36話:サプライズ計画
あと二週間で三年生の卒業式。その前日に、三年生を送る会がある。生徒会が各部活まわってビデオレターを撮っているが、うちは三年生が居ないからまわってこない。
ただ、代わりに、送る会でやるライブの練習に専念できる。
「はぁ〜……疲れた。休憩」
「そういえばみんな、学科もう決まってるよね。どうなった?」
休憩に入ると、きららさんから質問が飛んできた。一年生は全クラス共通だが、二年からは学科が別れている。一、二組が情報処理、三、四組が国際ビジネス、五、六組が経理、七組が特別進学クラス。
音楽部一年の内訳は、私となっちゃんとデルタの三人が情報処理科、こなっちゃんが国際ビジネス、財前さんが経理で、加瀬くんが特進だ。
ちなみに、鈴木くんは特進、小桜さんは経理、そして意外なのが、姐さんが特進。鈴木くんから聞かされた時は耳を疑った。彼女は得意科目を聞いたら保健体育と答えるような人だから。全体的に勉強は苦手だが、情報処理だけはまだマシらしい。
「満ちゃんが進学?マジで?あの子赤点ギリギリで戦ってんじゃなかったの?」
「あたしも、ちるが進学って聞いた時は耳疑いましたよ」
「俺もびっくりしたよ。授業中もやる気ないし『私のテストは50点満点だから』とか言ってたのに……」
「……姐さん、成績良いと思ってた」
「地頭は良いのよ。やる気がないだけ」
実さんがそういうと、部員達が一斉に彼女の方を見る。
「……な、なに?」
「いや……詳しいですね。月島さんのこと」
「実ちゃん、あの子のテスト勉強見てあげてるもんね」
ニヤニヤする空美さん。実さんは普段姐さんに対して冷たいのに。典型的なツンデレだ。まぁ、彼女が素直になれないのはきっと、何かしらの事情があるからなのだろうけど。
「あ、満ちゃんといえばさ、あの子、今度誕生日なんだよ。知ってた?」
「なんでわたしに言うんですか」
「実ちゃん、お祝いしてもらってたでしょう?お返ししなきゃ」
「……言われなくても考えてます。来週、柚樹と買いに行く予定です」
「おっ。偉い。てか、誕生日知ってるんだ」
「頭撫でないでください」
「ごめんごめん」
姐さんの誕生日は3月3日。卒業式の二日後だ。そろそろ私も何かしら用意しなければ。
「空美さんは何か渡すんですか?」
「この間ゲーセンで取った棍棒の抱き枕」
「どういうセンスだよ」ときららさんからツッコミが入る。私も同じことを思った。
「鬼に金棒ならぬ満ちゃんに棍棒か……」
柚樹さんが呟く。ヤンキー座りして肩に棍棒を乗せている彼女が容易に想像出来てしまう。
「てか、空美さんゲーセンとか行くんすね」
「近所のゲーセンにドラムの音ゲーがあってね。結構ハマってるんだ。どうしても弟の記録を越えたくて。……まぁ、パーフェクトフルコンボされたから並ぶしかないんだけど」
「弟って、文化祭来てたあの大人しい子ですよね。七希くん……でしたっけ」
「そう。来年から双子の姉と、満ちゃんの弟と一緒に君たちの後輩になる予定だから、よろしくね」
「新くん、うちの部来るかなぁ」
珍しく目を輝かせる柚樹さん。姐さんと仲良いのは知っていたが、弟の方とも仲良いのか。
「ポチは多分、演劇行くと思う」
「えー……やだぁ〜。一緒に音楽やりたい〜」
ぶーぶーと唇を尖らせる柚樹さん。よっぽど姐さんの弟を気に入っているらしい。
「柚樹くんにそんなこと言わせるなんて。ポチは人たらしだなぁ……」
「みぃちゃんがそれ言うの?」
きららさんの言葉にうんうんと頷く部員達。
「えぇ?私はそんなことないよ」
「自覚がないのが厄介だよな」
「従妹の方は逆に分かってやってるわよね」
「うみちゃんのあれはファンサだから」
「好きでもない女によくあんな優しく出来るわね」
「ちゃんとこれ以上踏み込ませないように一線引いてるところがまたずるいよなぁ」
「お前が言うな」と総ツッコミを受ける柚樹さん。
「さー。ギターの練習してこよーっと」
「ゆず。練習するならここでやれ」
「えー。俺、外で弾きたい気分なんだけど」
「絶対サボる気だろ」
「信用無いなぁ……俺」
「自業自得」
「おっ。きらら、そんな言葉知ってたんだ」
「おい」
「ごめんごめん。真面目にやりまーす」
「みんなも適当に練習再開してね」
グループごとに集まり、練習を再開する。
彼女が卒業するまであと二週間。一緒に学校に通えるのはもう両手で数えられる回数しかない。
今回作った曲は、卒業して次の道へ進む彼女へのエールとほんの少しの寂しさを元に作った。タイトルは『さようなら。またいつか』
送る会でなっちゃんに歌わせるものは、三年生全員に贈る歌だから、歌詞は恋情ではなく友情を意識して、最初に作ったものより少し書き換えているが、元の歌詞はまだ残っている。こちらは彼女が卒業した後にサプライズで贈る予定だ。もちろん、ボーカルは私。
卒業まであと二週間。彼女は喜んでくれるだろうか。
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