64話:恋の力
夏休みも残り一週間となった。
思い返せばこの夏は、未来さんといちゃいちゃしかしてない気がする。いい加減、課題に手をつけないとまずい。夏休み前に休み時間を使ってやった分しか進んでいない。残りがどれだけあるかと考えてしまうと現実逃避したくなるが、流石にそうもいかない。
「というわけで、課題が終わるまで会わないことにします」
と、彼女にメッセージを送る。ショボンと言わんばかりに悲しそうな顔文字一つが返ってきた。この顔文字と同じ顔してる彼女が容易に想像出来る。可愛い。可愛すぎる。
彼女の可愛さに悶えつつ「夏休み中にもう二、三回会えるように頑張ります」と返すとファイトと拳を突き上げる顔文字で返してきた。はい可愛い。
そして「頑張ってね」とボイス付きスタンプ。私が未来さんに声が似てると言っていた声優の
「逆に会いたくなっちゃうじゃないですかー!もー!」
私の彼女は可愛い。世界——いや、宇宙一可愛い。
付き合い始めた頃は自分が可愛いという自覚が無く「可愛い」と言われると「そんなことない」と顔を真っ赤にしながら否定していた。あざとさのかけらもない天然の可愛いだった。
しかし最近は可愛いことを自覚してきている。天然の可愛いに加えて、あざと可愛いを使いこなせるようになってしまった。この返しは多分、私が可愛いっていうと分かっててやっている。試しに「可愛い」と返すと、ドヤ顔をする犬のスタンプで返ってきた。そしてその犬は、もっと褒めていいぞと言わんばかりに頭を差し出してきた。何だこのあざといスタンプの使い方。可愛すぎてキレそう。
声に出ていたのか、兄から「うるせぇよ」とLINKが送られてきた。「うるせぇ。今から課題やるから絡んでくるな」と返して、スマホを置く。
『可愛い』に対する昔の未来さんの返しと今の未来さんの返しのどちらが好きかと問われれば、断然後者だ。あの初々しさが恋しい時があるのも事実だけど「そんなことない」と否定されるよりは「ありがとう」と素直に受け取って貰えた方が嬉しい。
昔、社交辞令を素直に受け取って喜んだら馬鹿にされたことがトラウマだと彼女は言っていた。私は彼女に社交辞令を言ったことが無い。言えない。言う必要ない。可愛いも好きも愛してるも綺麗も、褒め言葉は全て本心から出てしまうから。彼女ももう、それは重々理解してくれているのだろう。それがたまらなく嬉しい。大好きだ。
「はぁ……会いたい……いちゃいちゃしたい……」
終わりが見えない課題の山を見るとため息が漏れる。自分で言っておいてなんだが、これが終わるまで彼女に会えないのかと。
いや、逆に考えよう。これさえ終われば彼女に会える。何も気にせず思う存分いちゃいちゃできる。
そう思うと俄然やる気が出てきた。
そうして、山ほどあった課題はわずか三日で終わった。恋の力、恐るべし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます