楽器選ぶより自分のやりたいやつ選んだ方がいいと思う」
「最悪ベース無しで組むか、杉ちゃんとかまっつん達が兼任するか、外部からスカウトしてくるか。その辺はまぁ、君たちに任せるよ」
その日一日話し合い、なんとか譲り合いの精神でなんとか三つのグループに分かれることが出来た。
「基本、あたし達は部活単位で何かするというよりは、グループ単位で活動することがほとんどだけど、なにもこのメンツでずっとやっていかなきゃいけないわけじゃないからね。好きにメンバーチェンジしたりして良いから。あと、先輩達から積極的に何か教えることはありません。各自好きにやって、分かんないことがあったら先輩に聞きにくるって感じです」
「まぁ、キーボード以外は三人ずついるから、困ったら頼ってね。遠慮してると独学でやる羽目になるから」
さて、グループが増えた分、部室を使える回数も減ることになる。流石にこの狭い部室で全員で練習することはできない。そのことに関して説明をしてから、各楽器ごとに分かれて練習することに。
「一人につき一人ついて練習するか? ちょうど三対三だし」
「そうだね。じゃあ、私は杉山さん担当しようかな。私の演奏見てベース好きになったって言ってくれたし」
「へー。そうなの」
「は、はい」
「先輩、駄目ですよ後輩たぶらかしちゃ」
「たぶらかしてないってば。もー。杉山さん、おいでー」
ちょこちょこと遠慮がちに寄ってきた彼女にベースと譜面を渡す。弾き方はこの間教えたばかりだ。その日、実際にベースを触ったのは初めてだと言っていたが、もう基本をマスターしている。
「家で練習した?」
「はい。ベース買ってもらいました。練習楽しくて、毎日やってます」
「お。好きこそものの上手なれっていうからね。練習を楽しめるって強みだよ」
「えへへ」
照れ笑いする顔が彼女に重なる。やっぱりこの子、未来さんに雰囲気が似ている。可愛い。癒される。未来さんが後輩だったらこんな感じだったのだろうか。未来さんが後輩。私のことを咲先輩と呼び、敬語で話しかけてくる未来さん。うん。たまらなく可愛い。今も可愛いけど。
などと妄想をしていると「仕事しろ」と炎華に頭を叩かれる。完全に妄想の世界にトリップしてしまっていたようだ。
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